黒騎士
私たちは魔物が溢れかえるダンジョンへと突入しました。
なんとなく、強い四人組が待ち構えている気がしましたが、異常発達した動物である魔物たちばかりです。
異常発達した蝙蝠、凶悪な毒を持つ大蛇、捕らわれたら一巻の終わりの大蜘蛛などがうようよいます。
勇者が蜘蛛の脚を引きちぎり、魔法使いが蝙蝠を焼き払い、戦士が大蛇の頭を一突きします。
「さすが僕たちだ。なんとかなるな」
みんな傷は多少ありますが、このくらいなら私がすぐに治せます。
「見せてください」
勇者の腕に私は手を当てます。
すぐに傷は消えてなくなりました。
「姫、知らないうちにずいぶん腕をあげたのですね」
勇者がほめてくれます。
「勇者が教えてくれたからですよ」
「僕は教えたりしてませんよ?」
「そうでしたか?」
記憶では、小さいころから使えました。
なんだか勇者が教えてくれた気がしたのはなぜでしょうか。
誰かと姿がかぶったようです。
どうもまだ、混乱しているようです。
私達は、ダンジョンを進んでいきます。
「これだけ敵がいると、いい経験値稼ぎになるな」
「そうだね。僕らの力になるとも知らずに出てくるなんて」
勇者と戦士は、レベルがさらに上がりうれしそうです。
でも、なぜか私はレベルが上がれば上がるほど不安になります。
「あたしは魔力きれそうなんだけど」
魔法使いに疲労感が見えます。
「ちゃんと深呼吸して魔力回復してください」
私はアドバイスしました。
「深呼吸? どうして?」
「魔力は、世界の自然エネルギーなのです。普通の人は空気中から吸収するしかありません」
「知りませんでした。姫様、博識ですね」
「私も教えてもらっただけです」
「どこで習ったのですか?」
「それは……忘れてしまいました」
元から強いのに、それでも、強さに貪欲だった誰かだったと思うのですが、思い出せません。
あとちょっとで思い出せそうなのです。
喉のすぐそこまできているのに。
思い出せそうで思い出せなくて……。
すごく気持ちが悪い。
そう考えていると、また敵が次々出てきました。
「姫、戦闘に集中してください」
「はい!」
そんなことを考えている場合ではありませんでした。
戦いに集中しないと。
私は雑念を振り払い、みなのサポートに専念するのでした。
魔王の住処も、そろそろなのではないでしょうか。
なんとなくそんな気がします。
通路を抜けると突然開けた場所に出ました。
大きな扉があります。
その扉の前に誰かが立っていました。
黒い鎧を着た騎士です。
「お前たちに、魔王を倒させる訳にはいかない」
門番なのでしょう。
私たちの前に立ちふさがります。
今までの魔物とは明らかに違います。
一番違うのは、言語を理解し意志疎通ができます。
「どうして人型の奴がいるんだ」
勇者が動揺を隠せません。
「魔族ですね」
私は、答えました。
「姫、魔族とは?」
「魔王の配下ですよ」
あれ?
魔王の配下は魔物だったはずです。
魔族なんて初めて見るはずですのに、私は、不自然には思えませんでした。
「とにかく、敵には違いありません」
まずは相手のステータスを確認しようとして、水晶を取り出しました。
黒騎士は、一瞬で、水晶を破壊します。
鎧の奥からくぐもった声が聞こえてきます。
「ステータスを確認するまでもないだろう。お前たちのレベルでは、俺には勝てない」
「レベルがわからないと」
勇者たちは動揺しています。
確実に強いのは雰囲気でわかります。
だからといって諦める私たちではなにのです。
「私はこの旅で、レベル差で諦めない大切さを学びました」
あれ? 変ですね。
私たちは魔王に勝つためひたすらレベルをあげてきたはずですのに。
レベル差があれば、撤退するのが戦いの鉄則です。
「なら試してみるか」
黒騎士が剣を抜きます。
「俺が行く」
戦士が前に出ます。
戦士が、剣できりかかりまます。
戦士が先に切りかかったはずなのに、黒騎士の攻撃の方が先に剣が当たります。
吹き飛ばされて、戦士がうめきます。
「こ、こいつ速すぎる」
私は慌てて、戦士にかけより助け起こしますが、綺麗に防具に攻撃が当たっており、怪我はないようです。
私は勇者に声をかけます。
「勇者、気をつけてください。後の先です。相手はこちらの攻撃を見てから、スピードをいかし攻撃してくる剣術の使い手です。むやみに突っ込まないように」
戦士が不思議そうに私をみます。
「どうして、姫様は、そんな専門用語を?」
どこでそんなことを学んだのでしょうか。
でも、なぜかあの騎士の戦い方は、いつも近くで見ていた気がします。
独特な足運び。
大きく振り回すような剣の扱い方。
「剣?」
なんだか相手の動きに武器がしっくりきません。
もっと三日月のようなしなやかさあった方が……。
相手の武器などなんでもいいでしょう。
勇者も警戒し、間合いに踏み込めないでいます。
「そちらからこないのなら、こちらから行くぞ」
黒騎士が鎧がきしむほど、強く踏み込んできました。
私は、相手が突っ込んでくるタイミングで、土壁を出現させます。
あの人のように敵をぶつけることはできません。ただ、動きを制限させることはできました。
「敵が速いのなら、遮蔽物を置いて、相手のスピードを遅らせてやればいいのです」
私はとっさにひらめいた戦術を使用します。
本当に自分でひらめいたのでしょうか?
とにかく勝てばいいのです。
「姫は回復魔法しか使えないはずでは」
「私は土属性です。回復魔法が使えるようになったのはつい最近……」
回復魔法は、生まれた時から使えたはずです。
記憶が矛盾を起こして混乱しています。
相手はひらりひらりと獣のようなしなやかさで、かわしてきます。
ですが、魔法は使ってきません。
これならやりようはあります。
「姫、相手の姿が見えません。これでは攻撃できません」
「第六感を働かせてください」
私の口から無茶がでました。
「そんなの無理ですよ。姫」
勇者の口から諦めが出てきます。
「勇者ならできます」
私が断言するので、勇者が狼狽します。
「どうしてですか」
「だって勇者は……」
あの人と同じ風属性なのですから。




