召喚した勇者たち
私は偉い神イミュー。
偉い神、えらい神のはずなのですが、
今は正座をさせられております。
手違いで召喚してしまった、天満継名という異世界の神に説教されております。
うっうっうっ。なんでこんなことになってしまったのでしょう。
私はべそ掻きながら、一通り召喚した理由を話し終えました。
「……つまり、魔王とやらをどうにかしたくて、召喚してお願いして、ちゃんと本人の了承を得たというのだな」
「それは本当です」
「服従魔法とやらが使えるのちゃんと了承とってたのか?」
「本当です。信じてください」
「ほう」
あ、その言い方はしんじてもらえてなさそうです。
「とりあえず、召喚したやつらの話でも聞いてみようか」
刀と呼んでいた武器を納刀する。
刃が見えなくなったところで威圧感は消えません。
「ここに呼び戻せるんだろ」
「はい」
◇ ◇ ◇
勇者1 汐見治
まずは一人目の勇者。
召喚したときは、目のクマがすごいことになっており、背中は恐ろしいほど曲がっていました。
よくわかりませんが、元の世界では、小さな画面を見続けて、ボタンを押しまくるという拷問にあっていたらしいのです。
若干クマは残ってしまいましたが、今では背筋もピンと伸びております。
「よし、話してみろ」
私だけではなく継名は威圧的です。
「両親が多額の借金を残して、失踪してしまったので、頑張って返済していたんですけど、勤めていた会社が倒産してしまって、途方に暮れていたところを召喚されました」
「それは大変だったな」
思ったより、継名は親身に話を聞いています。
「モンスターやら敵を倒すの本当はいやなんですけど、朝6時から夜中12時まで働いていたあのころに比べれば、全然ましですし、魔王をしっかりたおしたいと思います」
「無理しなくても連れ帰ってやるが?」
「仕事が終わらないから、残業しているのに、残業するなと怒られ、仕事をしなければもっと怒られていたあの頃に比べれば、無理の無の字もありません。魔族を倒せば感謝される。それ相応の報酬をもらえる。命の危険はありますが、よき仲間に巡り会えました。それだけで、私は生きていけます」
「もう、わかった。ありがとう。戻ってくれ」
勇者2 彩水省吾
二人目の勇者。
どうやら平和な世界だったはずなのに、なぜか敵を殺すことに物怖じしないレアな人です。
ぐんぐん力も付けて、強くなって頼もしい。
でもちょっとだけ背筋がぞくぞくするのはなぜでしょうか。
「お前どっかで見たことあるぞ」
継名は顎に手を当て考えます。
「この世界マジ最高。敵なら殺しても殺しても、むしろ喜ばれるし、美人の姫には惚れられて、やりたい放題だしよ」
「お前、あれか、ニュースになってた通り魔殺人鬼か、確か捕まったって死刑が確定していたはずだが、たしか脱獄してまだ捕まってない、こんなところにいたのか」
「なんだよ。神、てめぇ。おれのこと知ってるのかよ」
「お前と同じ世界、同じ国、つまり和の国日本の神様だからな」
「まさか連れ戻しに来たんじゃないだろうな?」
「お前みたいなやつ、日本にいても迷惑だからこっちでがんばれ」
「お、なんだ話わかるじゃねぇか。でも、こっちの世界で俺の邪魔するって言うのなら。神でもぜってぇゆるさねぇからな」
「はいはい。もうわかったから、元の場所に帰れ」
勇者3 太田敦
数ヶ月前に召還した勇者。
元の世界では、引きこもってゲームばかりしていたらしく、筋力もほとんどなく脂肪の塊のような体系でした。
潜在能力をフルパワーで引き出しても普通の人程度にしかならなかったのを覚えています。
その時にくらべるとまだかなりお腹はでているものの、少し痩せ筋力がついている気がします。
ただ突然召還されて、おどおどしているのは、あのときと同じようです。
「だ、誰だお前は」
継名はため息をつくとしゃべりだしました。
「お前だって、名前ぐらい聞いたことあるだろう。天満継名だ」
「天狗様⁉」
どうやら、太田勇者は継名のことを知っているようです。
「お前の両親から、捜索を依頼されているんだが」
「だ、誰がなんと言おうと元の世界には帰らないぞ」
「誰がってお前の両親が言っているんだが」
