【無茶苦茶】
トゥイーニーは三体に囲まれながらも身軽な体で攻撃を避けては隙をついて反撃する。
オルコさんやネーロさんに向かおうとする黒鬼に攻撃を当てて自分の方に注意を戻したり、こっちに炎を吐こうとした黒鬼の顎を蹴り上げて閉じさせたり明らかに一人だけ仕事量が多い。
「あの体格差じゃ絶対に致命傷は負わせられない……。あの子を捨て駒にするおつもりですか!」
アンダカさんがマグダの足に包帯を巻きながら怒鳴った。確かに反撃しても黒鬼はビクともしていない。
それに初めのうちはなんとかなっていたトゥイーニーの戦いがじわりじわりと押されてきている。危ない攻撃はどれも間一髪で避けてはいるが……掠めた爪で頬を切ったり、炎で服の端が焦げたりして見ていられない。
「お気づきでしょうがトゥイーニーは戦獣族です。能力を解放し、コントロールすれば苦戦することはありません」
「ネーロも戦獣族だが能力解放はそんな便利なものではありません!解放は身体能力を三倍近く上げるもので、夜の国の一族で最強のネーロは元々が強いから黒鬼とやれているんです!それなのに貴方の従者を戦えなくした黒鬼を三体も相手にさせるなんて!」
正面にいる黒鬼の大振りの拳をなんとか避けたトゥイーニーだが、背後の黒鬼に気づかずゴッという鈍い音がして地面に叩きつけられた。
「トゥイーニー!」
思わず叫んだが黒鬼の攻撃は止まず、倒れた体を囲んで強烈な踏みつけを繰り出している。大きな足が上から下ろされるたび、囲まれた足から助けを求めるように伸ばされた手がガクンガクンと揺れた。
そんな姿を見て動揺したのかオルコさんの動きが鈍くなり、よそ見をした隙に重たい一発がオルコさんのこめかみにヒットした。
「がっ!」
「オルコ!」
「大丈夫だ!」
どうにか持ち直して黒鬼と対峙するが、さっきの一発で気力と体力をごっそり持っていかれたように見える。
「ルルゥさん……なんでトゥイーニーにあんなことさせてるんですか。なんで助けてあげないんですか!」
僕が行っても一瞬の時間稼ぎにもならないけど、どうにかしたくて馬車から降りる。結界の近くまで行って、外に足を踏み出そうとすると誰かに肩を強く掴まれた。
指が肩に突き刺さったんじゃないかと思ったぐらい痛くて、驚きと痛みで声が出ないまま僕は肩にある手を掴み返した。
「我が主の側を離れるな。貴様の役割を忘れたのか」
辛辣な言葉と声に振り返ると、ボロボロで気絶していたはずのマグダが無傷で立っていた。
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