【第一局面②】
「相手を一掃する魔力攻撃はほとんどできないんですね……」
「ここにいる方々で、強大な魔力放出ができるのはスチュワードくらいですね」
あ、できるんだ。巻き添えにするからしていないだけか。みんなを下がらせてスチュワードで一掃すればいいのに。
「戦いには勝ってほしいですが、正直なところ手助けをしている立場なのでスチュワードやマグダに無茶をさせるつもりはありません。それにトゥイーニーの能力克服のチャンスなので、私はトゥイーニーに頑張ってほしいのです」
「トゥイーニー?」
メイド服姿でとことこ危なっかしく戦場を走るトゥイーニーの手には短剣が握られている。するするっと敵の頭に登ってから別の敵の肩へと跳んで移動すると、通ったあとに首から血を噴き出しながら倒れる敵の姿があった。
「あの、トゥイーニーの能力って……」
「くそっ!鎧の隙間に突っ込んでくんじゃねえ!」
質問しようと口を開くとパペットに連れられてオルコさんが運ばれてきた。強固な鎧の繋ぎ目に持ち主を失った剣が半分以上刺さっていて、ボトボトと流れ出す血に僕は思わず大声を出した。
「オルコさん!大丈夫ですか!」
「死んでねえから問題ない!中が気持ち悪いくらいだ!」
強引に剣を引き抜いて、兜から血を飛ばしながら怒鳴る元気があるなら大丈夫だ。オルコさんの中身は見たことないが、この感じならきっと頑丈な種族なんだろう。
「幻霊族のやつら、器が駄目になったらすぐ違う器に憑依しやがる。本体をどうにかしねえと終わらねえ」
「動く器を作らなければいいんですよ。三つ以上に分解すれば解決します」
「っ!」
エリスさんの声がして、前を見て僕は心臓が止まりそうになった。
ぐったりした仲間の執事を何人か結界内に引きずってきたエリスさんの顔は、右目の場所がかろうじてわかるくらいの酷さに切り裂かれていて、綺麗な燕尾服がボロボロの布切れみたいになっていた。
「エリスさん!?」
「はい?」
「大丈夫なんですか!?」
仲間を馬車の周りに寝かせたエリスさんは破れた服の動きにくい部分の布を引きちぎり、その布で自分の顔を何度か拭いた。
剥き出しの傷口を厚手の布でガシガシ拭くのは見ているだけで背中がぞわぞわする…。
「まぁこれくらいならすぐ治りますよ。少しの間はお目汚し失礼いたします」
体格の近い執事から燕尾服の上着を奪ったエリスさんはルルゥさんを見上げて『お伝えしたいことが』と言った。
「ルルゥ様、少々面倒な相手が現れました。フードとマントで体を隠している複数の魔獣族が『ボギー』と名乗り、姿を見た者に恐怖を与えて錯乱させ、味方を襲うように仕向けています」
「姿を変える相手なのですか」
「いえ、ボギーの隠された部分は暗い闇のようになっていて体は確認できませんでした。恐怖の種類が違っているので見る者によって違いがありそうです」
.