【城】
村から険しい山に景色が変わってくると城がどんどん近づいてきて、またあの歪んで薄暗い城に僕たちは戻ってきた。
マグダは僕たちを下ろすとすぐに城の門とルルゥさんの間に立ち、スチュワードも一定の距離から離れない。
アンダカさんたち悪魔族、ネーロさんとオルコさん、メイちゃんペティちゃんがサティナ様を中心に隊列を組んでいる。
今度は門を無視せず、むしろ堂々とアンダカさんを先頭にして中に入っていく。なにが飛び出してくるかわからないので、サティナ様の護衛たちは警戒した表情で次々に中へ入っていった。
ルルゥさんを見ても微笑むばかりで、スチュワードとマグダはまだ動く気配がなく表情もいつも通りだ。
「ふむ、戦闘の様子はありませんね」
「あったとしてもさっさと片付くだろう」
庭園の先にある中央の建物に入ったサティナ様たちが安全なのを確認して、僕たちもそれに続く。
「おかえりなさいませ!サティナ様!」
「おかえりなさいませ!皆様方!」
僕たちが存在していなかったあの大広間には出迎えの使用人が勢揃いしていて、先に入っていたサティナ様たちも困惑している様子だ。
こう並ばれるといろんな人たちがいるんだなぁと思う。ほとんどベースが同じ人間とは違って、同じ種族だと思う人でも見た目が明らかに違う。
見たことない人もいるし、その人たちは種族すらわからない。
「……あれ?こんな感じでしたっけ?もっと無視されてましたよね」
「恐らくですが契約が解除されています」
「でも契約ってサティナ様しか解除できないんですよね?」
「条件はありますができないわけではありません。ですが、その条件を満たすとなるとかなり限られますね」
大階段の前で涙ぐみながらサティナ様に話す使用人がいたり、立ち位置を変えずそれを見ている使用人がいたりと温度差があるように見える。
まだサティナ様がディモニア家の正式な当主じゃないからなのかと思ったけど、何人かの使用人は明らかに態度が冷たい。さすがにあれは雇い主に向ける視線ではない気がした。
――――カツン、カツン
大階段からなにかが下りてくる音がして、周りを囲んでいた使用人は慌てて整列し、サティナ様の護衛は階段の方へ向き直る。
スチュワードとマグダはルルゥさんの側を離れず、ルルゥさんは僕の側から離れない。
「お客様が来られたら案内するようにお伝えしたはずですよ」
響きのいい上品な声と生地の良い燕尾服に身を包んだ男性の執事が階段から下りてきた。
整えられた淡いピンク色の髪に薄い赤色の目、片眼鏡をつけた若い執事はルルゥさんとサティナ様に深々と頭を下げる。
「ルフレ=ローゼン=ヴァンブラッド様がお待ちですのでご案内いたします」
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