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私の気持ち


「まあ、そんなに甘くないか」


 継名はテンションだだ下がりです。 

 解析した結果、エネルギーを変換する個人に属性があったようです。

 しかも、継名の属性は風でした。


「よく考えれば、お前のステータスで、妖気は表示されないのに、俺の属性が風と表示されているのはそういうことだよな」


 ステータスに表示されていた風は継名のこちらの世界での属性なのでした。


「個人の属性を変える方法があるかもしれない」


 継名は諦めきれないようです。


「妖気の属性を変える方法はあるんですか」


「俺が知る限りはないな……」


 悲しそうに言います。

 落ち込む継名も珍しいです。

 でもそれも仕方ありません。


「継名は魔法で風使えてもしょうがないですもんね」


 継名が操る風は、十分……というより異常に強力です。

 これ以上操れるようになる必要はないように思えます。


「いや、それはそうでもない。エネルギー源が三種類あるというのも、使い道はある」


「三種類?」


 あれ? 二つではないのでしょうか。


「神気、妖気、魔力だ」


「神気というのもあるんですか」


「プラスの精神エネルギーが神気、マイナスの精神エネルギーが妖気だな。どっちも精神エネルギーだが使い勝手がかなり違う。どっちにしろ神気で操れるのも風なんだが」


 どれだけ風属性に好かれているんでしょうか。

 かぶりすぎでしょう。


「妖術が一番使いやすい。ただ属性があるとはいえ魔法の方がまだ汎用性ありそうだから、風以外も使える可能性はあるな。まだ要研究だな」


 諦める気はまるでありません。


「まあ、今度考えるか。見えてきたぞ」


 目的の城が見えてきました。

 姫がとらえられていると情報があった魔族の城です。

 私たちは元の衣装は闇にきれいに溶け込む紺色。

 さらに顔も布でおおっています。

 エルフの肌は白く綺麗なので、露出は目だけです。


「なんて格好なんでしょう」


「忍者衣装はこんなもんだ」


「忍者とは?」


「俺の世界の潜入とかが得意な連中だ。まあ、みてろ見本みせてやるから」


 門番はいますが、眠そうで真面目にしている感じはしません。

 継名は、門番の視界に入らないように注意しながら歩いていきます。

 簡単に背後にまわりこむと、至近距離から吹き矢を撃ちました。

 初めはなにが当たったよくわかっていなかったようですが、しばらくするとビクンと痙攣して、苦しみだします。

 継名は倒れ込む前に口をしばって、声を出せなくして、草むらに放り込みます。

 手際よすぎです。

 私も注意しながら、近づいて小声で話しかけました。


「痺れ薬すごいですね」


 私たちは、吹き矢の矢を大量に作製したとき痺れ薬も作りました。

 材料はカエルや木の実。

 結構な量を作ったので、数日は費やしましたがそのかいがあったといえます。


「そうだな。思ったより即効性があって使いやすい」


 継名も感心しています。


「継名の知識じゃないんですか」


「俺がこっちの動物や植生知ってるわけないだろう。こいつ自身の知識だよ」


 継名が自分を指さしながら言います。

 エルフの男は、想像していたより、優秀なようです。


「多分普段は仕留められなくても、かすったらしびれて動きを鈍くする使い方なんだろうが、近寄ってから、しびれさせてから、仕留める方がいいだろう」


 近寄るのがまず難しいと思います。


「それにしても、この魔族、魔王の付き人と同じ種族か。ん? こいつと同じ種族じゃないのか?」


 継名は自分を指差します。


「違いますよ。ダークエルフです」


「やっぱりエルフじゃないか」


「闇属性なんです」


「またそれかよ火属性と氷属性が同じ属性なように、光と闇も同じ属性だろう。ただの明るさのちがいだろうが」


「そんなこと言われても、私はそう教わってて」


「白人と黒人ぐらいのちがいだろう。ただ、お前の認識がそうだから、この世界の種族に影響を与えているのかも知れないな」


「そうなんでしょうか」


「無駄口もこのくらいにしとくか、門番は、処理できたが、まだ起きている奴もいるだろう。全員相手してたらこの体じゃもたない、戦闘はなるべく避けるため、寝てるやつにも痺れ薬を打ち込んでおく、死ぬほどの薬じゃないから、お前でもやれるな」


