【馬車】
村を出てディーヴィがいる平野に向かう。いつでも飛び出せるように大きめの荷車に乗っているみんなとは違い、外が見えない屋根付きの上等な馬車に僕とルルゥさんとマグダが乗っている。
相変わらずトゥイーニーの姿はなくて、スチュワードは馬車を動かす御者になっているけど、メイちゃんペティちゃんの操る大型の人形が車を引いているので実は必要ないらしい。
乗り込む前に見てみた大型人形は村で襲ってきたあれを大きくして四つん這いにさせた趣味の悪いものだった。
「ルルゥ=ローゼン=ヴァンブラッド様!お話をさせていただきたいのですがよろしいでしょうか!」
ゴトゴトと車輪が鳴る音よりも大きい声が外から聞こえてきた。ルルゥさんが小さく頷くとマグダが馬車の扉を開く。
「失礼します!」
走っている馬車に乗り込んできたのはメイちゃんとペティちゃんで二人はルルゥさんとマグダの向かい側、僕の隣に座った。
艶っとした濃い紫色の肌が近くにあって、ついまじまじと見てしまう。僕のいた世界だとありえない肌色だけど意外と違和感ないなぁ。
「突然来てしまってすいませんが、貴女様の従者に私たちのことをどこで知ったのかを聞いてほしいのです」
メイちゃんはルルゥさんに話しかけているが、目線はマグダから離れない。
「私とペティは幼少期ディモニア家からの指令でとある邪神種に弟子入りしています。種族秘伝なので誰にも口外していませんし、閉鎖空間の中で修行していたので私たちを知る者もいません…なのになぜ貴女の従者はそれを知っているのですか」
「マグダ、答えてあげてください」
揺れる車内で姿勢を崩さないマグダはとても面倒くさそうにメイちゃんを見つめ返す。
「貴様らが弟子入りしたポウラ・テイカーとは古い知り合いだ。前に訪ねたとき水酒を飲んで酩酊した状態で、ディモニア家から秘密裏に弟子をとるとうるさく聞かされたのを思い出した」
「師匠!ダメじゃん!もう!」
「あら、マグダにもお友達がいたんですね」
ルルゥさん、それは酷くないか!?
「あの、私たちのことは言わないでいただけると助かります。師匠はもうこの技術を伝えないと言っているので……私たちが最後の弟子なんです」
「あら、そうなんですか」
「邪神様から啓示を受けたそうです。内容までは教えてもらえませんでした」
「邪神様のお考えはわかりませんが、きっとなにかあったのでしょうね」
始めは話す人に合わせて視線を動かしていたけど、今は会話する二人を飛び越えて僕の視線はペティちゃんに釘付けになっていた。
ぐらんぐらんと揺らぐ羊の帽子、前髪からちらっと見えた目は閉じられていて口元がむにゃむにゃ動いている。
マグダも気づいているのかペティちゃんを見る顔がしかめっ面だ。
この子、自分より格上の馬車に飛び込んできて呑気に寝てるぞ!!
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