砂漠の町
「魔王のところにいくということは、魔王を倒してくれるんですね?」
「はっ? 何で俺が魔王をたおさなければいけないんだ」
継名が魔王を倒してくれるかもしれないという淡い期待は儚くも散っていきました。
私の思惑は大体思い通りにいきません。
一応、私は継名に聞いてみます。
「えっ? だって世界をよくしてくれるって」
「だから?」
「魔王を倒さないといい世界にならなくて」
「ポンコツのお前みたいなやつが考えるいい世界が、いいわけないだろ」
全否定されました。
「魔王って、魔と付くが、王様なんだろ。どの程度か知らんが統治してるんなら話を聞きたい」
「でも、魔王は闇属性で」
「闇? なんだその属性は? じゃあ、お前は光か。闇だからなんだってんだ」
「闇属性は悪い奴でして」
「何言ってるんだお前は、まるで光がいい奴で、闇が悪い奴だとでもいいたげだな。光属性で誘拐犯の極悪人が俺の前にいるぞ」
そんな極悪人がどこにいるというのでしょうか。
あ、私ですか……。
「とにかくお前は信用ならん。アホでポンコツなこと以外は」
「そんなことだけ信用しないでください……」
「とにかく魔王のところに連れて行け、あとはなにもしなくていい」
「はい…………」
そういうことになりました。
◇ ◇ ◇
私達は、砂嵐が吹き荒ぶ、砂漠の真ん中にたっていました。
「俺は魔王のところに連れて行けといったよな」
世界におりたって、継名はカンカンでした。
「誰がこんな砂漠のど真ん中に降ろせと言った?」
ガンッ!
「あいた!」
継名は刀の峰で私を叩きます。
いくら刃がついていない方だからって、刀で、刀で叩かないでください。
む、向き間違えたら死んでいます。
「どういうことだか説明しろ」
「は、はい! すみません! 魔王城のそばは闇の力が強すぎて、私の力が及ばなくて、降ろせなくて」
「自分で創った世界だろうが、なんでなんだよ」
「だから、困ってたんですよ」
目が、訴えています。
なんでこいつこんなにポンコツなんだと。
はい。もう以心伝心です。
悪口だけは。
それに、激しい砂嵐の所為で、無限に砂が目の中に入ってきて痛い。
継名を見るとどこ吹く風といった感じです。
違いますね。
どこ吹く風ではなく、風を操っているようです。
ステータスを確認します。
スキル
・風操作(風を自在に操ることができる)
確か属性は風でしたね。
たしかにそれは納得です。
おそるおそる私はお願いしてみました。
「あのー私もその風の中にいれてもらえませんか」
「はあ」
継名はため息をつくと、私も風の防御壁の中に入れてくれました。
あ、優しい。
はっ。これはいじめっ子が時折見せる優しさに、くらっとくるパターンでしょうか。
いけない。いけない。しっかりしなければ。
ここは、私のスキルも披露し、威厳を名誉挽回するべきでしょう。
「わ、私の世界を見通せる力があれば遠くも見えます。付与しますか」
「いらねぇよ。別に、千里眼あるし」
「千里眼?」
私は継名のスキルをみました。
『変幻自在』で、スキルが変化しています。
スキル詳細
・千里眼(どこまでも遠くまで見通せる瞳)
本当にこの人なんでもありですね。
私が勝っているところなんて、なにもなさそう。
あ、言語魔法だけはちゃんとかかっています。
召喚魔法とセットの魔法です。
どんな世界の方でも話せるようになる便利な魔法です。
いまのところこれぐらいです。
本当は言語魔法も二、三日すれば覚えるからいらねと言われましたが……。
「あっちに人間の町があるようだな」
継名は魔王城がある方向と反対方向をみています。
「いそぐ必要も別にないか。とりあえず、ちかくの人間の暮らしでも、見てからでもいいだろう」
私に意見を聞くこともなく、勝手にあるいていきます。
私は戦闘能力は低いので、おいていかれるわけにはいきません。
仕方なくついて行くことにしました。
ここ数百年は怖くて下界に降りてきてないので、私も身近で人間を見ていません。
どうなってるんだろう。
気になります。
◇ ◇ ◇
町につくなり継名は私にいいました。
「ほら、金よこせATM」
ATMとはなんでしょうか。なんとなくお金を生み出す機械の名前のように感じました。
ここはすっとぼけましょう。
「なんのことですか」
「いいから、金目の物を出せ。お前属性土か金だろ。簡単に出せるのはわかってるんだ」
「えっ。土とか金って何ですか。私の属性は光……」
「いいんだよ。お前の属性の認識がなんでも、創生神なんだから、金は簡単だろ単元素なんだから」
単元素というのが、意味が分かりませんでしたが、金ならわかります。
キラキラ綺麗な石のことですね。
よく考えれば、これはチャンスかもしれません。
この目の前の傍若無人な男に、私がすごい神であると知らしめ名誉挽回のチャンスです。
私は両手をあげると、全力で魔力を解き放ちました。
パンパカパーン。
ズゴゴゴゴゴゴ。
巨大なうねりを上げて大地が鳴動します。
継名もぽかんと、上を見上げています。
大地からせりあがってきたのは黄金でできた塔です。
私は言われた通り、金ピカの塔を町の隣に出現させました。
えっへん。
私はすごい女神なのです。
創生神なので、山でも海でもお茶の子さいさい。
金ぴかの塔だってこの通り。
意気揚々と継名を見ると、
言われたとおりにやったのに、恐ろしい形相でにらんでいます。
「馬鹿なのか。お前は、誰がこんなに出せといった。相場が崩れるだろうが」
パシッ!
