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勇者パーティー

 いつものように、千里眼を使っていた継名が突然立ち上がりました。


「イミュー、急いで汐見のところに召喚陣をつないでくれ」


「ど、どうしたんですか?」


 継名が、これほど慌てているのは初めて見ます。


「汐見が攻撃されている」


「魔族が近くに攻めて来ていないか。随時確認はしていましたのに」


 私も急いで汐見勇者パーティーを見ます。

 仲間の一人が血を流して倒れています。

 どうして、急にそんなことになっているのでしょうか。

 ただ敵の姿を見つけることができません。


「透明化できる四天王だ」


 私が急いで召還陣を書いている間に、一人また一人とやられていきます。


「悪い。判断ミスだ。俺の見立てより弱いな。もっとやれると思ったんだが。第六感を鍛えたやつがいないようだ」


 私は手をとめないようにしながら聞き返します。


「第六感?」


「俺の風読みみたいなやつだ。俺は空気の流れがわかる」


「どうわかるのですか」


「感覚だから言葉では表現できない。とにかくわかるということが理解できればいい。汐見は水属性の使い手だろう。知り合いの妖怪の話では、水属性なら水分量がわかるようになるはずだ」


 空気中の水分量、人間の水分量は違います。


「確かにそれなら、透明でもわかりますね」


「戦闘上級者になれば、当然五感を狂わす奴も出てくるから、自分独自の感覚を磨く必要がある」


「ステータスに表示されない能力ということでしょうか」


「そうか。これもステータス表示の弊害か」


 確かに、すべての能力が見えていないのならばともかく、ステータスが見えているのなら、明らかに能力があるものを優先して鍛えたくなります。

 能力があるかどうかもわからないものを鍛えるというのは、博打のようなものです。


「勇者ですら、第六感使いこなせないのなら確かに魔族の四天王はかなり強いな」



 変化や憑依術、継名の能力は私の感覚からするととても珍しいものですが、継名の口振りからすると、妖怪では使えるものが結構いるのでしょう。

 化かし合いが前提の戦いでは、まず他人にない感覚を磨こうとするのが当然のように思えます。


「くそ。第六感がなくても、いくらでも戦い方はあるだろう。相性はいいはずなのに、なにやってるんだ」


 継名は千里眼でみながら文句をいいます。

 勇者の仲間達は、でたらめに武器を振り回していますが、当たる気配はありません。

 四天王は疲れたところを狙いすまして、急所を一突き。

 簡単に絶命してしまいます。

 ようやく私は召還陣を書き上げました。


「つながりました」


「よし!」


 私と継名は召還陣に急ぎ入り込みます。

 召還陣から飛び出したときは、勇者のパーティーの内の一人である女魔法使いが見えない刃に貫かれていたところでした。

 残りのメンバーはすでに倒されてしまっています。

 勇者は突然始まった戦闘と仲間の死に動揺し本来の力を発揮できていません。

 継名は踏み込みます。


「イミューはそこで見てろ」


 高速で、継名は勇者に近づきます。


「憑依術」


 継名が勇者に吸い込まれた瞬間、目の色が正気を取り戻しました。

 継名は、一回コマのような回転斬りをしながら、魔力を高めます。

 勇者を中心に霧状の水が吹き出します。

 水をうけて、透明な魔族が浮き彫りになりました。


「見つけた!」


 継名はすかさず飛びかかり剣を振るいます。

 剣が何もないはずの空間にぶつかりはじかれます。


「浅いか」


 継名は地面に手をつけると、薄く水の膜を大地に広げます。

 なにもないところに波紋が浮かびます。

 不利を悟って、四天王は逃げ出していました。


「逃がさん」


 継名が、憑依して数秒しかたっていないのに、攻守が逆転します。

 継名を中心に足元から薄い水が魔族の逃げる方向に広がり続けます。