「両親でも帰らない」
駄々っ子そのもので文句を言う勇者に対して継名はまたため息をつきました。
でもなんでょうか。
他の二人に対してより随分優しく、子供を言い聞かせるような対応のように感じます。
「帰りたくないのなら、帰らなくてもいい。ただ俺の体裁ってものがあるから、両親に手紙ぐらい書いてくれないか」
継名は、胸元から紙とペンを取り出すと、勇者に渡しました。準備よすぎです。
渡された勇者は、素直に手紙を書こうとするものの文が思いつかないらしく。
数分経ったころに
「なんと書いたらよいか」
泣きそうな顔で言ってきました。
「はあ、『お父さん、お母さんへ、突然いなくなりごめんなさい。僕は今異国の地でボランティア活動を頑張っています。特に病気や怪我もせず元気なので、心配しないでください』とかなんとか書いておけばいいだろう。ちゃんと自分の名前も書いておけよ」
子供の宿題を見てあげるお父さんみたいです。
勇者はひねりもなく言われたとおりに書いて見せました。
「字は汚いが、まあ、むしろ本人だとわかるからよいか」
継名は手紙を丁寧に封筒につめると、刀でなにもない空間を切り裂きました。
刀が通りすぎたところから、見慣れない景色が見えます。もしかしたら継名の世界なのかもしれません。
そこに封筒を投げつけました。
真っ黒な怪しげな鳥が封筒をくわえるとどこかに向かって飛んで行ってしまいました。
「これでよし」
「もしかして、もう自在に行き来できたりするのですか」
「ああ、もうコツはつかんだ」
私ものすごく毎回時間かけて魔法陣書いているんですけど……。
まあ、それはとりあえずいいことにして、一つ疑問があります。
「ねぇ勇者、私が降臨させたところから全然動いてない気がしますが、どうしましたか」
勇者はあからさまに、ギクッとしました。
「き、きのせいだよ。魔王城に向けて旅を続けています」
「そのわりには、なんだか同じ場所ぐるぐるしているような気がします」
私が勇者に問いつめると
「まあ、いいじゃないか」
と、継名が口を挟んできました。
そして、私の頭を鷲掴みすると握力を入れてきます。
死ぬほど痛いのですが。
声も出ません。
誰か助けてください。
「なんか頑張っているんだろう。とにかく元気にやれよ。無理はするな。とりあえずこれを渡しておく」
私を開放すると継名はなにか黒いものを渡しました。
「なんだよ。これ?」
「俺の羽だ。なにかあれば、念じれば向かう。ただいつでも絶対すぐに行けるわけではないから、少しでも違和感あれば呼ぶんだぞ」
継名はものすごく過保護です。
「ありがとうございます」
「ちゃんとお礼言えるじゃないか。まあ、頑張れよ」
継名は優しく頭をなでています。
大の大人が子供扱いされている絵面は、どうなんでしょうか。
「え、あ、はい」
本人も当惑しています。
継名はそんなことお構いなしに、満足げに頷きました。
「ちょっとまって。まだ聞きたいことが……」
継名は、話を終わらせると私を無視して、勇者を帰しました。
「ねぇ、ちょっとまだ話が終わってません」
私は抗議しましたが、振り返った継名の形相を見て後悔しました。
私は意見なんて言える立場ではなかったのです。
「お前、まだ状況がわかってないようだな」
継名は、私の喉元に刃を突きつけてきました。
「あ、あの私はただ状況の確認をしてただけでして」
「こっちはあいつの両親に毎日毎日、息子を助けてくれだの、探してくれだの、頼まれてつかれているんだよ。お・ま・えがあいつを誘拐したせいで!」
「はい! すみません!」
私が謝ると、継名は刀を納刀しました。
まだ目の色はは怒りで染まっています。
「お前な、いくら本人が了承したとしても、人間には両親がいるんだよ。わかるか?」
「は、はい! 存じております」
生き物には神と違い親が存在します。
常識です。
「あいつは十八歳を越えている。とりあえずは俺の世界でも大人だ。もしも未成年だったら、両親の承諾がいるんだよ。もしもあいつが未成年つまり子供だな。俺の世界で、子供の判定だったらどうするつもりだったんだ?」
「す、すみません。そんなところまで頭が回っていませんでした」
