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最高神

 勇者たちは継名に私の世界に次元斬りで送ってもらいました。

 一度行ったことがあるところは、継名の方が早いです。

 勇者たちは、太田勇者とクライシアにお願いすることにしました。

 面倒見のいいクライシアのことです。

 きっと何とかしてくれるでしょう。

 私の勇者ですからね。

 頼りになります。


◇◇◇


 案内の女神は逃げ出してしまいました。

 行き方はわかっています。

 案内は必要ありません。


「行きましょうか。継名」


「イミュー、一応作戦だが」


「作戦? 作戦も考えてくれたんですか」


「たいしたものじゃない。まずは、お前は勇者を連れてきたていで好きに話すといい、交渉が決裂したと思ったら、俺はお前より前に出るから、全力で俺に回復魔法をかけろ。俺はこいつで全力をたたき込む」


 継名は、刀を指さしました。


「それで倒せればよし、倒せなければ、基本離脱する」


「逃げるってことですか」


「ああ」


「逃げきれますか?」


「次元斬りで俺の世界の方に逃げる。俺のような次元を超えた空間把握能力がなければ追っては来れないだろう」


「こっちの私の世界とか攻撃されたらどうしましょう」


「ずっと逃げるわけじゃない。最高神の魔法を少しでも解析できれば、あっちの世界で、能力の相性がいいやつを連れてきて再戦する。……本当は今も連れてきたいところだが、イミューは話し合いがしたいんだろう?」


「そうです」


「なら、付き人は俺一人でいくしかない。出来るだけ後ろでだまってみてるからな。正直、初見でわけのわからん魔法攻撃を仕掛けてきたら、守ってやる自信はない。それでも行くんだな」


「もちろんです」


「そうか」


 継名はいつもの頑張る者を応援する笑顔で私を見ました。


「がんばれよ。イミュー」


「はい! がんばります」


 私は迷いなく返事をしました。

 覚悟は決まっています。

 私は、継名と一緒に、最高神様の神の間へと歩みを進めました。


 過去は振り返らない。

 今の積み重ねが未来をつくっていく。

 前だけ向いて、突き進んでいく力強さがわいてきます。

 こんなポンコツな私だけど、神だから、

 全力で頑張って行くしかない。

 ここが一番の頑張りどころです。


 門をくぐり、少し暗がりを抜けると最高神の間に出ました。

 足場はありますが宇宙のように感じる部屋です。

 その中央部に最高神様はいました。


「最高神様、勇者を連れてきました」


 私は一礼しました。


「ほう……お前か」


 どうやら私のことを覚えているようでした。


「よくやった、では勇者を前に」


 私はぐっと拳を握りしめます。


「その前に私の話を聞いてはいただけませんか」


「いいだろう」


 前世で私と私の勇者を殺した手がすぐそこにあります。

 震えそうになる体にむち打ち私を口を開きました。


「私が世界を創ったのは、最高神様あなたがきっかけでした」


 私はまっすぐ最高神様を見つめます。


「きっかけがあなただったとしても、私は創生の女神、自分の理想の世界を創る者。私は未熟で思い通りには世界を創ることができず、いまだに争いはなくなりません。それでも、私は、自分が創った世界のすべての生きとし生けるものすべての者が笑顔でいられるようにと願い見守ります。だれもが精一杯生きられる世界になってほしいのです。私は自分の理想の世界ために命をかけたいと思っています。最高神様は、私にどういうつもりで私に世界創生を命じたのでしょうか」


「そんなことを気にする必要はない」


「そういうわけにはいきません。私はいまだにあなたのことを最高神『様』と呼んでいます。それは創生の女神にしてくれたことまでは、否定したくないからです。だけどもう『服従』はしていないのです」


