【観戦】
そーっとメイちゃんの後ろに腕を回してペティちゃんの頬をつついてみる。ルルゥさんと話すのに夢中なのかメイちゃんは僕の腕に気づいていないみたいだ。
柔らかくぷにっというよりは張りのあるぱつんとした肌の感触。帽子からはみ出ている黒い巻き毛は思った以上にしっかりしている。
耳は……普通だ、穴もある。試しに指を入れてみるとさっきまで閉じられていたペティちゃんの目がパチンと開いた。
「なになに!?ちょっと!お前なにしてんの!?」
「いった!!」
いたずらがバレてしまい、メイちゃんに気づかれて両手で勢いよく突き飛ばされる。馬車の壁に頭をぶつけて目がちかちかした。
ペティちゃんは黒い瞳を驚いたようにぱちぱちさせて両手を口に当てて体を小さくし、メイちゃんは両手を広げてそんなペティちゃんを守っている。
「わ!ごめん!寝てるから大丈夫かなぁと思って!」
「普通女の子をぺたぺた触る!?なになに?お前変態なわけ!?」
「メイ様、大変申し訳ございません。カル様はメイ様と同様閉鎖されたところにおりましたので、まだ世界に慣れている途中なのです」
「あのヴァンブラッド家の従者なのに世間知らずで弱くて箱入りって……身分不相応じゃんか」
やばい、大変だ…メイちゃんがものすごく怒っている。近づいたら噛みつかれそうなので壁に背中を預けたまま両手を合わせて『ごめんなさい』のポーズをとった。
「本当にごめんなさあああ!!」
決してふざけているわけではなく、謝っている最中にいきなり馬車に強い重力が発生した。
床に顔を強く押しつけられて頭を上げられない。両腕で潰されないように床を押すのがやっとだ。
「姫様、少々厄介なことになりました」
扉からスチュワードが入ってきて丁寧に扉を閉める。もちろんこの状態の僕は完全に無視されている。
「恐らくディーヴィの軍勢だと思われるゴブリンの大群が地面から現れました。衝突は避けられそうにないので今は緊急措置で空に上げております」
「他の方々はどうしましたか」
「各々戦闘中です」
「っ!?ペティ!パペットの準備するよ!」
戦闘中と聞いてメイちゃんはペティちゃんを抱えて、来たときと同じ勢いで扉から飛び出していった。え、ここ上空じゃなかったっけ?
この重力的に馬車は浮かしてるんじゃなく、打ち上げたかなにかしたんだろう。あ……ちょっとマシになってきたかもしれない。
「被害が大きくならないうちに処理してください。私がディーヴィ様なら弱った頃に戦力を投入しますから」
「姫様はどちらに?」
「私はカル様とここを中心に傷ついた方々の回復を担当します」
「私の守護結界を張ります。我が主はそちらで私の活躍を見ていてください」
完全に下向きの重力が無くなり、気持ち悪い浮遊感と一緒に体がふわっと宙に浮いた。あ、これ落ちるやつ!
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