【無茶苦茶③】
トゥイーニーの体は肉の風船みたいに大きく丸く膨れ、黒鬼よりも大きく大きくなったあと急速に縮み始めた。
風船の輪郭が細身の成人女性の姿になり、髪が膝まであるロングヘアーになり、三角の耳とふさふさの尻尾がふわっと生えた。
髪へ肌へ衣服へと材質が変わって、細身の体型に沿ったパンツと対照的に上半身はふわふわのセーターみたいなもので覆われている。
そして肌と瞳以外の全てが赤い。髪も服も爪も裸足の肌に描かれている紋様も赤い。
「……いやぁ、ちょっと、嘘でしょ」
赤い姿とパチリと開かれた灰色の瞳にネーロさんが後退りする。嬉しそうに口を押さえていて、驚愕と歓喜と恐怖がごちゃ混ぜになった複雑な表情をしている。
その顔を見たノイルさんが若干引きつつも『どうした?』と尋ねた。
「戦獣族のとある一族がさ、強さを極めるために一定数に達すると赤ん坊以外の全員でそれはそれは壮絶な殺し合いするんだ。で、その一族の勝者はみんな血を吸ったような赤色をしてるんだよね」
「もしかして…いや、でもあの子は橙色だったぞ」
「赤ん坊の世話役からは同士討ちで勝者無しって聞いてたんだけど、あれ見たら嫌でもわからされるでしょ。ルルゥ様、そこんとこどうなの?」
椅子に座りながら問いかけににっこり微笑むルルゥさんはそれ以上答えるつもりはなさそうだ。
飼い主にまとわりつくペットみたいにルルゥさんの周りをくるくる回るネーロさん。距離を離そうとマグダが拳を突き出すけど、器用に避けられてかなり苛立っている。
「あれ、大丈夫なのかよ」
「トゥイーニーが自分自身をコントロールできなかった場合は、私も含め全員無事では済まないでしょうね」
「は……?」
「どのみち解放したトゥイーニー無しでは黒鬼衆に殺されていましたから、結末を気にしても仕方ありませんよ」
ぼんやりしているトゥイーニーから距離をとった黒鬼がひそひそと話し合い、一人が大きな石をいくつか拾って勢いよく投げた。
それに合わせて一人が背後に回り、一人が上から飛びかかるかたちで先制攻撃する。
ところが石はトゥイーニーに当たる前に勢いを失ってポトポトと落ち、背後と上の鬼は近づくどころか他の黒鬼の方へ軽々と投げ飛ばされていた。
「あの子は攻撃するつもりがないのか?」
「反射的にって感じかな。まだ意識がはっきりしてなさそうだね」
眠そうに目を擦ってあくびをする姿に黒鬼衆はギャアギャアと喚き、今度は全員でトゥイーニーに襲いかかった。
緩急をつけた拳、全方向からの炎、包囲から抜け出る隙を与えない連続攻撃を解放前みたいに避け続けている。
大振りの拳をひょいと避けて一人の黒鬼の頭に乗ったトゥイーニーに先程までの眠そうな表情はなく、目をギラつかせた殺意を抑えられない狂暴な獣がそこにいた。
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