羽の団扇を出現させて、あおぎます。
ズゴゴゴゴゴ。
風が竜巻を作り出し、流砂が発生し、塔が出てきた勢いで、砂の中に沈んでいきます。
「そんなぁ」
金ぴかの塔は文字通り砂上の楼閣でした。
見えたのは一瞬だけ。
継名は私が自分の魔力を半分以上使って、頑張って出した金の塔を砂漠に埋めてしまいました。
「何やってんだお前は!」
継名は、ごちんと私の頭を殴ります。
「あいた!」
言われたとおりに一生懸命がんばったのに、なんでなぐられなければいけないのでしょうか。
「とりあえず、百メートルぐらい沈めればだれも掘り出せないだろう、ここが砂地でよかったぞ。一応念のためあと一キロぐらい沈めるか? 手間ばかりかけさせやがって」
どうしてあんな綺麗な塔を日の目を見せてあげないのでしょうか。
「がんばったのに……」
「あのな。金ってやつはな、ある程度世界の流通量が決まっているから、価値があるんだよ。そんな金が局地的にあふれて見ろ、経済が混乱するだろうが」
「お金はいっぱいあれば、うれしいですよ」
なんでそんなことも知らないのでしょうか。
なぜ頭をかかえているのでしょう。
経済とは何なのでしょうか。
なにもわかりません。
「もういい。今度からサイズも指定するからちゃんと従え」
「あ、はい」
褒められると思っていたのに、怒られてしょんぼりです。
「小石程度でいいから金を出してみろ」
そのくらい造作もありません。
私の手からコロンと金塊が出てきました。
「最初から、そんなもんでいいんだよ。このくらいなら相場は崩れないし、ラッキーぐらいで済むだろうが、まったく」
継名は金塊を握りしめると、路上でだしている店に近づいていきました。
店の旗には、串焼きは、火と加減と情熱と書かれています。
「おい、おやじ、あんたんところの串焼きは大層おいしそうだ」
私は人間の食べ物を食べないので、おいしいとかよくわかりません。
「俺たちは旅人でね。こちらの貨幣は持ってないんだが、この金塊をちょっと両替してくれないか」
串屋の男は一瞬、私たちを馬鹿にしたように笑った気がしました。
「へい。お安いご用で」
店のおじさんは札束をくれました。
こんなにお金もらってもいいものなのでしょうか。
継名を見ると不満げです。
「さすがに親父これは安すぎるんじゃないか」
安い? こんなにもらったのに?
串屋の男は舌打ちしました。
「さすが旅のお方、よくご存じで」
「ついでに串もいっぱいつけてくれよ」
「旅のお方にはかなわないなぁ」
それでも、口元がほんの少しにやついている気がしました。
継名は、その場で串を食べ始めると、そのまま男に話しかけます。
「おやじ。最近景気はどうなんだ?」
「最近は、魔族との戦争続きで物価が上がりまくって、商売あがったりよ。あんたらみたいな旅人はめずらしい。それにしても変な服だ。あっちの別嬪さんはあんたの嫁か」
「まあ、そんなもんだ」
別嬪なんてそんな。えへへ。
美貌の女神なので、当然ですけどね。
でも勝手に継名の嫁にしないでください。
私はみんなの女神様なのですから。
「ここらの未婚女性は、顔を隠すきまりになってやして」
「へーそうなのか」
待ちゆく人々をみると、女性は口元もですが、露出が少ないです。
ですが、薄手の布は体のぴたりと張り付き、体がくっきりとしており魅力的です。
もちろん私には負けますが、
「それにしても、女神様に瓜二つだ」
「女神を知ってるのか」
「それはもちろん。この地にオアシスをつくってくれたお方でやすから」
「へー」
「そういう、あんたは邪神にそっくり」
「邪神?」
「魔族が崇める神様だ」
「えっ!」
私は声をあげてしまいました。
