【必要なもの②】
トゥイーニーが服の中から白い厚めの本を取り出してペラペラとページをめくる。絵や文字が書いてあるページもあれば、真っ白のページもあり一目ではどう使うかわからない。
絵に向かって文字が渦巻くページで手が止まり、トゥイーニーがそれを見せるように広げると、獅子は宙に指をぐるぐると動かして最後にピンと弾く。
するとページ全体に色が付き始め、色とりどりになったページを破り取ると、それは元から無かったみたいにトゥイーニーの手の中で消えた。
「組合に知らせる。ちょっと待て」
獅子が椅子から立ち上がり、壁のビンをいくつか手に取っている間、僕は服の中に本を入れようとしているトゥイーニーに話しかけた。
「え、契約っていうのはあれで終わり?」
「事前に作ってあった契約書に互いの魔力を入れればいい」
「これはルルゥさんに言われて?」
「服はご主人様だけど組合との契約は違う」
「……こっちの連絡は終わったが、そこの無知な野郎は誰だ。俺は無知と馬鹿が心底嫌いなんだ」
気付けば獅子は僕たちのすぐ近くまで来ていて、獰猛で野性味のある顔が僕を見下していた。
「これはご主人様の新しい下僕。保護がかかっているから大丈夫」
「ヴァンブラッド家の所有か。こいつから情報を抜かれた場合は、そっちの契約をそのままにこっちの協力契約は破棄させてもらう」
「それでいい」
「……本当に大丈夫?僕にかかってる保護ってそんなに強い?拷問されたりしたらきっと僕は耐えられないよ」
「誰か絶対一緒だから心配いらない。それにディーヴィの情報をディーヴィはいらないから大丈夫」
そうか。今から聞くのはディーヴィの情報だっけ。
トゥイーニーの返事を聞いて肘掛け椅子に戻った獅子は、懐から模様の綺麗な細長い棒を取り出してくわえると、口から薄紫色の煙をふぅと吐き出した。
「ディーヴィ=ディモニアは魔神種悪魔族のディモニア家の次男だ。体力面はそれなりだが、魔力も統率力も兄のダヴァラと比較にもならないほど低い。管理している村も少なく、配下もほとんどいない」
「え……あんなに強そうだったのに」
「そう変わるほどのなにかがあったのは確かだ。しばらく前にディモニア家に種族不明の物売りが訪ねていてな、付近の村では何度か大きい音を聞いている」
「戦ってたんですか?」
「いや、大きな音はそんなに珍しくない。ダヴィル様が珍品の危険物が好きで、たまに城を爆発させていた。今回もまた物売りから仕入れた品でやらかしたんだろうと思っていたが……違ったらしい」
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