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神の領域

 私達は、神の領域を通り最高神様の神の間を目指します。

 神の領域は広大です。

 といっても、召喚陣が使用できるので、移動は簡単あっという間に近くまで来ることはできました。


「ところで、なんと言って、最高神様に会ってもらえばいいのでしょうか」


「そんなことも考えずにここまで来たのか?」


「そういわれましても」


「勢いだけで生きてるんじゃないぞ」


 継名には、言われたく……

 いえ、勢い『だけ』ではないですもんね。

 9割は勢いですけどね。


「俺を育てた勇者、そういうことにしておけばいいだろう」


 ほらやっぱり考えてくれていました。


「その手がありましたね」


 私は、他の世界から召喚したものを勇者としていましたので、不自然はありません。

 継名は悪魔を倒して神レベル30となっていますが、高い分にはいいでしょう。


「それにしても、すごいところだな」


 継名は神の領域を眺めます。

 創世魔法を利用して建てた宮殿。

 整然と等間隔でならぶ豪華な柱。

 肉体美を誇る石像なども並んでいます。

 あるものすべてが煌めいています。


「シンメトリー、黄金比、傷ひとつなく、すごいもんだ」


「創世魔法でやりたい放題ですね」  


 多分このあたりは最高神様の好みをどこかの神が再現したのではないでしょうか。

 デザインがエリアごとに違うので競いあったのでしょう。

 欲のわかない神にとっては、芸術こそが最高の道楽なのかもしれません。 


「継名の世界の神界はどんな感じなのですか」


「だいたいいつもお祭り騒ぎしてるな。神も山ほどいるからな、食べ物屋やらなんやら立ち並びグチャグチャだ」


「味しない神もいるのでは?」


「楽しければ、味なんてどうでもいいんだろう。あちこちで楽器が鳴り響き、御輿がふらふら飛び回り、踊って歌って騒ぎ放題だ」


「楽しそうですね」


「そうじゃないとすぐ最高神が引きこもるからな」


 引きこもり?

 最高神が?


「それ……大丈夫なんでしょうか」


 私は心配になりました。


「あいつは基本ネガティブでうじうじしてて、岩の陰でじっとしてる」


 蟹みたいです。

 こちらの最高神様と方向性が違いますが、 

「どこの最高神様も大変ですね」


「やるときはやるすごい奴なんだが、付き人は大変だろう」


 継名が楽しそうに言うのです。

 悪い神ではないのでしょう。

 いつか会ってみたいものです。


◇◇◇


 継名が道を外れて歩いていきます。


「おい。こっちきてみろ」


 継名に言われて、正規ルートから外れたところに、腕や足、顔などがかけた石像が捨てられたように転がっていました。

 創世魔法失敗の残骸でしょう。

 継名は正規ルートの芸術品を見た時よりも興味津々です。


「へぇ。いい感じだな」


 継名は、気に入ったようで、腕はありませんが比較的綺麗な女の人の石像を、立て直しました。


「俺の世界の有名なやつに似てるきがしたが、ポーズも顔も違うか。でも、これはこれで趣深い」


 継名はたのしそうです。


「この石像片腕ないですけど、どこがいいんですか?」


 私を腕を組んでうなりました。


「本来あるものがないというのがいいのだろうな。未完結である。想像で、最高のものが補われるとか、すでにすごいものが、まだ上があるという状態がいいらしいぞ」


「そういわれると、なんだか良さがわかってきますね」


「理屈なんか考えず、好きに楽しむといいさ」


「はい」


「ただ完璧好きには、耐えられない作品だろうな」


 継名は、きっちり決まっているものよりも自由なものが好きなのでしょう。


 傷だらけで、片腕をなくしても、歩こうとしている石像を私は改めて眺めました。

 何かを失っても、前に進む力強さを感じました。

 なんだか自分に重なるようで、好きになれそうです。

 一緒にがんばりましょうね。

 そう語りかけてきてくれている気がしました。



 しばらくあるくと大昔に見たことがある場所が見えてきました。

 最高神様がいる場所に続く空間に、順番待ちしているのが、数組並んでいました。


「あの列ですね」 


 サリアお姉ちゃんが行けばすぐわかると思うといっていました。虚ろな目をした眠そうな女神が案内しています。


「並びましょう」


 私が律儀に列の後ろに並ぼうとすると、

 継名が不思議そうに私を見ます。


「いいのか? イミューそんな行儀よく列に並んで」


 継名が言います。

 そうです。

 私は、最高神様に考えを改めてもらうために来たのです。

 これ以上、勇者の犠牲を出さないために。

 ぐっと意思を固めて、前の神に言います。


「すみません。私を先にいかせてください」


 前にいたひげを生やした男神に言います。


「はぁ?」


 ステータスを覗かれた気配がありました。


「下っ端の神がなにいってやがる」


 下っ端なのはまちがいありません。

 先輩の神を追い抜くのは不敬だと思います。

 ただ、知らないのであれば、他の神にも最高神様の本性を教えてあげる必要があるでしょう。


「最高神様のところにいけば、勇者は殺されてしまうんですよ」


「はっはっは。何を言ってるんだ?」


「そ、そうですよね。急に、そんなことを言われても……」


 信じられませんよねと私は言おうとしました。

 

「そんな当たり前のことを」


 私は、耳を疑いました。


「当たり前って」


「当たり前だろ? 俺が何人勇者を差し出してきたと思う」


 何人勇者を?