「はい。頑張ります。もしかして、痺れ薬にしたのは私の為でしょうか」


「戦闘なれしてないだろ」


「はい」


「いきなり殺すことに馴れなくていいが、相手を戦闘不能にするのは、なれた方がいい。殺せないと思っても、戦闘不能にする方法を知ってれば、全力で戦えるだろ」


「確かにそうですね」


「よし、いくぞ」


「はい!」


 さあ、潜入開始です。


◇◇◇


 エルフは風魔法が使えるので、継名は風感覚が使用できるようでした。

 死角から相手の位置が把握できますし、風魔法で、矢を曲射すれば、簡単に敵に当たります。

 エルフの体を使用しているので、風魔法は小さな威力しかでないようですが、継名が使うと練度が違います。

 余裕がある時は、私に吹き矢を撃つ練習もさせてくれます。


「楽勝だな」


 継名にかかれば全部そうなってしまいそうです。

 スキルがすごいから強いんだと思っていましたが、今はエルフの体でエルフが使えるスキルしか使っていません。

 服装、武器の選定、魔法の解析、使用方法の検討、何一つとして妥協していません。

 副将軍のときもそうでした相手が強いからと諦めたりせずに、持てる力を最大限発揮できるように準備する。

 継名の強さがわかってきました。

 というよりむしろ、私がステータスばかり気にするうちに、そんな当たり前のことを忘れてしまっただけなのかもしれません。


◇◇◇


 牢屋に来ました。

 姫が捕らわれているとしたらここでしょう。

 私はうつらうつらしている看守の背後にそろりそろりと近づきます。

 この距離なら外さないというところまで来て痺れ薬をうち込みます。

 こわいからと離れたところから打つ方が敵にばれてダメなのです。

 何度も失敗して継名に助けてもらううちにようやくわかってきました。

 少し待って、相手にしびれが来たところで、口を縛り、掃除用具入れの中に押し込みます。

 継名の見様見真似です。

 手際がいいとは言えませんが、看守はむーむーとしか言えなくなったので良しとしましょう。

 ふーと息を吐いて、額の汗をぬぐいます。

 心臓バクバクです。

 慣れたら心臓も落ち着いてくれるのでしょうか。


「少しはできるようになってきたじゃないか」


 わーい。褒められましたよ。

 私には伸びしろしかありませんからね。


「体は借り物だから、無理しすぎるなよ」


 そうでした。忘れていました。

 死なせてしまっては、責任取れません。


「さっさと姫助けて帰るぞ。そうすれば、俺たちの役目も終わりだ」


 長居は無用です。

 たしかに私たちが操るエルフ二人の魔力は半分をきっています。

 そろそろ撤退した方がよさそうです。

 私たちは牢屋の中を覗き込みます。

 捕虜でしょうか、人間が数名捕まっていました。

 継名は捕虜を見つけると、吹き矢を撃ちました。

 ぐっすり寝ているので、気づいていないようですが、起きた時金縛りにあうのではないでしょうか。

 というか、

「いや、なんで人間にもうってるんですか」


 私たちは人間の味方ですのに。


「こいつら助けに来たわけではないからな。騒がれると厄介だろ。今の姿はエルフだし、助けると状況がおかしくなる」


「確かにそうですね」


 考えが足りていませんでした。

 要反省です。

 あらためて牢屋を確認します。 

 牢屋は数も広さもそれほどありません。

 すぐに調べ終わりました。


「いないな」


 継名は腕を組みます。


「ここじゃないんでしょうか」


「いや、こいつの記憶をみる限り、この城に連れ込まれたのは確かなんだよ」


「情報が間違っているのではないでしょうか」


「随分、綺麗な姫らしいし、どうみても同じ種族だからな……ひどい目に合ってるのかもしれないな」


「人質ですよ。死んでしまうような、そんな酷いことはしないのではないでしょうか」


「女で同種族なら、殺さずに酷いことできるだろう」


「それってまさか」


「凌辱されてるんだろうな」


 継名は私が避けた言葉をそのまま口に出します。


「早く助けてやるか」


◇◇◇

 

