【無茶苦茶②】
「マ、グダ?あっ……やば」
思わず心の中の呼び方で名前を呼んでしまって急いで口を閉じる。敬称をつけろと殴られるかもしれない。
「好きに呼べ。貴様がぴーぴー鳴こうがぷーぷー鳴こうが私には違いがわからん」
「ありがたいんですけど……指!指が痛いんで!」
「おい!黒鬼にやられたんじゃなかったのか!なぜやられたふりなんかしてるんだ!」
「黙っていて申し訳ございません。トゥイーニーに負担をかける為です」
馬車の上から軽やかにルルゥさんが降りてきて、それに合わせてマグダが椅子を地面に設置し直す。焦げた顔も欠けた足も幻だったかのように無傷なマグダが当たり前の顔をしてルルゥさんの隣にいる。
怒ったアンダカさんがルルゥさんにズンズン詰め寄ってきた。
「説明してもらおうか!」
「とある事情でトゥイーニーは解放を怖がっています。今まではスチュワードとマグダに支えられてきましたが、これからはそうはいきません」
「なんの話だ!」
「私が夜の国を出るからです。ヴァンブラッド家は他の国で名前以上の価値を持ちませんから。トゥイーニーには強くなってもらわないと」
「そんなことの為にあの子どころか俺の同僚も死なす気か!」
「そんなつもりはございません。では、そろそろオルコ様とネーロ様には退いていただきましょうか」
ぶちギレているアンダカさんを呆れた顔で見たマグダが、結界から出て一瞬で二人を連れて戻ってきた。
「……は?なんだ?お前死んでなかったのか!」
「戦ってる最中に首掴まないでくれる!?」
頭の左側に血がべったりついているオルコさんと、服が破れている無傷のネーロさんが地面にぽいっと捨てられる。
「申し訳ございません。オルコ様の戦いに水を差したくはなかったのですが、危険なので退いていただきました」
「黒鬼にやられた姿は嘘だったそうだ」
「いや、まぁ……それはよかったけどさ。危険って?アタシはまだやれたけど?」
アンダカさんとは違った怒りで詰め寄るオルコさんに笑顔を返し、ルルゥさんはトゥイーニーを指差した。
「本気のトゥイーニーは私にも止められませんから」
目の前から敵が消えて周りをキョロキョロしていた黒鬼と、トゥイーニーを地面に磨り潰そうとしていた黒鬼が一斉に距離をとった。タイミングを合わせたみたいに一ヶ所に集まって、どうやら仰向けに倒れているトゥイーニーを警戒しているようだ。
小さな体は今にも死んでしまいそうなくらいぐちゃぐちゃで血まみれで、最初はなにを警戒しているのかわからなかった。
だけど小さな潰れた体がむくりと起き上がり、獣の唸り声と共に膨れ始めたとき、僕はトゥイーニーに感じたことない不安を覚えさせられた。
.