召喚したのは異世界の神様でした
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主題歌『世界の再創生』
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創った私が意図を忘れるくらい、コントロールを失ってしまった世界。
私は、ずっと明日吹く風を。
未来を切り開く刃を。
待ち望んでいた。
◇ ◇ ◇
まずは自己紹介をかねた現状報告から。
私は創世の女神イミュー。
自分で言うのもなんですが、けっこうえらい女神なんですよ。
えっへん。
ここだけの話なんですが、実は自分が作った世界ちょっとバランスがおかしくなってしまったのです。
ちょっとだけです。
本当ですよ……。
と、とにかく、いろいろテコ入れをしているんですけれど、なかなかうまくいかないんですよ。
勇者を育てるという上からの指示をこなしつつ、いい感じの世界を私は目指していました。
1から知的生命体を進化にて、育てるのは何億年もかかると思い、すでに進んでいる他の世界から知的生命体を召喚して世界創世を行っていたのですが、どうしてあんなに闇の勢力が強くなってしまったのでしょう。
勇者が育つ前に、駆逐されてしまいます。
こんなことが他の神、特に最高神様にしられたら、えらいことになってしまいます。
かといって私は、戦闘は苦手なので、もうすでに自分で倒すことは不可能です。
そのくらい魔王と呼ばれる存在は強くなってしまいました。
下手に下界に降りると殺されそうな勢いです。
ということで、最近は他の世界から知的生命体を召還して救ってもらうことにしています。
とはいえ、優秀な人は元の世界でも重要ということです。悩ましいですね。
それに元の世界に未練があるような人を説得するのがめんどくさいので、召喚の条件を絞ることにしました。
条件1 戦える世代の男の人
当たり前ですね。
戦ってもらうんですから。
あと私の色仕掛けが効きますし。
条件2 未婚かつ恋人などがいない。
元の世界に未練がない方がいいですね。
あとやっぱり私の色仕掛けが効きますから。
条件3 無職
生活基盤がしっかりしてない方のほうが、突拍子もない状況もすんなり受け入れてもらえます。
条件4 文明が進んだ世界の住人
今私が創世している世界とは違う基盤の世界の住人であれば、違う視点から魔王を突破してくれるかもしれません。
最近、私は目星をつけた、とある世界から召還しています。
特にその世界では、勇者という言葉がお気に入りらしく、召喚者を勇者とおだてて交渉しています。
私は、なんとその世界から五回もうまくいってしまっています。
召喚と交渉自体は。
戦いですから、私がいかに潜在能力を解放し、強い装備を与えて送り出したとしても、死んでしまう子もいるのです。
残念ですが、仕方のないことです。
数打てば当たる作戦です。
こんな条件でも、きっとそのうちすごく優秀なお人好しが来て、何とかしてくれるはず。
「さあ、本日も召喚いってみましょう!」
全力他力本願。
えいえいおー。
私は手慣れた感じで、ふんふんと鼻歌歌いながら、サラサラと魔法陣を書いて、条件も書き込みました。
あとは力を注ぎ込んで待つだけ。
「召喚魔法は簡単何ですけど、召還されるまでの時間がランダムなのが困りますね」
そんなため息混じりの言葉を言ってる最中に、魔法陣が光り輝きだしました。
これは最速ではないでしょうか。
光あふれる魔法陣の中から、男が一人現れました。
背が高く、ワイルドな黒髪。
漆黒で切れ長の瞳は吸い込まれそうです。
なにより顔立ちは、私の修正が必要ないぐらい凛々しく整っています。
―――これなら、私が潜在能力を解放する必要ないですね。
というか潜在能力フル解放されています。
でも、今までの5人と同じ世界から召喚したはずなのに、変な服ですね。
他の召喚者と、まったく違うけど何なのでしょうか?
