【鍵②】
「そんな遥か昔の種族を引っ張り出すのは吸血鬼族らしいといえばらしいか」
「悪魔族も食糧や生け贄として散々使い潰していたらしいですが」
アンダカさんとエリスさんの視線が交差する。
「根源が人間ならばこちらの部隊に鼻が効く者がいる。この世界の唯一の人間を探せばそいつに辿り着くだろう。ヴァンブラッド家に害を与えないうちに葬っておきたい」
この世界の人間を探されたらその人じゃなくて僕が見つかってしまう。ルルゥさんは表情を変えないけど、不安なのか僕との距離がかなり近い。
僕の心臓がうるさく脈打ってるのか、ルルゥさんの心臓の鼓動なのか、どくんどくんと音がする。
「こっちにもそういう担当はいる。望みは薄いがその線で一度動かしてみることにしよう」
「そいつが鍵を奪った可能性はあるか」
「当主と共に過ごしたが、恐らく鍵は物として置いていない。持ち歩いている姿は見たことがないからな」
静かに深呼吸を繰り返し、どうにか心を落ち着ける。幸いにもそこからは人間の話に触れず、何事もなく元いた部屋に戻ってきた。
ルルゥさんとルフレとサティナ様がソファーに座ると、マグダが目でなにかを伝え、スチュワードは答えるように軽く頷く。
「ルフレ兄様、私と契約を結んでいただけませんか」
「内容も聞かずに契約を結ぶわけないだろ」
「私は鍵に心当たりがありますのでルフレ兄様にお教えしようかと。その代わりルフレ兄様は私が夜の国を出る手伝いをお願いしたいのです」
列を乱さず崩さず整列していた執事たちが一気にザワザワとざわめきだす。姿勢を崩してはいないけど、エリスさんもとんでもないものを見たような顔をしている。
驚いているのはヴァンブラッド家の人たちだけではなく、サティナ様や悪魔族の人たちも護衛も信じられない表情で誰かとなにかを話している。
ざわつく周囲が気にならないのか、ルルゥさんとルフレは静かに見つめあっていた。
「鍵はどこにある」
「契約を交わしたあとにお教えしますよ」
ルルゥさんの手から煌めく紋様や文字が生み出され、それが織り込まれて一枚の紙に変わった。
エリスさんが止めるのも無視してルフレはそれを指でつまみ上げ、サラサラと指先でサインをする。
「で、鍵は?」
「サティナ様、ロム様とお話をさせていただきたいのですが」
「ロムロロと、ですか」
サティナ様がメイちゃんとペティちゃんを手招きすると、ペティちゃんに抱えられているロムがぬいぐるみの足をバタバタさせた。
「え、や、ちょっとなんっすか!こんな偉い立場の集いに連れてこないでほしいっす!」
「ロム様、研究室を開けていただけますか」
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