 継名にあえてかけてもらっていたバットステータスはいつの間にか形を変えていました。


スキル詳細

[耐服従]屈服しない強き心 


「教えてください。でなければ、私は従えない」


「自分で解いたというのか」


「いいえ、自分の力ではありません。あそこにいる方は、勇者ではなく別世界の神なのです。私はあの方の助力を得て、今ここにいます」


「勇者でなくても別によい。レベル1000に到達していれば」


「はい。私はあなたがレベル1000である神レベルに到達したものを殺し、レベルを上げていることを知っています」


「……お前は前世の記憶も思い出したのか」


「どうしてそんなことをする必要があるのですか。レベルを上げることに意味はありません」


 私の言葉に、最高神様は顔を真っ赤にして、怒りを露にしました。


「意味はないだと、ふざけたことを」


「レベルはただの指標です。本当の強さなどではありません」


「そこまでいうのなら教えてやろう。ワシは最高神、すべての頂点であらねばならない」


「すでに頂点ではないのですか?」


 最高神様より位の高い神は存在しません。


「ワシは頂点に立つべき存在なのだ。なのにその頂点に立つべきということすら創られたことなのだと気づいていしまった。そんなことに耐えられると思うか?」


「創られたとはどういうことですか?」


「この神の世界もまた上位世界に創生された世界ということだ」


 神である私が自分の世界を創生

 頂点に立つという風にさらに上の存在から作られたのだとしたら、存在自体が矛盾しています。


「我は我を創った上位存在すら越え、真の頂点に立って見せる、そのためには膨大な経験値が必要なのだ。そうせめてレベル千に到達せしものでなければ、我のレベルは上がらぬ。千を超えている我に従わぬ神々は我の経験値として、我が喰らった。ワシに従うもの、創生の力を持つ千に満たないものは、洗脳し、千を超える者どもを育て上げるように指示をだしたのだ。ちょうどお前のようにな」


「じゃあ、あなたはただ経験値のために世界を創り、壊したというのですか」


「そうだが、それの何が悪い」


 分かっていた。そんなことは想像できていた。だけど、事実は違って欲しいとどこか思っていたのです。


「自分で創ったものを壊しただけだぞ」


「ですが、そこに住む人々は感情、心があります」


「だからなんだというのだ」


「私は世界を見守りたい。あなたの考えは許容できません。

 そうです。私の方こそ『だからなんだ』です。

 この神々の世界が上位世界に創生された世界だったとして、『だからなんだ』というのですか。

 私はこの世界を精一杯生きるだけです。

 指示を取り消してください」


「何を馬鹿なことを、これ以上お前に話すことはない。それにここまで話したのだ、経験値の足しにはならんが、お前を生かして返すと思うか?」


 最高神様が目を見開き殺意をあらわにしました。


「イミューもういい」


 継名が前に進み出ます。


「ですが……」


「どうあがいたって分かり合えない奴はいる。相手の言葉が理解できないこともある。もうそうなったら、いつの時代も、どんな世界でも自分の正義を押し通すまでだ。相手は一人、こちらは二人、あの悪魔を倒した時のように、お前が回復してくれれば、あんな神なんか余裕で倒せる。作戦通りいくぞ」


