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主人公は僕じゃない  作者: きゃんゆう
第一章 夜の国
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【村②】


小さい村だと言っていたけど、上空から見えるのは僕のいた村よりもはるかに大きな村で、高い塀のようなもので囲まれた中にかなりの数の家が建っている。


真ん中にあるのは多分広場かなにかで、一際明るくお店っぽいものも見える。家の屋根で見えづらいけど村人があちこちで歩いていて、活気があるように見えた。


あまりに普通すぎて、実際に襲撃されてなかったら反乱なんてないんじゃないかと疑ってしまう。


「私が微かに感じる程度の守護結界が村の端にあります。主、サティナ様にはそれなりの配下がついているようです」

「ロム様。配下の方が守っているとのことでしたので、サティナ様への取り次ぎをお願いできますか」

「オレっすか?」

「知らない者が事情を説明するよりも、見知った者が説明する方が話が早いのです。初めの挨拶はさせていただきますので、そのあとはよろしくお願いいたします」

「説明うまくないっすよ」

「大丈夫ですよ。マグダ、頼みます」


頷いたマグダが急降下し、僕は視界の急落下に『ひぇ……』と喉から情けない声が出た。保護されていても感覚までは守ってくれないらしい。


塀の近くのオレンジ色の屋根を目掛けて垂直に降下し、多少の砂ぼこりを撒き散らしながらものの数秒で地面に降り立った。


「うっわ!なになに!?びっくりしたぁ!」


着地したところには普通の土壁の民家が並んでいて、洗濯物を飛ばされないよう抱えて驚く女の人や、瓶を片手にこっちを指差して話す男達、ゆりかごに似たイスで眠るお婆さんがいた。


みんな肌が薄紫色をしていて、人によっては小さく捻れた角があったり、白目の部分が黒かったりと明らかに見た目が変わっている。


屋根の下にいた女の子は他の人と違って、肌が濃い紫色で瞳がピンク色をしていてすごく可愛い。いきなり上から降ってきた僕達にすごく驚いたのか、手に持っていたらしいぬいぐるみが足元にポトンと落ちている。


「上から事前の挨拶もなしに申し訳ございません。私はヴァンブラッド家の長女、ルルゥ=ローゼン=ヴァンブラッドと申します。サティナ=ディモニア様にご挨拶と、ディーヴィ=ディモニア様の襲撃に関してお話がございます」

「え?いや、え?ちょっとなになに?サティナ様?ディーヴィ様?なんの話?」


そんな混乱している女の子にルルゥさんはにこやかに挨拶した。いや……そんなこと急に言われても僕みたいに余計混乱するだけじゃないかな。


この辺りにいそうというだけで、その子がサティナ様を知っているとも限らないし。無関係っぽそうだけどなぁ。


「私達をお疑いになるのも無理はありません。ですからサティナ様のお知り合いに来ていただいています」

「……メイちゃんやっほー。どうもっすー」


僕の持っていたぬいぐるみを抜き取って、ルルゥさんが女の子の前に持ち上げるとロムが片手を上げて軽く挨拶した。


僕の予想に反して、不安そうにきょろきょろしていたメイという女の子がロムの姿を見た途端、がらりと表情を変えた。さっきまでの可愛い困り顔の女の子じゃなく、こっちへの威嚇と敵意が剥き出しの状態だ。


「ロムロロ……サティナ様のことを裏切るだけじゃ足りず、敵を招き入れるなんて……」

「いや!ちょっと待って!裏切ってないっす!主従契約はディーヴィ様に切られたんすよ!」

「お前の話は死んでから聞いてあげる。お前の連れてきた者が本当のヴァンブラッド家なのか何者かが騙しているのか私にはわからない。だから貴方達は私に力で証明してください」


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