【村③】
メイちゃんがぐわっと両手を上げると、さっきまでこちらを遠巻きに見ていた男達や、洗濯物の女の人、眠っていたはずのお婆さんが一斉に飛びかかってきた。
「うわあ!!」
「大丈夫ですよ。カル様は私の近くにいてくださいね」
怖くなって足が勝手に逃げようとしたけど、ルルゥさんに腕を優しく引かれて近くの民家の下に移動させられた。
「マグダの巻き添えになってはいけませんので」
地面や土壁を蹴り、宙を飛び、虚ろな顔で飛びかかってくる人達がいてもマグダはメイちゃんをじっと見ていた。
飛びかかってきた人達がマグダに掴みかかったかと思うと、頭部や胴体から虫の足に似た金属のトゲが飛び出し、マグダに突き刺さる。
目玉をギョロつかせて、必死にマグダへ爪や歯を立てる人達は腕が捻れようが、顔が地面に擦れていようがお構い無しだ。
あれは絶対人じゃない!!いや、この世界だとあれが普通なのか?え、わからなくなってきた……。
「ああ、やっと思い出した。悪魔族には邪神種の技術を学んだ双子のドールメイカーとパペッティアがいるらしいな」
「……そのトゲには痺れ毒を仕込んであります。誰からそのことを聞いたのか、貴女が倒れてからあとでゆっくり聞かせてもらいますよ」
「毒?そんなもの私に効くわけがないだろう」
その場にとどまったまま話していたマグダが辺りをぐるっと見回したあと、からまった人達を体にくっつけた状態で、僕達とは逆方向に歩いていく。
「え?どこに行くんだろう?というよりマグダさん色々と大丈夫なんですか?」
「ふふ、私のとても心強い自慢の側近です。待っている間によろしければこれをどうぞ」
どこからか取り出した可愛らしい布の包みに入っているのは、白いつるんとした一口大の豆のようなものだった。……多分これ、あれだな。
「まともにお食事ができていませんからね。食べられるものを召し上がってください」
「ありがとうございます…」
食べ物を見たことで戻ってきた空腹感と、これの正体を聞いたときの記憶で複雑な気分だったけど、無心で口に入れてしまえばなんてことはない。
口の中に広がるミルク風味を味わいながら待っていると、遠くからマグダが誰かをぶら下げながら戻ってきた。
首根っこを掴まれて脱力している人はメイちゃんと似た肌の色で、頭に大きな羊の帽子を被っている。
「ペティ!!」
「隠れてこそこそしていたからな。こいつが片割れだろう」
「やめて!離して!」
「サティナ様へ言伝てをしろ。私がどれほど強くて、主がどなたなのかをさっさと伝えろ」
帽子の女の子をぷらぷら揺らしながら言うマグダは血も涙もない悪魔のように見えた。
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