表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/33

結末

 勇者と四天王二人との戦いは決着がつこうとしていました。


「どうやら、おれの方が強かったようだな」


 四天王二人は、大地に膝をついています。


「はっはっは。確かに神の言う通り、レベルなんざただの数値だ、たいして強さの基準にもなりやしねぇ」


「なぜ戦いの中で強くなれるのだ」


 レイクが憎々し気に呟きます。


「よく考えれば、戦いの中の方で強くなるのが自然だよな。戦いが終わった後で強さが変わるとかいみわかんねぇしな」 


 彩水勇者は、歯を見せて笑いました。


「そんなことは、まあ、どうでもいい。お前らは姫を傷つけやがった。どうやったら償えるかわかるよな?」


 シャンと剣をならします。


「てめぇら、死んどけよ」 


 勇者がとどめを刺そうとしたその時です。


  戦場の空が闇に覆われます。


「四天王が倒れ、魔族に勝てると思った愚かな人間どもよ。我が自ら滅ぼしてくれようぞ」


 魔王の降臨です。

 そのまま魔王は魔力を高めて、巨大なブラックホールを頭上に掲げます。

 圧倒的魔力量から繰り出される巨大魔法。

 人間達に、絶望がはしります。

 仲間であるはずの、魔族も畏怖を感じるほどです。

 ですが魔王はこれ以上、攻撃する事はできません。

 あくまでポーズです。

 そんなことを知らない彩水勇者に焦燥がはしります。


「くそ。魔王のお出ましか! せめてこいつらだけでも殺しとかないと」


 とどめの刃を振り下ろす瞬間、継名が割って入ります。

 勇者の剣を、刀で受け止めました。


「ぐっ。なぜ邪魔しやがる」


「勝負ありだ。彩水。よくやった」


「なにが、よくやっただ。魔王も来てるんだぞ。そいつらは敵だ殺させろ」


「よく見てみろ」


 継名が空に視線を向けました。 


 

