【開戦前】
「ディーヴィ軍は北の平原から動きなし!」
悪魔族の伝令役がみんなに大声で報告する。
僕たちは城からトゥイーニーが守護結界を張った北の村に移動していた。待機していた傭兵やアンダカさんの部隊、獅子頭の組合の人たちなど集まっている人たちと総攻撃を仕掛けるらしい。
村の端に救護テントを建ててサティナ様を慕う領民が炊き出しを配り、戦略テントで作戦を考えているみたいだ。スチュワードとマグダはルルゥさんの側にいるけどトゥイーニーの姿はない。どこ行ったんだろ?
城にはルフレとサティナ様が残り、ルフレの執事たちはエリスさんを含め全員がこっちにいる。
せめて執事の一人だけでも城に待機させてほしいとエリスさんは頼んでいたが、駄々をこねるロムを研究室に引っ張っていくのに忙しいのか完全無視されていた。
「あぁ……心配です。ルフレ様は監視していないと寝食を忘れて過ごしてしまうのに……きちんとお食事をしていただいて、適度に御手洗いに誘導して寝かさなければ……」
おろおろする執事たちに囲まれて頭を抱えているエリスさん。ルフレってそんな過保護にされてるんだ……。いい歳の大人なら放っておいてほしいんじゃないかなぁ。
戦略テントからうんざりした顔で出てきたアンダカさんは、僕たちに気づくとこちらに歩いてきた。
「傭兵も組合も戦力が少なくて消極的でな、俺も共に行くが先陣はそちらに任せきりになりそうだ」
「問題ない。我が主がいれば私が負けることはない」
「悪魔族や獣族の方々が操られていなければ、あの時ディーヴィを亡き者にできていたんですがね。余計な手間がかかりますな」
「あの、アンダカさんはサティナ様と一緒じゃなくてよかったんですか?」
「俺は強いからな。城でじっとしているより敵を殲滅する方が戦いが早く終わる。坊主こそ城で待機してなくてよかったのか?」
「カル様と離れている方が不安ですから」
「過保護にされてんだな」
嘆くエリスさんを見てから言ってほしい。僕はあれほどじゃないぞ、多分。
「ディーヴィはなぜどこにも侵攻しないんだ。ヴァンブラッド家にもディモニア家にも向かう様子がないのはおかしくないか?」
「ディーヴィの偵察部隊はヴァンブラッド家の次期当主に殲滅されているからな、挟まれるのを警戒しているんだろう」
背後から低く喉を鳴らすような聞き覚えのある声がした。
振り返ってみるとトゥイーニーと話していたあの獅子頭が悠然と立っていて、アンダカさんはポカンとした顔で獅子頭を見つめた。
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