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決意

 戦いの勝者は魔王でした。


 勇者は、水流を利用して、果敢にも空中で接近戦を繰り広げていましたが、

 魔王の魔法の直撃をくらい、大地に墜落していきます。

 継名は、勇者を気にもとめずに、魔王を注目しています。

 多分、勝敗よりも魔王の呪いを見定めようとしているのでしょう。



 私の気持ちは勇者に向いていました。

 私はおもわず、勇者が落ちた場所へと走り出しました。

 荒れた大地の中央に、勇者が横たわっています。

 命の灯はわずかに見えますが

 片腕は消し飛び、足はおかしな方向にまがり、血まみれで、まだ生きているのが不思議なほどです。

 駆け寄ると私は汐見勇者を抱きかかえます。


「ああ、勇者、私が召喚したばっかりにこんな辛い思いをさせてしまって」


 勇者が一番辛い時に、寄り添うことからも私は逃げ出しました。


「女神様、私負けてしまいました」


 今私が気にしているのは、勝敗などではないのです。

 数えきれないほど謝らないといけないのは私の方なのです。


「だ、大丈夫、私は女神ですから、こんな怪我ぐらいすぐ治します」


 私は回復魔法を急いで使用します。


「殺そうとした私を助けようとしてくれているのですか」


 それは私の方なのです。

 数撃てばあたると、勇者など死んでも、魔王を倒してくれればいいと思っていたのは私の方なのです。

 そんな神など殺そうとして当たり前です。


「あなたは何も悪くありません」


 私はどうにかそれだけ言いました。

 それよりも、回復魔法のかかりが悪いのです。

 魔法は間違えていないはずなのに……。

 ステータスをみると、明滅していて、かすかに見えた表示には体力0とかいてあるように見えました。

 肉体はすでに死んでいて、魂の崩壊が進んでいるように感じました。

 でも完全に死んでいないのなら。

 私の魔力を全力で注げば。

 どうにかなるかもしれない。

 そう思い、さらに魔力を込めて、ヒールをかけると崩壊が遅くなりました。

 だけど、止まらない。


「どうして……」


 もっと力量があれば、もっと練習していれば、継名に習っていれば……。

 時間は山ほどあったはずなのに。

 後悔が嵐のように襲いかかってきます。


「ごめんなさい。ダメな神で。全然治らないんです。そもそも私が召還なんてしなければこんなことには」


 不甲斐なさすぎて、涙がこぼれてきました。

 泣いてなにか状況が変わるわけではないのに、零れ落ちてきます。

 こぼれた涙が勇者にあたります。


「女神様、あなたは変わりましたね。私を召還した頃のあなたは、私の勤めていた会社の悪い上司に洗脳された社員のようでした。入社した頃は心優しかった同僚がどんどん心が荒んだ人間にされていくのを何人も見てきました。そんな同僚を助けられるほど私も強くはなかった。いい上司に巡り会えて本来の心から美しく慈愛に満ちたあなたを取り戻しつつあるように見える」


「継名は別にいい上司では……」


「誰もその神のことだとは言っていませんよ」


 ぐぬぬぬ。

 確かにそうです。

 本当の私の上司は、最高神様のはずなのに、汐見勇者に上司といわれたときに、どうして継名の顔が浮かんだのでしょう。


「継名は、口は悪いし、すぐに私をポンコツ呼ばわりするひどい神です」


「フフフ、本当に悪い上司のことは、陰口すらたたけないものです」


「そういうものなのでしょうか」


 確かに私も多少継名に言い返せるようになってきました。

 怖いとも思わなくなりました。

 いつからか継名は出会ったころほど口が悪くないように感じます。

 それどころか最近は私にも優しいような?

 そんな気がします。

 

 そのときゴーンと世界中に響き当たるような鐘の音がとどろきました。

 何の音でしょうか?


「ああ、私の経験値が魔王に渡ってしまったようです」


 魔王の呪いが発動したようでした。


「魔王のステータスを見て、私が負ければ、呪いが発動するのは分かっていました。それに私が魔王よりまだ弱いであろうことも。それでも止まれなかった」


 剣聖のおじいさんのことを思い出しました。

 人にはそれぞれ自分の命より大切なものがあることは、わかっています。

 わかっているのです。

 だけど……。


「ごめんなさい。そして女神様、もう大丈夫です」


「なにもできていません」


 なにも大丈夫ではありません。

 私は勇者のためになにもできていません。

 私はもっと魔力を注ごうとぐっと力を入れようとした手を勇者は押しとどめました。


「あなたの魔力はきっと次の戦いで必要になる。無駄使いはしないでください」


「無駄ではないのです。あなたを勇者として召還した女神の責任があります。できることはさせてください」


 助けられなかったとしても、全力は出しておきたいのです。

 自己満足なのかもしれませんが……。


「もう十分です。私はこの世界に来ることができただけで幸せでした。もう皆死んでしまいましたが、それでも過ごした日々はかけがえのないものでした」


 どうしてその幸せを永遠に続けさせるような力が私にないのでしょうか……。


「ありがとうございます。女神様。いい世界になることを願っています」


 勇者は最後にそういいました。

 もう命の光を感じることはできません。

 勇者の体はボロボロに崩れて、原形すら残りませんでした。

 私からこぼれた涙は大地に吸い込まれていきます。


「なぜみんな私にお礼を言うのですか」


 なにもできていないのに。

 ダメな神なのに。

 ポンコツなのに。

 創生の女神なのに、まともに命を吹き込むこともできないのに。



 涙をぬぐって、私は立ち上がりました。

 自信はまるでありません。

 それでも私は口に出しました。


「いい世界にしてみせます」


 あなたのような人が、もう二度と出ないように。

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