この世界に、神は私だけです。
私が一人で一生懸命作ったのですから。
なぜそんなデマが流れているのでしょうか。
継名はお礼を言って話を終わりました。
串屋から離れると私は、継名にいいました。
「継名の悪名がもう響いているのでしょうか」
「俺がこの世界に対してなにかしたか?」
言葉に怒気をはらんだ
あ、失言でした。
「それに邪神なのはお前のほうだろうが、誘拐犯」
「うっうっうっ」
そういわれるともう何も言い返せません。
とにかく話題を変えましょう。
「そ、それにしても、お金はいっぱいもらいましたね」
「あのおやじが金色の塔見てなくて助かったぞ、相場はもっと高いんだろうが、神に会った幸運に大目に見てやるか」
「そんなにもらったのにですか」
「表情見ればわかるだろう。あの金がどれくらい値打ちがあるか」
かなり太い札束をひらひらさせています。
他にも言っていたことが気になります。
「どうして未婚の女は、顔をさらしてはいけないことになっているんでしょう?」
「お前は何を言っているんだ? なんでお前がわからないんだ?」
「えっ?」
逆に聞かれて戸惑ってしまいます。
「お前は、どうして、この世界の生物を男と女に分けたんだ?」
「それはその……」
最初の人間は、何人かいろんな他の世界から連れてきたからよくわからないとは言えません。
「なんとなく分けたのかよ。理由は創生神によって、いろいろあるだろうが、俺が一番思うに、役割は分担させた方が効率がいいからだろうな。知的生命体である以上、脳はそれなりに大きい必要がある。ということは、ある程度脳が大きく発達した状態で、生まれてきたほうがいいとなると、体の中で育てることになるだろう」
「そうですね」
「そうなると、当たり前だが、体の中に大きな子供を抱えることになる。そんな状態で敵に襲われたらどうだ?」
「危ないですね」
「それに食べ物も取りに行けない。なので、動き回る方と、子供を産む方に分かられたほうが効率的だ」
「それが、どうして女の人だけ顔を隠すことになるんですか」
「女ひとりいて、男が10人いても、一年で子供は一人しか増えないがが、女が10人いて、男が一人いれば、子供は10人増える。種族にとっては、女の方が死んでもらったら困るってことだよ。逆に、男はできるだけ、厳選して、強い個体が残ってくれた方がいい」
「そうなんですか」
男の人は過酷です。
神ですが、私は女でよかったと思いました。
「できるだけ生き残ってほしい女は、ウイルス、紫外線など刺激物にできるだけ触れないでほしい。逆に男は、どんどん触れていって、つよくなってほしいという本能からくる行動だろう。本能は、文化として残っていく。そうやって受け継いできた種族がいきのこっているんだろうな」
「確かにそうかもしれません」
なるほど。男女が分かれているのにそんな意味があったとは。
勉強になります。
継名は噴水に腰掛けると
「この水もお前が生み出したのか?」
と言いました。
「大昔ですけど」
「なんだお前、一応はちゃんと女神してたんだな」
どうしてでしょうか。
水より金を出す方が大変ですのに、今の方が感心してくれているなんて納得いきません。
「水を出せるってことは、分子結合もできるんだな」
「分子結合?」
「わからずやってるのか?」
継名は噴水の水に手を突っ込みました。
「別に触った感覚は俺の世界の水と一緒だな。空気の組成も、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素……似たようなものだしな。ただこの空気中を漂っているエネルギー物質がお前らの魔法の源か?」
エネルギー物質?