 継名が刀に手をかけます。

 ただ私の気持ちが定まらなかったせいで、継名が一歩を踏み出すのがおくれました。


「お前たちは、勘違いしているようだな。我は、神格を与えることができる神ぞ」


 最高神様が言います。


「だからどうした」


 継名が深く構えます。


「つまり、与えることができるということは奪うこともできるということだ」


「何!?」


「何千年も神として生きてきた者が、ただの小娘に戻れば、どうなるかなんてわかるだろう」


 最高神が手をかざすと、私の体がぐらりと傾きました。

 私の中から形のないものが引き抜かれます。


 ステータスにあった神の文字が薄れていきます。


 力が抜けていく、創生の力も、癒しの力もなにもかも、

 それどころか、アストラル体のはずなのに、胸の鼓動も聞こえてくる。

 いつの間にか実体にもどっていました。

 急に時の流れが加速していきます。


 覚悟してきたはずなのに、

「継名、どうしよう? 私死んじゃうの?」


「大丈夫だ。このくらい心配するな」


 継名が抱き起こしました。


「継名?」


 継名が触れている部分から別の強い力が流れ込んできます。


「お前はいらないかもしれないが、俺の神格をやるから」


「そんなことをすれば継名が……」


「大丈夫、俺は神である前に、妖怪だ。妖怪は不死ではないが、不老だ神格亡くなったぐらいで死んだりはしない」


 私を座らせると、

 前に進み出ました。

 髪が白く、目が真紅へと変わり、実体を伴った妖怪の姿に変わっていきます。


「お前の神格も奪ってやろう」


「俺の神格はこの世界の物とは違う。お前ごときに奪われはしない」


 継名のステータスの種族から神の文字が消えます。

 なぜか名前も変化していきます。


「俺の世界の神々は、俺達と敵対することを恐れ、俺に神格を与え、味方に引き込むことを選んだ。神格は、神の力を与えると同時に、妖魔の力を抑え込んだ。妖魔の力は、神の力を阻害する」


 魔を封じ神となす。


「俺の神格は神々との友好の証であり、妖魔の力の枷でもある」


 神としての力が私にわたっていくと同時に、継名の魔の力が開放されていきます。


「俺の名は天魔継名、神を滅する名を継ぐ者、お前は生かしておかない」


 天満(神)は天魔(妖魔)に変わりすべての神を滅するのでしょう。

 [神殺し]のスキルが変化していきます。


スキル詳細

[神滅]あらゆる神の存在すら許さず滅することができるスキル


「なあ、わかるだろう。俺は神ではなく、妖怪だったころの方が強いぞ」


 突然、継名のレベルが動きだしました。

 継名がいままで殺してきた、神々の数をカウントするように。


「なっ⁉ 儂より上だと、お前そのレベル、どれだけ神レベルのものを殺した?」


「またレベルか、相変わらずこの世界の連中はレベルが好きだなぁ。殺した数を覚えている奴が越えられるはずがないだろう。自分の器をな。大体お前たちが語るそのレベルの基準はなにか考えたことがあるのか?」


「基準だと」


「そうだ。ヒントをやろう。お前らが語る神レベルとやらは『誰』が設定した基準なんだろうな」


「なに?」


「まあ、わからないだろう。当人たちにとってはそれが普通であり、想像もつかないだろうな。よそ者の俺が教えてやろう。お前が上位存在になれると信じてひたすらあげているレベルとやらは、上位存在がお前らを管理しやすくするための目安だよ」


「なんだと、そんなわけあるか」


「ゲームのようにわかりやすく表示できること自体が、お前たちが管理しやすいように作られていることに他ならない」


「何をいっている?」


「お前がどれだけ、レベルを上げようと、レベルという枠にとらわれている時点で上位存在の掌の上なんだよ」


「ふざけるな! ワシはなにをしていたというのだ」


「ただの無駄な作業だよ」


 継名の言葉に、最高神様は怒りが頂点に達しました。


「お前なんぞの、経験値はいらん。ワシの力で存在すら消し飛ばしてくれる」


 魔力が高まり、魔法が放たれます。


 ……。


 継名は変わらずそこにいました。


「な、なぜだ。時空魔法だぞ、時間を巻き戻したのだぞ、せいぜい生きていたとしても数千年だろうなぜ滅しない」


「そんな魔法が効くか。今度はこっちから行くぞ」


 継名が激しく踏み込みます。


[神滅]×[絶対切斬]

[破滅斬]

 