 水溜まりに広がる波紋と霧で魔族の姿は丸見えです。


「そこか!」


 継名は剣に水流を纏わせて、魔族に向かって投げつけます。

 金属同士が激しくぶつかる音を響かせて、何かかが盛大に水溜まりに倒れ、水しぶきを

あげました。

 そこには見えるようになった魔族が心臓に剣を突き立てて死んでいました。

 継名が憑依してものの数十秒で、勇者達が苦戦した四天王を倒してしまいました。

 継名がもっとやれると思った気持ちがわかります。

 継名は、汐見勇者の能力しか使って戦っていないのです。

 完全にスキルではなく経験の差です。

 私は、魔族のそばに駆け寄ります。

 継名は憑依をといて魔族をみおろしていました。


「俺が汐見を日頃視認しかしていないことを読んで、透明化できるあいつを汐見に当てたんだろう。魔王の奴相当やり手だな」


 継名は感心しています。

 完全に魔王に出し抜かれた形です。


「継名パーティーの皆さんが」 


 回復させてあげたい。

 そう思いましたが、皆急所を突かれており、もうすでに生命を感じることはできません。


「仕方ない。戦争なんだ。当然死ぬ奴もいる。こうなってくると、彩水の方も勝てるか怪しい。本陣を突破されると人間側は全滅だ」


 継名はもう汐見勇者のことを見ていません。

 継名は冷たい……のではなく、もう気持ちを切り替えているのでしょう。

 そもそも継名が神として四天王と相対したときは、完全にあしらう感じでした。

 今回はとどめまで刺しています。

 人間側として、本気で動いている証拠です。

 継名が本気で動いて、この戦いは引き分け……いえ、ほぼ負けです。

 勇者パーティーを失ったということは、教会は拠り所をなくしたということ。

 教会が動揺すれば、人々に大きな不安が走ることでしょう。

 勇者は象徴なのです。

 ただ勇者は死んだ訳ではありません。

 生きてはいます。

 呆然と勇者は心臓を貫かれた女魔法使いを抱えています。

 もしかしたら恋人だったのでしょうか。

 もう一度戦ってほしいとはとても言えそうにありません。


「勇者ももう気持ち的に戦えないだろう」


「継名どうしましょう」


「……前、言っただろう。俺は慰めるのは苦手だ」


 継名がそう言います。

 私も打ちひしがれる勇者にかける言葉が見つかりません。

 悲しい思いをさせてしまったのは、元はといえば、私の所為なのです。

 世界を救ってほしいとお願いしたのは、私だったのに、ちゃんとサポートできていませんでした。


「時間がない。勇者は三人、敵幹部は四人。俺の予定では汐見の勇者パーティーに四天王二人相手させる予定だった。そこをつぶされた。実力者の人数不利は余計にひらいた。魔族は多分このまま総攻撃を仕掛けてくるだろう。戦況が一気に動くぞ。彩水の方が心配だ」


 継名はすでに次のことを考えています。

 彩水勇者と魔族が中央部でぶつかるのは、魔王と約束した最終決戦を意味します。

 中央部での戦い方が両者の運命を決めるのです。


「どうする。召還陣さえつなげてくれれば、俺一人で行ってもいい。お前は残るか」


 汐見勇者に責任感を感じている私に継名は気をつかってくれているのでしょう。

 私は、そんな気持ちの使い方がまだわかっていません。

 

「いえ、行きます」


 私の口からでた言葉は、前向きなものではありませんでした。

 私は汐見勇者の顔を見ることができず逃げ出したようなものです。

 動かずに仲間のそばにいる汐見勇者の背中に向かって、私は小さな声で言いました。


「ごめんなさい」


 謝罪の言葉しか出てきません。


「戦争が終われば、私にできることはなんでもします」


 許してはもらえないでしょう

 ポンコツと言われても仕方ありません。

 私は情けなく未熟でダメな神です。

 うつむく勇者を残して、私達は次の戦場へと向かうのでした。

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