 私たちは、隠密には程遠い状態で、走り出しました。

 なんというか心の奥底から助けなきゃという思いが溢れてきます。

 別の誰かからせかされているようです。

 多分それは、継名も同じようでした。


「いるとしたら、一番偉いやつの部屋だろう」 


「そうなると一番奥の部屋でしょうか」


「そうだろうな」 


 きっと姫は、しばられれて、言葉にできないあれやこれやとひどい目にあっているに違いありません。

 走りながら、進んでいるとあくびをしている兵士がいました。 

 私たちの姿をみて、声を上げようとした瞬間、継名は強く踏み込み、ゼロ距離で吹き矢を放ち、流れるように強打して、気絶させました。

 本気の動きは、凄まじいです。


「姫、今助けます」


 継名が自分の口を押えました。

 多分、本人の意思がしゃべったのでしょう。

 一刻もはやくと、すぐに走り出します。

 少しだけ豪華な、扉を見つけました。

 継名はしっかり吹き矢を構えました。

 継名が扉をあけると信じられない光景が広がっていました。


 姫は魔族であるダークエルフとのんきにワインを飲んでいました。


「えっ?」


 どうして姫がダークエルフと仲良さげなのでしょうか。

 継名をみると、表情が死んでいました。

 機械的に、すばやく吹き矢をダークエルフに撃ちます。

 パシュッと首筋にささり、しばらくするとダークエルフが倒れました。


「だれなの?」


 姫が動揺してこちらを向きます。

 ウイクは顔を覆う布をほどきました。


「ウイクどうしてここに」


 ウイクはナイフを取り出すと、魔族に襲い掛かろうとします。


「やめて!」


 姫が手を広げて立ちふさがります。


「姫どいてください!」


 大きな声です。

 私は慌てて、扉を閉めて鍵をしました。

 継名なにをしているのでしょうか。

 他の敵にばれてしまいます。


「なぜ姫が魔族に肩入れしているのですか?」


「私は、この人を愛してるの」


 姫がそういいました。


「尚更、その魔族殺さないといけませんね。そいつが死ねば、姫様もあきらめがつくでしょう」


 ウイクは慣れた手つきで、吹き矢を構えると、姫に向かって吹きました。

 どうして、姫を攻撃するのでしょうか。

 姫はしびれながらも、通せんぼしようとします。


「どかないと、姫でも容赦しませんよ」


 それでも、さえぎろうとする姫のお腹を思いっきりなぐります。

 姫はそれでもウイクの足にしがみつこうとしています。

 愛する姫をなぐるなんて、


「継名、ひ、酷すぎます」


「俺がなんだって?」


 いつのまにか継名は隣にいました。

 すでに憑依はといています。

 確かに、口調がいつのまにか継名のものではなくなっていました。


「いつからですか」


「魔族に吹き矢撃ったら、憑依解いたぞ。もう助けたようなものだろう」


「えっ。じゃあ」


 目の前のエルフは自分の意思で姫を殴ったということでしょうか。

 大好きなはずの姫を。


「やめて」


 姫は痺れる体にむち打ち、足にしがみつきます。

 ウイクは姫を振りほどこうとしています。


「さあ、次行くか」


「えっ? この状態で放置ですか」


「もう解決したようなものだろう」


 そういうと継名は、私の魂も女エルフから引き抜きました。

 私が抜けると女エルフはウイクに駆け寄りいいました。


「もうこの姫も殺しましょうよ」


 なんてこと言うんですか。

 取り憑いているときは、そんな悪い子に感じませんでしたのに。

 な、なぜ悪化しました?

 ウイクと呼ばれていたエルフは、姫を殺そうと言われても怒ったりしていません。

 むしろ本当にそうするかどうか悩んでいるようでした。

 継名は、その様子を見て、薄く笑っています。

 副将軍の憑依を解いたときとまるで違います。

 不幸が蜜の味とでも言いたげな邪悪な笑い方です。


「なんで、こんなことになってるんですか?」


 私は何が起こっているのか理解できていません。


「俺も、エルフの女に賛成だな。俺もそうしてる」


「なんで……」


「わからないか? エルフの国では姫が誘拐されたことになってるんだぞ。姫の護衛のあのエルフは、打ち首になるとこだったんだ」


「打ち首って」


「処刑だよ」


「処刑……」


「当然そうだろう。ちゃんと護衛できていなかったわけだから。それでも姫を救出できたら、許してやると王様から言い渡されたんだ。あの娘と逃げ出して、どっかで慎ましく生きても良かっただろうに、それでも姫が心配で助けにきたんだ。そしたらどうだ。来てみればなんてことはない。姫は恋にうつつを抜かしていただけ。相手は戦争している国の王子ととか、国を危険にさらして戦犯ものだろう。あいつは俺が取り憑いてなかったら門番にでも、殺されてただろうに」


