【対面④】
アンダカさんの怒鳴り声に全員が視線を向ける。サティナ様側の壁は力任せに殴られたせいで大きくへこみ、拳を叩きつけたままのアンダカさんがルルゥさんを睨みつけていた。
「名のある吸血鬼族だろうが無礼は許さねえ!」
カブラたちがアンダカさんの声に反応して腰の武器を片手に駆け出していき、サティナ様を守るようにソファーを囲む。
「行こうぜ」
鎧越しにわかるくらいニヤニヤしているオルコさんの手招きに、僕とロムは顔を見合わせたあと大人しくついていくことにした。
「……あら、カル様。どうぞこちらへ」
ソファーに近づいていくとルルゥさんとばっちり目が合い、怖い顔の人に怒鳴られたとは思えないほど穏やかにソファーに促される。
オルコさんとネーロさんは二人の中間に立ち、僕を指差してひそひそニヤニヤとなにか喋っている。おい!絶対よくないことだろ!
「……声を荒げてしまったことは謝罪する。が、納得できない」
「納得できる、できないのお話ではなくのむか、のまないかの交換条件です。ヴァンブラッド家の力を貸すというのはそういうことです」
「条件っていうのはなんだ!サティナ様が不利になるようなことなのか!」
サティナ様の座るソファーの後ろから怒鳴ったカブラの圧に僕は体がびくっとした。まるで衝撃波だ。カブラの声量でこれならアンダカさんのさっきの声量だと……うわ、考えたくもない。
「落ち着きなさい、カブラ。不利な条件なんて出されていません。わたしがヴァンブラッド家へ嫁ぐのが条件というだけですよ」
「っな!な!ふざけ!はあっ!?」
「ディモニア家の次期当主が亡くなっているので、婚姻契約を結ぶならわたしがヴァンブラッド家に嫁ぐしかないでしょう」
「なにも契約なら婚姻じゃなくともいいでしょう!」
「資産も土地も地位も持っている相手に種族内の揉め事で力を借りるんです。それにディーヴィを処罰したあとの悪魔族は不安定で、必ずと言っていいほど面倒事が起きるでしょう。その交換条件としての婚姻契約なら妥当です」
「……ディーヴィを処罰し、サティナ様が当主になれば夫であるヴァンブラッド家の方がここを治める。それは統治権をヴァンブラッド家に渡すことになるんじゃないのか」
「お話を遮って申し訳ないのですが、その件は処罰後に交渉してください。私に条件を決める権利はございませんので」
にこりと笑うルルゥさんにアンダカさんは不愉快な顔をしながら小さくチッと舌を鳴らした。サティナ様は特に表情変わらずソファーからゆっくりと立ち上がる。
「わかりました。で、これからどうされますか?」
「はい。私の側近が現状をヴァンブラッド家に伝え、ディーヴィ様の軍勢を探っています。側近が戻り次第お伝えいたしますので、行動できるように準備をお願いいたします」
「では、こちらはこちらで進めさせていただきます」
サティナ様が研究室のような部屋から奥の扉に消えていき、アンダカさんとカブラたちは後に続いて扉に入っていく。残りの悪魔族は扉の前に並んで腕を組んでこっちを怖い顔で睨みつけている。
オルコさんとネーロは早々に話し合いの場を離れて高級そうなグラスに高級そうなビンの中身を注いで飲んでいた。まだまだ不機嫌なメイちゃんをからかいながら二人は楽しそうにしている。種族が違うけど自由気ままなのは同じなんだなぁ。
「我が主、そろそろです」
マグダに耳打ちされたルルゥさんが僕の手を握ってソファーから立ち上がった。
「カル様。一緒に外に出ましょうか」
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