なんというか。男の人なのに、大きな布を体に巻き付け、腰の布でしばっただけのような服装です。
腰の布にはなにやら棒のようなものが刺さっています。
剣? と一瞬思いましたが、形状が随分違う気がします。
なんなのでしょう。
―――あんまり服装なんて気にしても仕方ないですし、そろそろ始めましょうか。
私は満を持して神々しく言い放ちました。
「あなたは選ばれたのです」
パンパカパーン。
美しい女神に選ばれて喜ばない人間はいません。
このために、少し恥ずかしいですが、胸元を少しはだけ、腰のラインを強調するような薄手の生地の服を着ています。
男であれば、美と慈愛の神である私の色気に逃れられるはずありません。
――という自信は、男の射抜くような鋭い視線に粉砕されてしまいました。
「てめぇか。神隠しの犯人は」
遠雷のようなえんさの響き。
ゆっくり腰に差していた棒のようなものに手を掛けました。
キーンと金属音があたりに響きわたります。
鋭く光り輝く刃。
棒はやっぱり剣だったようです。
普通の剣とは違い、片刃の滑らかに湾曲した恐ろしくも美しい刃物でした。
召喚者は召喚時に身に着けていたもののみこちらの世界に持ってくることができます。
ということは、目の前の男は常時、人が殺せそうな刃物を所持しているということです。
というか召喚を行っている異世界は戦争が終わった平和な国ではなかったかしら?
深淵の奥から湧き上がるような冷徹さ。
細められた瞳からは、溢れんばかりの殺気。
「ひぃい」
一瞬で心が凍り付くほど、戦慄を覚えました。
その殺意の全てが、なんだか私に向けようとしているような。
というか男以外、この場に私しかいません。
「さあ、言い訳があるなら、今なら聞くぞ」
ドスの利いた声をかけられて、私は悟りました。
――こいつは、ヤバいやつだと。
私は、すぐさま召還陣を反転させて彼を送り返します。
「む?」
彼が気づいたようですが、今更です。
時間を巻き戻すかのように、彼は召喚陣に吸い込まれていきました。
私はホッと一息つきました。
「彼は何だったんでしょう」
明らかに今までの召喚者と一線を画していました。
ぶるる。
思い出すだけで、身震いします。
神なのに、冷や汗が流れ出るようです。
「忘れましょう……」
気を取り直して、もう一度召喚しましょう。
一応念のため今までの世界とは別の世界にきりかえた方がいいかもしれません。
手頃で楽に言うことを聞かせられる男達がたくさんいそうで、楽そうな世界だったのに残念です。
「はぁ」
私はため息をついてしまいました。
どこの世界からどんな条件で召喚しようかと悩んでいると突然、
ひゅーどろどろどろどろ
と心が不安になるような音と共に、どこからともなく生暖かい風が流れ込み、それが逆に背筋を凍らせます。
「ひー今度は、なんなのですか?」
ここは、私だけの空間のはずです。
私が許可しない限りは空気すら入ることすらないはずなのに。
音の出所を探すと、先程、男を召喚した魔法陣のあたりに亀裂が入っています。
「この場所は、もう覚えたぞ!」
そこら中から、声が響きわたり、なにもない空間がバリバリと崩れ落ち、そこから先ほど召喚された男が再び現れました。
そして、抜き身の刀の先端を私の喉元に突きつけてきました。
「さあ、覚悟はいいか?」
死の空気が、私の首を絞めつけるようです。
ま、ま、ま、まずは落ち着くのよ私。
私は神。
アストラル体、つまり魂だけの存在。
なので、ただの刃物なんかで死ぬことはない。
そして、すべてを見通せる目、鑑定眼を持っている。
まずは彼が誰なのか調べてみましょう。
天満継名
種族 妖怪天狗にして神
属性 風
「神様!?」
「あ、なに驚いてやがる見れば分かるだろう」
全然わかりません。
こっちの世界では神は光属性しかいないのですから。
というか神とかいる世界だったとは、リサーチ不足です。
妖怪天狗とは何のことでしょう?
