【挨拶】
聞き覚えのある傲慢そうな青年の声がして見上げると、マグダの守護結界の外側にディーヴィがしゃがんでいた。
「ディーヴィ!!」
「逃げるなよ!!引きずり下ろしてやる!!」
アンダカさんとオルコさんの声には反応せず、ニヤニヤと笑うディーヴィの視線はルルゥさんだけを見つめている。
「強制契約解除で仲間を救う!あー涙が出るぜ、俺がそんな優しいヤツだと思われてるなんて腹がよじれそうだ!」
「なにをしたのですか」
「無理矢理戦わされている味方だからやりづらいと思ってな、気を利かせて殺しといたぜ」
無言で武器を振り上げたノイルさんと額に青筋を浮かべたアンダカさんが襲いかかろうとしたが、スチュワードとマグダに止められてしまった。
ノイルさんは腕を掴むスチュワードにギロリと血走る目玉を向ける。
「おい」
「あれはディーヴィではございません、姿を真似た魔獣族です。冷静にお考えを」
「命乞いして泣いてるヤツもいたなぁ。アンダカ、お前んとこの若いヤツ最期までお前の名前呼んでたぜ!可哀想に!」
「ディーヴィ様、ではその殺された方々はどうしてあそこに立っているのですか」
歯を砕くんじゃないかと思うほど食いしばっているアンダカさんを、オルコさんとネーロさんが落ち着かせている。
「あーあれ?幻霊族にくれてやった。器を欲しがってたし、死者を操れるらしいから俺からプレゼントしてやったよ。無口なのがおもしろくねぇけど戦力としちゃ充分だ」
表情の無い人たちはもう殺されて中に幻霊族が入っているのか…。それって戦場で殺されても死体がある限り復活できるってこと?強すぎない?
「まぁ、はりきっていこうぜ」
ニヤァと笑って腰に差していた短剣を抜くと、ディーヴィはそれで迷いなく首を刺し貫いた。あまりに衝撃的でぎゅっと目をつぶったけど、濡れた音と地面に落ちた音が生々しく聞こえて耳も閉じてしまいたくなった。
「なにがしたかったんだ」
「こんなことのために部下を殺すのか」
オルコさんがディーヴィを真似ていた魔獣族の遺体を不思議そうに観察する。その魔獣族の成人男性は獣族と人の中間みたいな顔をしていて、頭から生えた丸い耳と濃い黒の目の縁取り、それと太く丸い尻尾が特徴的だ。
「恐らくですが私たちを戦わせたいのでしょう。ヴァンブラッド家侵攻の際、ヴォルスト様に殲滅されて失った戦力を幻霊族と我々の死体を使って再構築するのではないでしょうか」
エリスさんの言葉にルルゥさんは首を傾げる。
「たった数十の幻霊族でヴォルスト兄様に対抗できるとは思えません」
「ルルゥ様の遺体ならばどうでしょう?ヴォルスト様はルルゥ様を大切に想っていらっしゃいますので。それにルルゥ様の側近を運良く仕留められ幻霊族が憑依したら……とても厄介なことになるのでは?」
「否定はしませんが……」
「全滅させればいい話だ」
二人のやりとりにノイルさんが割って入る。血管が浮き出るほど斧を握り締めていて、雰囲気が獰猛な獣そのものだ。
遠くからディーヴィ軍が進攻してくる音がした。
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