【対面②】
マグダに抱えられていたペティちゃんを鎧の人が受け取って柔らかそうなソファーに寝かせると、メイちゃんが毛布や飲み物を用意し始めた。
ルルゥさんは奥にあるソファーとローテーブルに案内され、サティナ様の後ろには悪魔族の特に強そうな男性が、ルルゥさんの後ろにはマグダが立って互いに向かい合っている。
僕は再びロムを渡されて、ルルゥさんから離れたところに待機させられていた。
「やぁロム。無事に逃げ出せたんだね」
「っ!びっくりした……」
「どもっす。ヴァンブラッド家の方々がダヴィル様を訪ねてなければ危なかったっすね」
音もなく隣に来ていた猫耳の人に驚いて距離をとると、逆側にいた鎧にぶつかりそうになった。
正面には他の悪魔族の男性がなにか話しながらこっちを見ていて、両隣には猫耳と鎧。これ……やんわり囲まれている気がする。
「やぁ初めまして、ボクは魔神種の戦獣族ネーロ。君は?」
さらっと流した黒髪に生える猫耳と切れ長の青い瞳、肌を見せない全身黒色の服が体のシャープさを際立たせている。一言でいうなら美青年だ。
ロムが入っているぬいぐるみにどことなく似ている気がする。黒猫で青い瞳……耳は欠けてないし、爪も赤くないみたいだけど全体的に似ている。
「僕はカルです。ルルゥ=ローゼン=ヴァンブラッド様の従者です」
「種族は?」
人間だってことは言わないほうがいいとわかっている。けど、こういうときなんて返事したらいいのか……。
ふいに隣からガチャガチャ音がして横を見ると、気まずそうに黙っている僕に鎧の人が屈んで目線を合わせてきた。
「話したくないなら別にいいぜ。言えない事情か契約でもあるんだろう。ヴァンブラッド家の従者ってだけで今は信用できるしな」
鎧の中から響くようにドスの効いた声がする。僕の聞き間違いじゃなければ中身は恐らく女性だろう。
大きい女性は魔神様で経験済みなので、ここにもそういう人もいるんだなぁくらいの感じでいこう。
「名はオルコだ。ディーヴィを殺すまではよろしくな」
「ボクは元々ダヴァラ様専属の護衛で、オルコはダヴィル様専属の護衛。どっちもあっさり死んだけど、ボクらは主従契約してないから今はサティナ様の護衛中ー」
「若造が……口の利き方に気をつけろ」
悪魔族の男性の一人がネーロさんに詰め寄った。ここにいる悪魔族の人達はサティナ様以外は全員肌が濃い紫色で、この誰よりも怖い顔をしている人は目から口にかけて大きな傷がある。
他の人も大なり小なり傷はあるけど、この人の傷は特に目立つ。
「お二人が亡くなられた今はサティナ様だけが我々の希望だ。舐めた態度でここにいるつもりなら叩きのめしてやる」
「ディーヴィが憎いのはボクも同じだよ。不自由のない暮らしを失ったんだから」
「カブラもネーロもやめときな。やるならディモニア家が安定してからにしろ」
あの、頼むから僕を囲んでギスギスしないでほしい。心臓に悪い。
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