【必要なもの】
ファンダングを食べ終わったあとは、また市場に戻って今度は服を探す。なるべく臭い服とのことだけど……できればほどほどにしてほしい。
家一軒を改造してある大きな店や、地面に布を敷いて骨董品ぽいものを置いてある店など目新しいものばかりでわくわくする。
よくわからない甘辛い串焼きや、かすかに甘い黄色の棒状のなにかを食べ歩きながら店を回っていると、突然きょろきょろと辺りを見回したトゥイーニーはふくよかな女性が立っている店に走っていく。
「カル!ここ!」
「リーの古着屋へようこそー。なにをお探しでー?」
「これとこれと、これとこれ!着替えて!」
店に入るなり迷いなく選んだのは思ったより無難な感じで、青とグレーのまだら模様の大きめのコートだった。
奥の方で着替えてみたけどにおいも特に臭いとは思えず、少し香ばしいなぁくらいのものだ。寄ってきたトゥイーニーに『大丈夫、臭い』と言われた以外は悪くなかった。
「におい消しの薬屋を探してる」
「市場にいくつかございますよー」
「そういうのじゃない。特別な薬屋」
トゥイーニーが女性に金貨を三枚渡して小声でなにかを伝えると、女性はにっこりと笑顔で道を紙に書き始めた。
絶対これ怪しい取引してるよね……。
紙を受け取って今度は市場から離れた灯りのない暗い路地裏に入っていく。手を引かれているからなんとなく歩けるけど、目が暗さに慣れても壁がぼんやり見えているだけ。
「大丈夫!?今の僕はなにも見えてないよ!」
「ん、もうついた」
何事もなくそう長く歩かないうちにどこかに着き、ギギギと古そうな扉の音がしたかと思えばようやく灯りが見えた。
中にはいろんなビンが壁一面隙間なく所狭しと並んでいて、ほわほわと光る玉があちこちでゆっくり飛んでいる。その部屋の真ん中にぽつんとある肘掛け椅子には眠った獅子の頭をつけた男の人が座っていた。
その獅子頭がゆっくり動いて瞼を開き、青い瞳が僕たちの姿を映す。あの頭、被り物じゃなかったのか!
「……なんの用だ」
喉で唸るような低い声に、思わず恐怖を感じて体が逃げようと扉の近くまでじりじりと下がり始める。
「ルルゥ=ローゼン=ヴァンブラッド様の使いで訪ねてきた。ディーヴィ=ディモニアの情報とあなたの管理する組合に協力を頼みたい」
「で、こっちのメリットはなんだ」
「ヴァンブラッド家とディモニア家から組合の今後の支援。それとこちらが管理している流通の一部の独占販売権。契約書もある」
「こっちの状況を知ってたみたいにえらく手が早いな」
「幼馴染みの仇を討ちたがっていると聞いた。力を貸す、だから力を貸してほしい」
「……。優秀な諜報を雇っているみたいでなによりだな」
怒っているのか笑っているのか区別のつかない顔で獅子はふんと鼻を鳴らした。
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