 光速すら越える超高速は、時空すらも切り刻み最高神様を一瞬で切り刻みました。


「あああ、その力があれば、上位存在どもに……」


 ボロボロに崩れていきます。

 転生すら許さない、魂すらも崩壊させて。


「気に食わねぇやつは全部たたっ切ってやる。だが、あったこともねぇ奴らはどうでもいい」


 継名は、最高神の脳天に刀を突き刺します。


「お前は滅んどけ」


 最高神様は継名に滅せられたのでした。


 最高神様が滅んだ場所で継名は佇んでいました。

 いつの間にかいつもの姿に戻っています。

 いつもと違い、変化の能力で無理やり戻しているようでした。


「結局、全部継名にやってもらってしまいましたね」


 なんとなくこうなってしまう予想はしていました。 

 最高神様も、上位存在なんてものを気にせず、もっと笑って生きてほしいと思いました。

 私のみんなの中には最高神様も含まれていたのですから。

 私は、よろよろと継名の傍まで歩いていきます。

 なんだか継名はいつも以上にぼんやりしているようです。


「ねぇ継名。継名にはどうして時の魔法がきかなかったの?」


 確実に魔法は継名に当たっていたように感じました。

 継名が振り返り私を見ます。

 なんだか不思議そうな顔をしています。


「……イミューさっき俺が倒したあいつが最高神か?」


「え、もしかして」


「大丈夫、イミューのことは覚えている」


「なんだよかった」


「ああ、だが直前の記憶がない」


「えええ、もしかしてばっちり魔法きいていたんですか?」


「なんとなくノリで倒しちゃたが、悪いやつよかったんだよな」


「いつから覚えてないんですか?」


「俺の感覚だと今しがた悪魔を倒したところだな」


「そんな前なんですか。でも、最高神様は数千年巻き戻したって言っていましたね。その割には最近ですね」


「多分、悪魔戦でも俺が光の速度で動いたことによって、俺の時の流れがおかしくなったんだろう」


「時の流れがおかしく?」


「俺の技、超高速の正体は、まわりの時の流れが止めて動く技なんだ。なので、無限にきりつけることができる。つまり」


「つまり?」


「最高神の魔法のパワー不足だな。もう少し、魔力込められてたら負けてたな。はっはっは」


「パワーアップして、魔法防いだとかじゃなくて、全部はったりですか」


 涼しい顔して大ピンチだったんじゃないですか。

 もう、継名らしいです。


「妖怪は、ビビらせた方が勝ちなんだよ」


 一応確認してみましょう。


「私に神格くれたことも忘れてますか」


「そういや、なんで俺の神格持ってるんだよ」


「お姉ちゃんと会ったことも覚えてますか」


「お姉ちゃん? 会った覚えはないな。確かお前と神様の先輩だったか」


「私と愛を語り合ったことも」


「……それはねぇな。お前記憶がないのをいいことに捏造してるだろ」


「ははは、バレてしまいましたね」


「お前、恋もよく分かってないのに適当なこと言うな」


「前世の記憶があるので、少しはわかるようになったつもりですよ」


「ホントかよ。どんな感じか言ってみろ」


「えっと、恋は、なんかいい感じです」


「全然、わかってなさそうだな」


 継名は笑っていました。

 私も笑います。

 これで一件落着です。


 やることはいっぱいあります。

 でも、慌てなければいけないほど緊急のものはありません。


「これから私は、何をしたらいいんでしょう」


「俺に神格をくれたやつが言っていたが、神はなんのため在るのかではなくて、どう在りたいかなんだと」


「どう在りたいかか」


 私は、どう在りたいのでしょう。

 もう指示はありません。

 自由に生きれます。

 みんなを笑顔にするためには、まずは自分が笑顔になる必要があります。

 私は何が楽しかったでしょうか。


「いろんな世界旅してまわりたいかも」


「いいんじゃないか」


「継名も付き合ってくれますか」


 肯定してくれると思っていましたが、答えは違うものでした。


「さすがにそろそろ帰らないとな」


 なんだかいつもの私の神の間という意味ではないように感じました。

 私は、おそるおそる尋ねました。


「どこにですか?」


 継名は、穏やかに笑って答えました。


「自分の世界に」

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