【移動】
待たせてはいけないと急いでみんながいた家に戻ってみると、外に全員が勢揃いしていて僕を見るなりルルゥさんは手招きする。
「はい?」
「その服とっても似合っていますよ」
「あ、りがとうございます」
ちょっと離れていただけなのに、至近距離で話されると美しさに新鮮さを感じて困ってしまう。
眉間にしわを寄せるスチュワードと、今にも僕を締め上げそうなマグダが視界の端に見えるけど…怖いから無視しておこう。
「では今からディモニア城に向かい、城を奪還し従者を解放します。解放後は守護結界で城を守って本拠地とし、ここ以外の村にも戦闘に備えて守護を施す予定です」
「距離のある村はこちらにお任せください。すでに私の従者が向かっております」
ふと隣を見るとトゥイーニーがいなかった。さっきまでいたのに!いつの間に!
「目立ちたくないので素早く移動しましょう。ネーロ、お願い」
「カル様は私と一緒にこっちですよ」
行きと同じくルルゥさんは丁寧に抱きかかえられ、今度の僕はマグダに後ろ首を掴まれて吊り上げられている。あれ?行きよりも扱いが悪くなってるよね?
サティナ様はネーロさんに抱えられ、アンダカさんたち他の悪魔族の人たちは背中から羽を生やして次々と空と地面を使って移動していく。
オルコさんは軽く走りながらネーロさんたちと話しているし、ペティちゃんはメイちゃんを抱えて背中に付いた背負い鞄から生える六本の腕を使って地面を高速で這っている。
もしかしてあの腕の一本にくくりつけられているのってロム……?いや、まさかね。
マグダもそれに続いて宙に浮き、スチュワードもどうやってか翼もないのに空に飛び上がった。
「どうですか、食事は口に合いましたか」
「はい!美味しかったです!あの、食事代は……」
「私のカル様にそんなものの必要はございませんが、せっかくですので今後の為に血を頂いてもよろしいですか」
首を掴まれて情けない体勢のまま僕はゆっくり手を取られ、ルルゥさんの親指が手の甲にスッと滑る。
横一線に赤い血が流れ出し、糸みたいに束ねられた僕の血はルルゥさんの手のひらでまたあの宝石に変わった。今回は小さめな三つの宝石になり、手を握ってぱっと開くとそれはどこかに消えてしまった。
手の甲には痛みも傷口もなく、赤いラインを指で拭ってぺろりと舐めたルルゥさんはいたずらっ子のような顔で僕に笑う。
「もったいなかったので、つい」
横から聞こえるギチギチという歯軋りも、背筋をゾッとさせる後ろからの威圧感も、今この瞬間だけは全く怖くなかった。
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