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約束

「本当にもうしわけありませんでした」


サリアお姉ちゃんは、継名に平謝りしました。


「いいよ。慣れてるから」


 継名がなれたのはなぜでしょうか。

 はい。私が馬鹿ばっかりやっていたからです。

「服従魔法もかけようとして」


「気にするな。前も魔法かけようとして跳ね返された奴がいたしな」


 服従魔法を最初に継名に跳ね返されたのは誰でしょうか。

 はい。やっぱり私です。

 お姉ちゃんが謝るたびに、なぜかダメージが私に入ります。

 ううぅ。勘弁してください。



 私より服従魔法が強くかかり、精神まで影響を受けまくって、醜態をさらしまくったお姉ちゃん。

 女神サリアは平身低頭ひたすら継名に謝っていました。

 今は元の精神状態に戻っています。

 ただ継名は服従魔法を完全には解いていないようです。

 最高神様がまた服従魔法をかけてくるのを警戒しているのでしょう。

 謝るお姉ちゃんの隣には男の子がいました。

 青年というには、少し幼く見える男の子は、リオン。

 お姉ちゃんの世界で神レベルに到達した勇者でした。

 リオンは、一応継名たちが悪者ではないと理解したようですが、むすっとしています。

 継名に一撃で沈められたのが、随分堪えているようです。

 お姉ちゃんにカッコいいところみせたかったのかもしれません。


「こんな邪悪なオーラを放つ人がいい人だとは思えなくて……あ、いやそんなつもりで言ったわけでは……すみません」


 お姉ちゃんは小さくなってしまいました。

 失言が多いのも私に似ています。

 血のつながりは何もないのです。

 どうしてこんなに似ているんでしょう。

 類は友を呼ぶというやつでしょうね。

 継名の挙動にお姉ちゃんは、びくびくしています。

 慣れないと分かりませんが、継名は、不機嫌な顔をしているのはいつものことで、怒っている気配はありません。


「妖気に慣れてないやつはそう感じるだろう。逆もまたしかり。善なるオーラを放ってるやつが善人とは限らない」


「そうですね」


 私はうなずきました。

 光が善で、闇が悪なんて、嘘っぱちです。

 レベルが強さの指針にならないように、属性も善悪の指針にはなりません。

 自分で何が善で、何が悪か見分けなければなりません。


「そのう。本当に最高神様がそんな神なんでしょうか」


「服従魔法がとけて、随分頭ははっきりしていると思うがどうなんだ?」


「それはそうなんですが、それでも信じられなくて」


 最高神様がそんな神だったとは、私も自分の前世の記憶を取り戻さなければ、信じられなかったでしょう。

 少ししか見たことありませんが、ずっすりと構えてく神々しさに溢れていた最高神様。

 邪悪な存在とは思えません。

 うっかりすると前世の記憶の方が何かの間違いだと思ってしまいそうです。


「お姉ちゃん、前世の記憶はあるの?」


「ないわ。それがどうしたの?」


「それは……」


 私は前世であったことも全部話しました。

 お姉ちゃんは絶句してしまいました。

 今からお姉ちゃんは、勇者を最高神様のところに連れて行くところでした。

 きっとなにも知らずにつれていっていたら悲惨な目にあっていたに違いありません。


「なら私も前世の記憶を思い出して」


「やめとけ、前世は自分自身というわけではないんだ。イミューより酷いかもしれないし、思い出さないなら思い出さない方がいい」

 

 思い出せたのは、偶然が重なってでした。

 壊れかけた魂に、悪魔の死の波動を受けて……。

 無理やり思い出そうとするのは自殺行為です。ほとんど思い出していたので、最後まで見ました。

 大切な記憶でもありましたが、気分がいいものではありません。

 お姉ちゃんもレベル900代で神レベルまで達していません。

 ということは自力で神になったというより、無理やり転生させられた可能性が高いのです。


「とにかく俺たちは、この世界の最高神の真意を確かめに行く」


 いい言葉ですね。

 戦いに行くとは言っていません。


「なら一緒にいきます」


 お姉ちゃんがいいました。

 少しうれしく思いました、ですが……。


「では私が、その最高神を倒します」


 勇者が口をはさんできます。


「お前みたいな弱いやつは自分の世界に引っ込んでろ」


「なに?」


「継名はまたそんな言い方して」


 とはいえ、私もリオンのことをあまり強いとは思えません。

 私の世界の魔王にも遠く及ばないでしょう。

 彩水勇者よりも弱いのではないでしょうか。

 お姉ちゃんが作った世界では世界一強いのかもしれませんが、一つの世界で一番強いぐらいでは、最高神様の前に行くには足りません。

 無駄死にさせるわけにもいきません。

 なんといって断るべきか……。


「最高神の前にいくのなら、服従魔法に耐性があるのが最低条件だ」


 私が悩んでいると、継名がわかりやすく指針を示してくれました。


「女神程度の服従魔法にかかってるようでは話にならん。お前は自分の世界で平和にくらすといい」


 もう、言い過ぎなんですよ。

 継名の気持ちが、最後の言葉、『自分の世界で平和にくらすといい』に全部かかってるなんて普通の人はわかりません。

 勇者の自尊心は粉々です。

 さっき継名に負けたばかりですから、言い返すこともできません。


「サリアと言ったな」


「女神様を呼び捨てにして」と勇者が憤慨しています。

 継名は勇者を無視してお姉ちゃんに言いました。


「イミューになにかあれば、この世界も頼むな」


「それはどういうことですか」


 継名は自分より最高神様が強いかもしれないと提示しました。

 悪魔に勝てたのもギリギリでした。

 最高神様はきっともっと強いでしょう。

 それでも私は最高神様のところに行きたいと言いました。

 継名は可能な限り守ってくれるでしょう。

 それでも、覚悟はしなければいけません。


「お姉ちゃん。お願いね」


 私はちゃんと自分でもお願いしました。


「……わかったわ」


 お姉ちゃんは神妙な顔をして頷きました。


「でも、ちゃんと帰ってくるつもりで行くのよ」


「わかってます」


 死にに行くつもりはありません。

 全部の世界の運命を変えるために行くのです。

 私は自分の胸の前で拳を作ってみせました。

 継名は悠然と勇者に言います。


「お前は、まず自分の女神を守れるぐらい強くなるんだな」


「言われなくても」


 焚きつけるのは本当に、うまいですね。

 そんなんだから、嫌われる人も多いんですよ。

 でも、リオン勇者は継名目指して強くなるでしょう。

 きっともっと素敵に男になると思います。

 私とお姉ちゃんは目を合わせて笑いました。

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