「あなたは認識して、自分の世界の勇者を差し出してきたというのですか」

「あたぼうよ。それに勇者以外は育てた世界の経験値は俺の物にしてしまったからな」

 それは、自分で創った世界を壊したということでしょうか。

 信じられません。

 私はステータスを見ました。


神レベル10 

 神 カイセオ


 レベルは強さの指針にはなりません。

 ただ命を奪ってきた数……残虐性の指針にはなるのです。

 ポンコツな私は勇者をうまく育てられませんでした。

 だけど優秀な神は、100年もあれば神レベルの勇者を育てることができるのではないでしょうか

「こいつ、思ったより強くってな。魔王倒してもレベル1000にならなかったからな。服従魔法使用して、こいつのパーティーの奴ら自分で始末させたり大変だったんだぜ」

「なんてことを……」

 神カイセオの隣にいる勇者をみます。

 女の勇者でした。

 自意識すら完全に奪われており、完全に供物として扱われています。

 神が胸に手を置いても反応もありません。

 その胸の奥にある悲しみは、凄まじいことになっており見ていられません。

「許せません」

 私は、そう口に出していました。

「神レベルにも到達していない。出来損ないの神の分際で何を言っている」

「気にくわないな」

 隣にいる継名がぼそりといいました。

 表情は変わりませんが、妖気が駄々洩れでとぐろを巻くほどです。

 神カイセオは妖気がわからないのでしょう。

「自意識縛ってもいないのか。勇者の分際で、生意気だな」

「お前に神を名乗る資格はない」

 継名がいつのの調子で言い返します。

「おい黙らせろ」

 私は首を振ります。

「できません」

 私の言葉をうけて、またステータスが見れれた気がしました。

「なんだお前、主従逆転してるのか。お笑い草だな」

 私のバットステータスを見たのでしょう。

 ただ私はそういう意味で言ったのではないのです。

 私は『誰の意識も縛る気はない』という意味で言ったのです。

「お前は話にならんな。まずは、そこの勇者から話しをきこうか」

 継名が頭をポンとなでると途端に目に生気が宿り出す。

 継名が服従魔法を解きました。

「他の神よ。感謝する」

 女勇者は、腰の剣を抜き、神カイセオに切りかかります。

「育ててやった恩を忘れたか」

「お前に恩などなにもない。ここで滅してくれる」

 すさまじい憎悪です。

「さあ、他の勇者も解いてやるか」

 継名は、他の数組の神が従えている勇者の服従魔法も解いていきます。

 全部の勇者は、それぞれ自分の神に攻撃を仕掛け始めました。

「はっはっは。どうやら、勇者とまともな関係築けていたのは、お前のお姉ちゃんぐらいだったようだな」

 ここにいる勇者は全員神の域に達しています。

 つまりそれは隷属化さえしてなければ、神と渡り合えるということ。

 ですが、渡り合えるだけで、スキルに[神殺し]を持っている勇者はいません。

 アストラル体になれる神に決定的な一撃を与えることができません。

 滅ぼされれば、結局、神に経験値を渡すことにしかなりません。

「どうしたいんだ。イミューは」

 継名が私に問います。

 同胞である神を助けるのか。

 同じ境遇にあっている勇者を助けるのか。

 と……

 そんなの決まっています。

「お願いします。継名。勇者を助けてください」

 継名がにやりと笑う。

「随分、気が合うようになったじゃないか」

 刀を抜き放ち継名は構えました。

「ただの勇者一人で何が……」

 神カイセオが継名のステータスを見た気配がありました。

「神レベル30……なぜ、一介の勇者がそんなレベルに」

「今度は、レベルを見ただけで俺を恐れるか。本当にお前らはどうしようもないな」

 継名のステータス『神殺し』が熱く熱く輝きます。

「さあ、いくぞ。憑依術」

 継名は自分で神を倒すことはしませんでした。

 勇者たちに次々憑り付くと『神殺し』のスキルを開放します。

 自分が殺されるかもしれないなどということは一切気にしません。

 勇者全員のスキルを開放すると、翼を広げます。

「俺が手を下すまでもないだろう」

 継名は腕を組んで、神々を見下ろしました。

 継名が直接攻撃してこないとしり神カイセオは勝機を見出していました。

「『神殺し』がなんだ、ただのレベル1ごときに」

 私は吹き矢を神カイセオに撃ちこみました。

 痺れ薬ではなく、継名のアストラル体の動きを止める『霊振』の見様見真似です。

 ほんの一秒程度動きが止まった瞬間に女勇者は、渾身の一撃を神カイセオに叩き込みました。

 武器も持たず、魔法も使うそぶりも見せず

 油断と慢心を誘う。

 弱いなら弱いなりの戦いもあります。

 それに私だって怒っています。

 継名が直接攻撃しないからといって私がしないとは言っていません。

「ぐっ」

 呻く神カイセオに女勇者は、心臓めがけて剣を突きたてました。

「ぐあぁああ」

 スキル[神殺し]で神カイセオのアストラル体が消えていきます。

 カランと残った剣が地に落ちました。


 その場に残った女勇者が、膝をつきます。

「私は、これからどうしたら……」

 涙する女勇者を私は思わず抱きしめました。

「私の世界に来ませんか?」

 自然と私は口が動いていました。

 ゆっくり無言で、うなずく気配がありました。



 戦いあうのは仕方のないことなのかもしれません。

 ですが、心が赴くままに生きられない世界というのは、つらく苦しい。

 なんだかいろいろ失敗したせいで、いろんな種族が住まう私の世界です。

 きっとあなたと共に生きてくれる人が見つかると思います。

 悲しみは癒えないかもしれませんが、居場所を手に入れることはできるでしょう。

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