【城②】
執事に案内されるまま、後ろをぞろぞろとついていく。あちこちにある同じような扉や、延々と続く赤絨毯の廊下はこの城の大きさを嫌でも感じさせられる。
「カル様、少しの間ルフレ兄様の前では静かにお願いします」
前に聞こえないくらいの小さな声でルルゥさんに話しかけられた。静かにって普段僕がはしゃいでるみたいに聞こえるなぁ…。
「怖い方なんですか?」
「いえ、ルフレ兄様は怖くありませんよ。怖いのはその側近です」
「側近……」
「案内してる彼です。彼、エリス=ロクル=オーリンはオーリン家の家長で、ルフレ兄様の執事をしています。ヴァンブラッド家ほど力は強くはありませんが、そこそこの吸血鬼族ですよ」
他にも吸血鬼族っていたんだ。ヴァンブラッド家が唯一で頂点なのかと思ってた。そういえば悪魔族も他の悪魔族がいたんだから吸血鬼族にも他の吸血鬼族がいるのが普通だよね。
「ルフレ様はこちらでお待ちです」
声につられて見てみると他とは違う扉の前に着いていて、エリスさんは迎え入れるように扉を開けた。
部屋の中は大広間にいた使用人とは比べものにならないくらい統率された執事が綺麗に整列していて、黒く艶のあるソファーには病弱そうな青年が一人座っていた。
明るい色の巻き毛に眠たそうな赤い瞳、首元にひらひらのついた服がこんなに似合う人もいないだろう。
「サティナ=ディモニアです。この度は反乱者討伐の協力と、当家の使用人を救っていただき誠に感謝しております」
サティナ様が護衛から一歩前に出て軽く頭を下げるが、病弱青年は何も言わずに黙ったままだ。え、挨拶を無視していいの?
悪魔族の人たち、特にカブラさんの表情がわかりやすく苛立っている。ルルゥさんには大声で怒鳴って攻撃の意思も見せていたけど、相手が婚姻契約相手だからか今回は大人しい。
「サティナ様、ルルゥ様。こちらのソファーへどうぞ」
エリスさんに促されて二人は別々の黒の一人掛けソファーに座った。
「僕はルフレ=ローゼン=ヴァンブラッド。難しい話をする気はない。ディモニア家の領地に口を出す気もない。僕はダヴィル=ディモニア当代の研究室がもらえればそれでいい」
「っ!それは……!こちらの製薬技術を全て独占されるということですか」
「独占?僕は僕の好きなときに自由に使う研究室がほしい」
膝の上で拳を握るサティナ様にエリスさんがそっと書類を置く。
「詳しくはこちらの契約書に記載しております」
「……。本当にこの条件で?」
「ディーヴィ=ディモニアとその配下の処分の協力をし、処分後のディモニア家の領地及び統治にはルフレ様は一切関わりません。現在ダヴィル=ディモニア所有の研究室をルフレ様の名義に変更してきただき、その代わり製薬技術はディモニア家の領地内から一切持ち出し不可としています」
「これは……こちらばかり得をしているのでは?」
「僕は領地なんてどうでもいい、統治なんてしたくない。魔力や薬品の研究ができればいい。だからそれでいい」
なんてやる気のない人なんだ。要するにやりたいことだけやるから協力するってことだよね?偉い立場の人がそんなのでいいのか……。
,