「何のことですか?」
「なんでお前は自分が、作った世界なのになにも知らないんだ。お前、俺の言葉ちゃんと変換されているんだろうな」
「変換はされているんですけど、意味がわからなくて」
「ん? どういうことだ。なんでお前が意味分からないのに変換されるんだ。お前の魔法だろう」
「どうしてなんでしょうか」
勇者みんなに使ってあげていますが、疑問に思ったことはありませんでした。
「ということは、この言語魔法は別の奴が作ったってことか。それとも変換機能だけ、別の奴が担っているのか。ああ、イライラするな。お前と話せば話すだけ分からないことが増えていくじゃないか。分からないことばっかりだ」
「分からないとなにか困るんですか?」
言葉が変換されるのならば、困ることはなんにもないと思います。
継名は、イラっとした顔で私をにらみつけてきます。
「お前がそんなんだから、こんなことになってるんだろうが」
いきなり怒髪天になりました。
何が気に障っているのか私にはさっぱりわかりません。
「すみません。すみません」
「まったく、ポンコツ女神め。とりあえずこのエネルギー物質吸収してみるか」
私はなんとなく継名のステータスをみてみます。
ステータス
攻撃力1
防御力1
魔力10
「あ、ステータスに魔力が表示されました」
「魔力? 俺の言葉に変換されてるはずだから、魔法の力の源って意味でいいんだろうな。今数値どのくらいだ」
「10ですね」
「これでどうだ?」
ステータス
魔力15
「今は15です」
「今度は?」
ステータス
魔力16
「16ですね」
「なるほど、これが1な」
魔力1だけ自分の意思で増加させるとかそんな器用なことできるものなのですね。それに
「自分で吸収できるものなんですね」
「今までどうしてたんだ」
継名が不思議そうに私を見ます。
「自然回復するものだと」
「自然回復? ああ、呼吸で吸収するんだな。お前の住処は濃度が高かったから回復も早いのか。ところで俺の神気や妖気は表示されているのか」
「なんですかそれ?」
またわからない言葉が出てきました。
「俺の魔法のエネルギー源といえばわかるか。わからなかったということは、お前のステータスとやらで認識されないんだな。よしよし、この世界のエネルギー源についてはわかってきたぞ。というかお前ほとんどなにも知らないじゃないか。千年もなにしてたんだ」
「頑張ってました。それはもう一生懸命」
「なんなんだよ。その馬鹿っぽくて零点な回答は」
ひどい言い草です。
「まだ気になることがあるんだが、どうして、この町は異種族が同じ町に住んでいるんだ?」
継名は、街を歩いていく人々を見ながら、私に聞いてきます。
私たちと同じような容姿の人が多いですが、耳が頭から生えている人などもちらほらいます。
何が問題なのでしょう。
「仲がいいのはいいですよね」
「何言ってるんだ。普通あり得ないだろ」
「どうしてでしょうか」
「どうみても進化元の動物が違うってことは、進化した時期が違うってことだ。普通、先に知性を進化させた側が、知性が発達がおそい側を滅ぼすか奴隷にするのが普通だろ」
「そうなんですか?」
「今俺が食っている肉はなんの肉だ」
「家畜の肉ですね」
「家畜化された動物が進化できると思うか?」
「それはわからないかと思います」
呆れ果てた目でみてくる。
「あのな。家畜は狂暴になりそうな、個体は優先して殺して、従順な個体だけ残していくんだよ。まず知性は発生しない」
「なるほど」
「お前本当に創世神なのか? そういやお前、千歳だったな。この世界の住人は俺みたいに一世代で進化できる妖怪みたいな生物か、時間を早回しでもできるのかと思ったが、どうやらそうでもなさそうだ。別地域で、隔離して進化させればできなくはないが、さっきの会話では、そんなことしてなさそうだし」
なんでしょう。どんどん追い詰められている気がします。
ピキッと継名の顔に青筋がたちます。
「お前、俺の世界だけじゃなくて、いろんな世界におんなじことしてやがったな」
ひー。何でばれたんでしょう。
街を歩いている人たち観察していただけですよね。
なんでそんなことまでわかるんでしょうか。
この人、戦闘能力だけじゃなくて、頭もものすごくいいのですが。
「他の世界の神が怒って乗り込んできても俺は知らん。いやむしろいままで、誰もこなかったからこんなことになってるのか」
継名はため息をつきました。
「いいか。もうこれ以上、どの世界からも召喚するな」
「そ、そんなぁ」
今後どうやってテコ入れすればいいのでしょうか。
「口答えするのか? 別にお前を殺せば話はおわりなんだが」
継名は立ち上がって腰につけた刀に手をかけます。
「はい! しません! 二度と、そんなことしません!」
私は大声で宣言しました。
その刀、普通の剣より数倍怖いので私に向けるのやめてほしいです。
「よし。最初からそう言えばいいんだよ」
継名は、はーとため息をつきました。
頭を搔きながら、また腰かけて、残っていた串を食べ始めました。
私たちの前を異種属のカップルが歩いて行きます。
継名は哀れんだ視線を向けます。
「あーかわいそうに。あれじゃ、恋に落ちても交配ができるか怪しいな」
「交配って、子供ができないってことですよね。それくらい、いいじゃないですか」
「生物の究極の目的なんだが……。お前は、神を名乗るなら、人の気持ちをもっと学んだ方がいい」
そんなこと言われましても、
「私は、恋なんてしたことありません」
継名はちらりと私を見ました。
「神は、自分自身が未来永劫残っていくから、恋なんかしないだろうが、それでもちゃんと想像してみろ。この世界の生物達のことを。そうでないといい世界なんて一生作れないぞ」
継名は、そういいながら、街行く人々に視線を戻します。
私を見るときと違い、随分穏やかです。
まるで人々を見守っているようでした。
神としての姿として、それが正しいとでもいうように。
私も真似して、人々を眺めてみます。
私の前を、若いカップルが楽しそうにたわいのない会話をしながら歩いていきます。
なんだかとても幸せそうで、とっても羨ましいです。
もし私が人だったら、恋をしたのでしょうか。
私は恋に恋する神かもしれません。