 今度は空に光の筋が走りました。

 私は空高くから降臨します。

 背中には神々しく後光がさしています。

 これでもかと言わんばかりの登場です。

 随分とご無沙汰していた降臨の儀。

 人々は私に希望を持ちました。


「魔王よ。お待ちなさい。これ以上醜い争いを続けるのは、止めなさい!」


 私はできるだけ神っぽく話します。

 最初から私は神なので、神っぽいというのも意味分かりませんが、とにかく威厳があるように見せます。


「あなた方はよく戦いました。戦いは互角です。魔族も、人間も我が子同然。ここは私に免じて、剣をおさめてはいただけませんか」


 拡張された声が響きわたります。

 世界に光が降り注ぎます。

 効果はなにもありません。

 ただの見栄えです。


「女神よ。なんと美しい!」


 魔王がくらりと来て、突拍子もないことを口走りました。

 ちょっと台本にないこと言わないでください。

 私はアドリブ苦手なんですよ。


「ちっ。そういうことかよ」


 彩水勇者が理解してくれたようです。

 誤解していないといいのですが……。


「魔王との交渉は俺たちに任せておけ」


 継名はさもいまから停戦の話し合いをするかのような口振りです。


「いままでなにもしてこなかった神どもに任せられるか!」


 その気持ちはよくわかっています。

 彩水勇者が暴走する可能性があるからこそ、継名が止めに入ったのです。

 四天王二人は、継名にすでに腰が引けています。

 継名であれば、二人は自滅覚悟で突っ込んだりもしないでしょう。

 継名は彩水勇者にいいました。


「姫は約束通り助けておいたぞ。早く顔を見せてやらなくていいのか。近くで守ってやる約束はしてないが?」 


 そういわれれば彩水勇者は、引かざるをえません。


「ふざけた結果になったら承知しねぇぞ!」


「わかってる」


 しぶしぶといった感じで、彩水勇者は撤退しました。

 実際の交渉は終わっているわけですから、なにも心配いりません。

 魔王は魔法を停止させます。

 魔王と私は、話をする素振りを見せました。

 声は拡張していませんので、人間達には、私が必死に魔王を説得しているようにみえるでしょう。

 ある程度間をおいて私は宣言しました。 


「では、停戦の儀を結びましょう!」


 まるでいま話がついたといわんばかりに、魔王に笑顔を向けます。

 なに魔王くらっとしてるんですか。

 もうちょっと威厳を出してくださいよ。

 仕方なしに、創世魔法で空に虹をかけ奇跡を演出します。

 人間と魔族両方から歓声があがります。

 これ以上は、両者ジリ貧になるのがわかっていますから、みなどういった形であれ終わりを待ち望んでいたのでしょう。

 まあ、いろいろありましたし、問題は山積みですが、これで決着でしょう。

 パンパカパーン。

 ファンファーレを鳴らし、私と魔王が握手をしようとしたときです。


 激流が私と魔王の間に割って入りました。


「きゃあ」 


 思わず叫んでしまいます。

 何事でしょうか。

 地上を見ると、汐見勇者が立っていました。


「女神よ。私が魔王を倒します」


 汐見勇者は壮絶な表情をしています。

 なにもかも決意した男の顔です。


「そ、それはもういいのです。これから人と魔族は和平を結び……」


「そんな戯言はきけません」


 ギロリと私を睨みつけます。

 ひぃぃぃ。

 なんで私にそんな敵意を見せるのでしょうか。


「あなたは、私に魔王を倒せと言い、私に生きる意味を与えてくれました。あなた自身がそれを否定するのですか」


 おとなしく、いつも冷静沈着な勇者でしたのに、今はマグマのように煮え立つ怒りを私にむけています。

 私はなんとか言葉を紡ぎます。


「魔王を倒すのは、平和な世界を作るための手段であり、目的ではないのです」


 創世魔法で後光がさしていようと言葉に力がありません。戦いは八百長であり、しかも私自身が立てた計画ですらないのですから。

 それに比べ、勇者は力強く前に踏み出し、言葉を続けます。


「旅を進めるうちに、共に魔王を倒すと誓い散っていった仲間がいます。初め魔王を倒す意義はあなたの言葉だけだった。だけど今は違う」


 勇者は、私を見つめた。

 瞳には絶対的な正義が浮かび上がっていました。


「あなたがもう魔王を倒さなくていいといいと言うのなら、あなたを倒して、私は前に進みます」


 勇者は光輝き、自分の意志で力を手に入れます。

 ステータスにスキルが浮かび上がりました。

 神殺しと。

 私のレベルを上回った勇者は、神殺しのスキルによって、服従魔法すら打ち消していました。


 多数の水球が形を変え、ナイフの形状となります。

 汐見勇者はナイフを手に取ると、そのまま投げつけました。

 投げつけられたナイフが私の心臓部へとまっすぐに飛来します。

 死を覚悟し、ナイフが私に触れようとしたところでかき消えました。


「あ、あれ。なにが起こったの」


 状況が把握できないまま混乱していると見えない何かに鷲掴みにされました。


「おい、いったん引くぞ」


 継名の風です。

 ぐいっと引っ張られ、後ろから抱きかかえられました。

 継名は、翼を翻し、一瞬で離脱しまさた。


「つ、継名、今私ナイフが刺さって」


 私は胸をさすりますが、そんなものは刺さっていません。


「俺の妖術『幻視幻影』だ。空気の温度差で実際見えている位置を誤認させたんだよ」


 なんでそんな心臓に悪い助け方なんですか。


「助けるなら、しっかり助けてくださいよ」


 本当に死んだと思いました。


「贅沢言うな、距離があったんだから仕方ないだろ。誰が撒いた種だと思ってる」


 飛んできた水球をひらりひらりとかわしました。


「反撃しないんですか」


「汐見の奴、急激に強くなっている。俺でも手加減できそうにない。俺と戦えば死ぬだろあいつ。俺は殺したいほど、あいつに対して思うことはないぞ。俺があいつを殺すのはなんか違うだろ」


「そうですよね。ごめんなさい」


 汐見勇者に魔王を倒してほしいと頼んだのは私です。

 世界を平和にしてほしいと頼んでおけばと後悔しました。

 もう後の祭りです。


「謝る相手は俺じゃないし、今更だな」


 継名は、振り向き大地に降り立ちます。


「どうやら魔王の方に行ったか。魔王の呪いは気になるが、ここは魔王にまかせるか」


 勇者は完全に魔王を標的としていました。

 勇者が操る水は、龍のようになり魔王に食らいつきます。

 ですが、魔王の操るブラックホールは、難なくそれらを吸収してしまいます。

 どうみても、魔王が優勢です。

 ステータスなど見なくても、力の差は歴然です。


「とめてください。継名」


 私は継名に懇願しました。

 平和な世界は目前なのです。

 ここで汐見勇者が死ぬ必要はありません。


「勝てないことくらい、あいつもわかってるさ。俺が止めに入ったところで、死なない限り、魔王に立ち向かうだろう。それに自らの意思で戦うと決めた男を俺は止めたくはない」


 そういう継名も少しだけ哀愁が漂っていました。

 私にはどうすることもできず、

 少し遠くで見える勇者と魔王の魔法の乱戦を私は花火の観覧のように眺めていました。


 私が最高神様の指示で、そのまま自己中心的に始めた汐見勇者の物語が結末を迎えようとしていました。

 もし継名がこの世界にこなかったら、私はあの神の間で無邪気に汐見勇者を応援していたのでしょうか。

 きっとそうです。そしてまたうまくいかないからといって、新たな勇者を召喚していたことでしょう。

 勇者を地獄に送り出すことを悪いことだとも思わずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