夢からさめて
私と継名は同時に目を覚ましました。
夢から覚めるといつもの神の間です。
なぜかその神の間で、見知らぬ男の子と見知らぬ女の子が戦っていました。
神の間は、私が許可した神しか入れないはずなのに。
また継名のように力で強引に潜入されたのでしょうか。
青い髪をした男の子は、剣を手に鎧を身につけ、よくある戦士の姿です。
黒髪の女の子は、綺麗な足が出て動きやすそうですが、袖が妙に長い変な服を着ています。
なんだか継名の服装にどことなく似ている気がします。
男の子は武器も持たない女の子に切りかかります。
女の子は素手でそれを止めました。
掴んでいるのではなく、受け止めたのは肉の部分です。
ただ血などは出たりしていません。
どうなっているのでしょうか。
よく聞くと男の子の剣と女の子の腕が触れた瞬間金属音が鳴り響いています。
まるで剣と剣との鍔迫り合いのような音です。
女の子は、腕だけでなく、他の部分でも攻撃を受けますが、一切傷も負いません。
「どうなっているんだ。こいつの体」
「なにその剣柔らかすぎじゃない? 折ろうかな」
攻撃が効かないのですから、女の子が圧倒的有利。
ただ、なぜか女の子の腰から伸びる赤い紐が継名に繋がれているので、攻めきれていません。
「ご主人、起きましたか?」
「笹鳴り、誰だそいつら」
「分かりません。ご主人。急にこの空間に入ってきて、ご主人達に襲いかかってきましたので排除しているところです」
どうやら、女の子の方は継名の知り合いのようです。
「継名、あの女の子誰ですか?」
「何言ってるんだ? いつも一緒にいただろ」
いつも一緒?
全然覚えがありません。
それに、笹鳴りって、女の子の名前にしては可愛くありません。
まるで、武器の名前のようです。
武器の名前?
継名の武器といえば……
継名の腰にトレードマークの刀がありません。
あの赤い紐といい、女の子の服の文様といい
「もしかして継名の刀!? どうして女の子なの?」
「笹鳴りは九十九神だからな。心を持った物だ。お前の精神世界に入り込んでいる間、人型とらせて守らせておいた」
そういえば、よく考えると精神世界で刀を差していませんでした。
継名も武器というよりペットのような扱い方でしたし、たまにカタカタ意思を持っているように動いているように感じていました。
まさか本当に生きていたなんて。
「女の子はわかったけど、あの男の子はだれなの?」
私は疑問を口にします。
「イミュー! 今、助けてあげるから」
懐かしい声が遠くから聞こえました。
「お姉ちゃん!? どうして?」
男の子のもっと奥のところに、私が姉と慕う先輩の女神がいました。
「大丈夫。安心して。すぐ助けてあげるから、リオンお願い」
「はい。お任せください」
助けるって誰から?
指示を出しているので、男の子はお姉ちゃんの知り合いということでしょう。
この場にいるのは、あとは女の子と継名だけです。
誤解です。
あの女の子は継名の刀なのだから、味方です。
「お姉ちゃんこの人達は、私の味方だから安心して」
「そう言えと指示されているのね。私の目はごまかされないんだから、服従魔法も解いてあげるからね」
これもしかして、なに言っても信じてもらえない感じですか。
なんと言ったら戦いをやめてもらえるでしょうか。
「このひと、ものすごく強いから、絶対敵わないから、戦わないで、お姉ちゃん」
「どんな敵が相手でも、妹を見捨てて逃げたりしないわ」
うわーん。ものすごくいいお姉ちゃん。
大好き。
人の好さが完全に裏目に出ています。
継名を見ると、憐れんだ目でお姉ちゃんを見つめています。
「あの神、お前の知り合いか?」
「サリアお姉ちゃん、私より早く神として生まれた先輩です」
「ということは、あいつも最高神に同じ目にあってるのか」
「きっとそうです」
お姉ちゃんも同じように勇者育成の指示を受けていました。
多分、前世で同じような目にあっているのかもしれません。
「事情はちゃんとイミューから教えてやれよ」
「わかってます」
「仕方ねぇから、一回無力化するがいいか?」
「はい。お願いします」
継名は女の子に言います。
「戻れ、笹鳴り」
「はぁーい」
女の子はバク転するとくるくる回っているうちに、刀にもどります。
「えっ!?」
男の子とお姉ちゃんは驚きました。
パシとキャッチすると、スムーズに腰に差します。
そのまま、ダンと強力な音をたてて踏み込みます。
「霊振」
継名は刀の柄を勇者の眉間に力いっぱい当てました。
男の子のアストラル体が不安定になり、身動きがとれなくなりました。
そのままバタンと倒れます。
刀から伸びる紐が男の子を縛り上げます。
「リオン!」
お姉ちゃんが叫びます。
「これで、話聞く気になるだろう」
聞く気というか、聞く以外何もできない感じです。
「こうなったら奥の手よ」
お姉ちゃんが魔法を使おうとします。
「おい。その魔法は」
嫌な予感がしました。
継名が止めようとしますが、当然聞くはずもなく、サリアお姉ちゃんは手を高く掲げて魔法を放ちました。
「服従魔法」
お姉ちゃんが高らかに叫んだ瞬間、魔法が放たれます。
継名の『呪い返し』のスキルが発動しました。
私より優秀なお姉ちゃんは、服従魔法もさらに強力。強力ということは、すごいパワーで跳ね返るということです。
「ご主人様、何なりと申し付けください」
瞳にはハートが宿り、心まで完全な奴隷と化していました。
「……。お前ら姉妹はそろいもそろって」
はい。
本当に申し訳ありません。
「ある意味、服従魔法といてやる手間は省けたか。こっちのやつも、解いておいてやるか」
継名は、男の子に触ると服従魔法を解きました。
「女神様になにをした!」
「お前、操られていたんじゃないのか」
「服従魔法のことか。そんなの承知のうえだ。確かに僕らの旅は女神様にお膳立てされていたものだ。だけど、女神様はつきっきりで、僕らをサポートしてくれていたんだ」
「なるほどな。ところでお前らなんでこんなところにいるんだ?」
「女神様に最高神に会って欲しいと頼まれた。多分なにかお願い事をされるだろうと。その前に妹が元気にしているか見に行きたいからとここに来たんだ。お前、女神様になにかしてみろ。命にかえてもお前を倒してやる」
男の子のセリフをきいて、継名は笑顔になりました。
「いいお姉ちゃんじゃないか」
「私の自慢の姉ですよ」
「お前にそっくりだけどな」
それって暗にポンコツだって言ってますよね。
ただ目をハートにして、継名の腕に絡みついている姉はポンコツ以外なにものでもありませんでした。




