【無茶苦茶④】
まずトゥイーニーは乗っていた黒鬼の頭をグンッと踏みつけた。僕にはちょっと力を込めたようにしか見えなかったけど、胴体が潰されて頭と足だけになっている黒鬼を見たらその強さがよくわかった。
次に仲間の悲惨な姿に一気に距離をとる黒鬼衆の一人を捕まえると、地面に引き倒して馬乗りになり地面と一体化するまで殴り続けた。
もし僕が黒鬼衆だったら初めの二人が犠牲になっているうちに全力で逃げただろう。だって……あんなの勝ち目がなさすぎる。
「あの黒鬼を……こんな簡単に……」
「申し訳ございません。オルコ様のために残しておきたかったのですが、どうやら難しそうですね」
「……あんな死に方させられるんならアタシじゃなくても祖先の溜飲は下がるだろうさ」
また一人捕まって高く高く空に投げられた。どこまで行ったか見えないくらい高くて、目で追っている間にもう一人が捕まった。
その黒鬼は軽い蹴りで両腕を吹き飛ばされ、胴体を掴まれた状態で力任せに地面へ投げられる。体が頑丈なのが災いし、足への激痛に喚き叫ぶ悪趣味なカカシが生えた。
そんな状況でも逃げなかった最後の黒鬼にトゥイーニーはどんどん距離を詰め、上目遣いで唇を舐めて拳を誘うように自分の頬をぺちぺち叩く。
「ガッ、アアア!」
黒鬼は大きく振りかぶり、速さと重さを乗せた一世一代の命の拳がトゥイーニーの頬を捉えた。
グシャッという嫌な音と血しぶきが派手に散り、トゥイーニーの赤い髪が鈍い赤に染まるのが見える。
「俺は貴方が恐ろしい。自分がなにを見ているのか理解できないでいます」
「私のとても頼りになる従者ですよ」
黒鬼の拳は宙を舞っていた。自分の手首から噴き出す大量の血液と、地面を転がって広がる手のひらを見ても動揺せず、覚悟を決めていたのか黒鬼はもう片方の手を尖らせて胴体を狙う。
「トゥイーニーは怖がりで寂しがりなので」
その手を細身の足が蹴り上げると、弧を描いた腕が血を撒き散らしながら飛んでいく。それでも諦めずに無防備になった脇腹を黒鬼が膝で狙うが、戻ってきた踵が肩を直撃し、軸にしていた足が破壊音と同時に折れ曲がった。
「あまり怖がらないであげてください」
バランスを失って倒れた黒鬼の残った足も踏み潰して、抵抗できなくなった黒鬼をカカシのようになった黒鬼へと蹴り転がす。大きなあくびと伸びをし背を向けて歩きだすトゥイーニーへ、二人は最後の気力を振り絞って渾身の炎を吐こうと口を開いた。
だけどその反撃は空から降ってきた黒鬼によって文字通りに潰されて、辺りは嫌な静けさに包まれる。
「……ディーヴィは出てこないんですか?」
「とっくに逃げてるだろうよ。あんなの出てきたら誰だって逃げるだろ。アタシだって逃げるさ」
「自分の兵隊を大勢犠牲にしてるからな。死地に向かわせるヤツに従う者は皆無だし、ヴァンブラッド家と手を結んだサティナ様がいらっしゃるからディモニア家としての立場もないだろう」
「組合の立場がなければ追いかけて取っ捕まえてサティナ様の前まで引きずりだすんだがな。それは追々やるとしよう」
もう戦いが終わった安心感で今後について話していると、大急ぎでトゥイーニーに向かうパペットとペティちゃんに支えられた青ざめるメイちゃんがよろよろ歩いてきた。
「ちょっと!まだ終わってないから!」
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