【鎧】
ネーロさんを離したオルコさんがみんなから距離をとり、おもむろに鎧を外し始めた。
「え!え?オルコ、ほんとに?」
「お前が鎧を外すのなんて初めて見るぞ!」
距離をとりつつもネーロさんとアンダカさんが慌てながらオルコさんの周りをうろうろする。美青年と厳つい顔の二人が戸惑いながら徘徊する様はシュールでなんとも言えない。
そんな二人を気にもせず鎧を脱ぎ捨てていくと傷だらけの褐色の肌が見え、戦士の引き締まった筋肉と女性らしさの同居する体が現れた。
最後に兜を荒っぽく掴んで取り外すと、思っていたよりも男前で色気のある顔立ちと短く切られた白髪、それと短い金色の角に目を奪われた。
「貴方は、鬼族なのですね」
「邪神種鬼族の赤鬼衆のわずかな生き残りだ。生涯種族を明かすつもりはなかったが、黒鬼衆は祖先の仇だからな」
薄着で裸足なので直視しづらい……。気を使ってなるべく見ないようにしているけど、どうしてもチラチラと目がオルコさんにいってしまう。
「なんだよ、カル。鬼だからびびってんのかよ」
「いや!その、そのまま戦うんですか……?」
「んなわけないだろ。まぁでも鬼族は普通にしてても下手な防具より肌の方が強いんだぜ」
「え?さっき鎧から血がドバドバ出た状態で運ばれてきましたよね?」
隙間から刺されたって言って血まみれで運ばれてきてたような。すごく鋭利な武器で刺されたんだろうか?
するとオルコさんは転がった鎧を馬車の近くに置いてポンと叩く。
「普段つけてるこの鎧な、鬼族の力を弱めてくれる特別製なんだよ。じゃないとカルなんてちょっとぶつかりゃ肉のスープになっちまうだろうからな」
「肉の、スープ……」
「で、戦うときは邪力で強化する」
強化する、と言ったオルコさんがあっという間に薄着から身軽な軽装備に変わる。肩や肘にプレートが付き、胴体は太めに編まれた金属で守られている。
腰に白いふわふわが付いたマントは可愛らしく、蹴られたら僕なんか消し飛びそうな金属製のブーツはオルコさんにすごく似合っていた。
「オルコ!オルコ!これが落ち着いたらボクと手合わせしようよ!本気の君としたい!」
「やだよ。いくらお前でも死んじまうぞ」
目をキラキラさせてにっこにこ笑顔のネーロさんが正面から見上げるけど、オルコさんの嫌そうな顔を見るとお願いは叶いそうにないだろう。
「ちょっと!そんなお気楽にやってる時間ないから!」
和んでいたムードがよろよろと歩くメイちゃんの叫びで一気に緊張状態になる。メイちゃんの叫びというよりは叫びと同時に始まった黒鬼衆の雄叫びで、の方が正しいかもしれない。
「オオオオ!グオオオオオ!」
閉じ込められた結界の中で黒鬼衆が体を小さく丸めたかと思うと、その口から黒い炎をゴバッ!と吐いた。
咄嗟にルルゥさんの手で目が隠されて、なにかと考える暇もなく瞼に強い光が透けて見えた。ゴッという風の音とズシャッと濡れた砂利のような音が聞こえ、少し遅れてルルゥさんの手が外される。
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