【鬼】
濡れた音の場所には体のあちこちが焦げ、更に右足が無くなったマグダが転がっていて、今までマグダにされた嫌なことが全部吹っ飛ぶくらい衝撃的な姿がそこにあった。
「え……」
赤い地面に倒れるマグダからは不思議と血はどこからも出てなくて、気絶しているのか目を覚まさない。
アンダカさんとノイルさんが大急ぎでマグダを移動させて手当てしようとするけど、どういう状態になってるのかわからないらしく、とりあえずいろんなポーションを振りかけている。
マグダがあんなことになってもルルゥさんは心配するわけでも取り乱すわけでもなく、大変なことになっている側近の確認もせず結界から自由になった黒鬼衆を見ていた。
「こちらの結界にほとんどの力を使っていますから、あちらの結界は簡単に壊されてしまいましたね」
「ルルゥさん……マグダさんを放っておいていいんですか?」
僕の言葉を無視してルルゥさんは三人に向き直る。
「オルコ様とネーロ様とトゥイーニーであとをお願いできますか」
「任せろ。命のギリギリまでやってやるつもりだ」
「ルルゥ様さ、オルコもボクもあれを一斉に相手すんのは無茶だってことはわかってるんだよね」
「はい。可能であればお二方で一体ずつ相手していただければ助かります」
「いやいや、それってその子の負担がきついんじゃない?」
その子と言って視線で示すと、ルルゥさんは優しい表情でトゥイーニーと目を合わせた。
「いいですか、トゥイーニー。マグダが倒れてしまったので私たちの命は貴方にかかっています。絶対にお二方を死なせないでください」
困惑した顔のトゥイーニーはぎゅっと目を瞑ると喉から絞り出したような弱い声で『はい』と返事をする。
そんなやりとりをしている間にも黒鬼衆はこちらにゆっくりと歩みを進めていて、それに気づいたトゥイーニーはこれ以上近づけさせないためなのか、真っ先に結界から飛び出していった。
「あー、もう最初から全力とか疲れるんだけどなー」
言葉とは裏腹に楽しそうなネーロさんの目から頬を伝って体へと深い青色の複雑な紋様が浮かび上がる。子供の時に読んだ図鑑の細身で素早くてしなやかな肉食獣を思い出す。
「アタシがこんなこと言うのはなんだけど、ルルゥ様も鬼だね」
オルコさんとネーロさんがトゥイーニーを追うように結界から出ていき、静かで気まずい空気が結界内に流れる。シンとした空気が苦手なのかノイルさんがコホンと咳払いした。
「あー、主従関係に口を出すつもりはありませんが……本当に大丈夫なんです?」
「大丈夫です。私のトゥイーニーですから」
まったく答えになっていない気がする。
「あれを三体同時に相手できるほどなんですか?」
すでに黒鬼衆との戦いは始まっていて、二人はそれぞれ一体ずつ相手をしている。体格は少し小さいけどオルコさんは特製の武器で同程度に攻撃を打ち合い、力任せの攻撃や小出しの炎に素早さで攻めるネーロさんはやや苦戦ぎみだ。
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