聞いたことのない種族です。
それよりレベルは何でしょう。
神レベル 1
攻撃力 1
防御力 1
いやいや明らかに嘘ですよね。
次元を引き裂くような存在の攻撃力が1なのは、おかしいです。
基準は戦闘しない一般男性の攻撃力が100ぐらいで表示されるはずなのに。
最後にスキルは……。
スキル
・変幻自在
・神殺し
神殺し⁉
つまりどういうこと。神殺せちゃう⁉
えー私死んじゃう。
全然落ち着いてる場合じゃない。
どうしよう。
詳細、、、詳細確認しないと
スキル詳細
・神殺し(死なないはずの神を殺すことができる能力)
ですよねー(泣)
こうなったら私の奥の手を使うしかありません。
戦闘は苦手な私ですが、それでも強力なスキルをいろいろもっており、そのなかでも群を抜いて強力なのが、『服従魔法』なんと相手を意のままに操ることができます。
もし万が一、まあ、今が万が一なのですが、相手がとんでもない奴だったときのため、魔法耐性がないように、魔法の概念がない世界を選んでいます。
この魔法は動作もほとんど必要ありません。
私は少しだけ手を挙げて、相手に服従魔法を放ちました。
「えいやー」
ピカピカピッカー。
これで相手は私が命令すればの言うことをきくはずです。
はずです。
はずなのですが……。
「あっはっは」
急に彼は笑い出しました。
ひとしきり笑うと、私をぎらりと睨みつけて言いました。
「人を呪わば穴二つってしってるか」
「それはどういう意味ですか?」
相手の言語に合わせて話をしていますが、その世界のことわざや言い回しはよくわかりません。
いやでもこれで、彼は私の奴隷になったはず。
あれ、でもどこにもそんなバッドステータスが表示されていない。
どういうことなのでしょうか。
代わりにスキルがさっきと変わっているような気がします。
しっかり確認してみましょう。
スキル
・変幻自在
・呪い返し
呪い返し?
あれ?
さっきまであった『神殺し』のスキルはどこに行ったのでしょうか。
それに呪いとは一体なんでしょうか。
ただなんだか嫌な予感がします。
とにかく詳細を見てみないと。
スキル詳細
・呪い返し(状態異常を伴う攻撃を相手にそのまま返す能力)
「え、つまりそれって」
私は恐る恐る、自分のステータスを確認した。
バッドステータス
奴隷(主人 天満継名)
「やっぱりーやっぱりっていうか、どうしてこうなったんですか?」
そういえば、さっきから神殺しとか呪い返しとかのスキルが衝撃的すぎて確認してなかったけど、変幻自在って何だろう。
スキル詳細
・変幻自在(自身のスキルを自在に書き換えることができる能力)
なにこれ私が持ってるどんな魔法よりも高性能なんだけど。
というかずるすぎるよねこれ。反則すぎるよね。
チート、チートです。
反則です。
こんなのなんでもありじゃないですか。
「なんですか。あなたはなんなんですか」
目の前の男は、私を蔑むような眼差しで見下ろした。
「自滅するし、強くもないし、ほんとたいしたことねぇな。お前こそなんなんだよ」
「たいしたことない言わないでよ。そっちだってレベル1のくせに、スキルおかしいでしょ」
「レベル? スキル? レベルだのスキルだのゲームじゃあるまいし何言ってんだ?」
「神ならステータス見えるでしょ」
「ステータス? 何言ってるんだ? 仮にそのステータスとやらが、あったとしてだな。どうやって計測するんだ? 寝てるときと起きてるときの強さが同じはずないし、力だってどれだけ力を入れるかで変わるだろう。人間なら、ケガしたり病気したりしたら弱るだろうし」
「言われてみればそうね。どうなってるんでしょう?」
冷え切った呆れた視線を送ってきます。
「何で知らないんだよ。自分で自分の呪いにかかるし、本当にポンコツだな」
「ポンコツ言わないでよ……」
「わかったよ」
「もうポンコツ言わない?」
「そうじゃなくて、お前がダメ神なのが分かった」
「そんなことわからないでください」
「それにたいして悪意がないこともな」
「よかった」
どうやら私がちゃんとした神だと分かってくれたようです。
「悪いことは悪いとちゃんと教えてやるから」
「子ども扱い⁉ これでも千歳以上は生きてるんですよ」
「俺は千五百はいきてるぞ」
「あ、はい、すみません」
目上の方でした。
あれ、おかしいです。
私、神なのに歳すら勝てないなんて。
「本当は、出会い頭にズバッと斬り殺して、攫った奴らを助けて帰ろうかと思っていたのに、誘拐犯がアホすぎてやる気なくなっちまった。よかったな。お前アホで。命拾いしたぞ」
「あ、はい」
どうやら、殺さないでいてくれるそうです。
執拗に、アホだと強調されていますが。
「さて、まずは、なんで誘拐したのかおしえてもらおうか」
ちゃきりと刃を私に向ける。
やる気はなくなったようですが、許してはくれてなさそうです。
下僕になったわたしには、もちろん拒否権なんてありませんでした。