私は戦える世代を召喚条件にしていたので、ある程度年齢はいっているはずですが、そこまでリサーチはしていませんでした。
「子供に対して、おやつでも見せてつれてきて、相手の了承が得られました。なんて理屈が通らないことはポンコツのお前でもわかるよな」
「はい! もちろんです」
私は、首を高速で上下させます。
正論すぎて、なにも言い返せません。
「他はいないのか?」
怒気を含んだ声で聞いてくる。
「えーと、その……」
「いないのかと聞いているんだが?」
怒りがあと一押しで頂点を突破しそうです。
ここは嘘でどうにか……
もしバレたら……
「すみません。あと2人いたんですけど、もう死んじゃってて」
下手に嘘をついて、ばれたら殺されると思い素直に言いました。
私は、いまになって本来出ないはずの、冷や汗がどばっと噴き出してきました。
あ、私終わった。
継名の冷たい視線が突き刺さります。
「よかったな。太田が死んでなくて。あいつが死んでたらあいつの両親にお前の首を持ち帰ってたぞ」
とりあえず九死に一生を得たようでした。
むしろあの勇者が臆病で魔王城とかに出発していなくて本当によかった。
もうずっと始まりの町にいてほしい。
私はほっと胸をなでおろしました。継名は、こっちの心情もしらずに続けました。
「とりあえず、残り二人の名前教えてもらおうか」
もしかして、二人が継名の知り合いとかだった場合、やっぱりジ・エンドですか。
私は、恐る恐る二人の名前を伝えました。
あとは祈るだけです。
神様助けてください!
あ、神は私です。
どうしたら……。
「俺と面識はないな」
またしても、九死に一生を得たようでした。
あと何個残っていますかね。
生きた心地がずっとしません。
「嘘はついていないようだし、今更お前を殺したところで、死んだ二人が戻ってくるわけではないから、保留しといてやる」
どうにか、私は首がつながっているようです。
「確かに無理強いは、してないみたいだったな。隷属はしてるみたいだが」
「隷属はあくまで隷属で、洗脳ではありませんから、本当にいやなひとは返してあげる方針ですから、でも意外と皆さん乗り気なんですよ」
はい。言い訳です。
元の境遇が悪い人を選んでいるだけです。
「潜在能力解放してもらえて、うまくいけば国で一番かわいいお姫様と結婚できるなら、まあいいよな。だがアフターケアは雑というか、どっちかというと放置か」
「仕方ないじゃないですか。そんな世界のすみからすみまで四六時中見ていられないですよ」
「見ていられないからこそ、思い通りにいっていないんだろうが」
「あうううう」
痛いところをついてきます。
「仕方ない。どうせ太田の奴がしっかりやれるかしばらくは見とかないといけないし、暇だし俺が世界をよくしてやろう」
「えっ!?」
想像していなかった提案に私は驚きの声を上げてしまいました。
「自在に世界作ったりとか一回やってみたかったんだよな。俺、創世の能力とかないし」
新しいおもちゃを見つけた子供のように口元に笑みを浮かべています。
「そんな、最高神様になんて言われるか……」
部外者に、自由に世界創世にたずさわらせると、私の上司になにいわれるかわかりません。
私は神だから結構偉いのであって、本当は神の中では下っ端でした。
自分の心の中だけで見栄はっていただけなのです。
「なんだ文句あるのか?」
「えーと、その」
「ほう。その最高神とやらが恐ろしいと」
「そ、そうなんですよ」
「俺よりもその最高神が大事なんだな」
「そ、それは……」
「さあ、首ハネて帰ろうかな」
「是非お願いします。私の世界を良くしてください!」
はい! 私に選択権はありませんでした。
今死ぬよりも、あとで最高神様に怒られる方がましです。
でも、よく考えるとこのままいってもジリ貧だったので、願ったりかなったりかもしれません。レベル1でこれだけ強いので、きっとレベルが上がればそのうち魔王を倒せるようになるかもしれません。
そんなことを考えていたら継名はこう言いました。
「じゃあ、まずは魔王のところにいってみるか」
「えっ⁉ え⁉ えええええーーーえ」