 継名は、はっはっはと笑います。


「恋するのはしかたないさ。それが敵国の人間でも、恋できないのも仕方ないさ何十年守ってくれてきた男のことをすきになれないことも。それでも姫が少しでも、信頼して、敵国の王子に恋していることをあいつに教えていたなら、あいつは姫の幸せを願っただろう」


 継名はさっきまで取り憑いていたエルフを見ます。

 今度は笑ってはいません。少し寂しげです。


「なにもかも裏切っといて、言うこと聞いてもらえるなんて傲慢だろう。それでもすぐ姫を殺さないだけ、随分やさしいな」


 姫から好きでもないどころか、生死すら気にもされていなかったなんて。

 姫は自分の命より恋が大事だった。

 継名の説明を聞いた後では、ウイクの血の涙が見えるようです。

 女エルフもさっきまで姫のことを心配していました。

 恋のライバルなのに。

 ずっと負けていたのに。

 それでも、助けたいと思っていたのです。

 それなのに……。

 助けに来たのは、徒労でした。

 本当に、馬鹿みたいです。

 好きな人を貶めた姫のことを殺したいほど憎む気持ちもわかるようになりました。

 私はどう思えばいいのでしょうか。

 私はエルフではありません。

 ポンコツですが、自分の心で素直に考えてみました。


「継名には、普通のエルフもダークエルフも同じ種族に見えるんでしたね」


「そうだな」


「ここでダークエルフを殺したら、人と魔族が停戦した後どうなりますか」


「たぶんあいつ、王子とかなんだろう。そんな奴を殺したら、この先ずっと仲違いしたままだろうな」


「私は平和な世界を望んでいます」


「人間のだろ。魔族はどうなってもいいだろう」


「今まではそうでした。でも最近は、私も継名がいうように魔族も平和に暮らせる世界がいいなと思います。おんなじ種族なら、今は無理でも未来では仲良く笑っていてほしいです」


 継名が真っすぐ私の目を見ます。

 私は、少しだけ頭を下げました。


「お願いします。王子を殺させないでください。継名ならできますよね」


「エルフとダークエルフが仲良くなれば、人は負けるかも知れない。お前は魔王とデートだぞ」


「それでもです」


「デートに俺はいないぞ。魔王が本性表して、お前に襲いかかるかもしれない」


 な、なんてこというんですか。

 そのときは継名にならった吹き矢でえいやです。

 効かなかったら……そのときはそのとき考えましょう。

 私は継名を見つめます。


「そ、それでもです」


 継名は冷たい目で私を見ます。

 ずっと見つめていると、ふっと笑いました。

 さっきまでと違います。

 それは、継名が頑張る人間を応援するときの笑い方です。


「そうだな。俺はお前の考え方が一番いいと思うぞ」


 継名がそういったときウイクは姫を振り切りました。

 刃を構えて、まだ体の痺れがとれない王子に迫ります。

 ウイクは刃を振り上げました。

 刃が王子の喉元に届く直前に、継名はウイクに憑依しました。


「王子よ。姫のことを思うんなら、二度と姫の前に姿を表さないことだな」


 継名は私を女エルフに押し込み

 姫と私を抱えると、そのまま窓から飛び出します。

 風の魔法が夜闇にととも優しく私たちを包み込んでくれました。


◇◇◇

 

 エルフの国にもどり、王に事情を話すと、姫は幽閉されることになりました。

 また勝手に飛び出して行ってもらっては困ります。

 少なくとも戦争が終わるまではおとなしくしてもらわなくてはいけません。

 ウイクも処刑はなくなりました。

 ただ護衛の任はは外されてしまったようです。

 失恋した上に無職とか不憫でなりません。

 ですが……。


 アストラル体の私たちの隣を、知った顔のエルフが通り過ぎていきます。

 料理するための食べ物を片手で持って、拳を握りしめています。


「勢いで言ってしまったものは仕方ないわ。今日も頑張ろう」


 どうやらへこんでいる、ウイクをはげましに家まで行くようです。

 押しかけ女房とかいうやつでしょうか。


「頑張ってね」


 私は恋する乙女にエールを送りました。

 あの子の恋はいつか成就する気がします。

 私の勘はあたるんですよ。

 なんたって神ですからね。

 ただそれが100年後とかじゃないことを願うばかりです。

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