【解放②】
「姫様、申し訳ございません。ディーヴィを逃がしてしまいました」
「いいんですよ。貴方が無事だったことがなによりも大事です。なにがあったのですか」
髪も服も乱れのないスチュワードだが、表情だけは疲れきった感じだ。あんな強そうなドラゴンでも相手を逃がすことあるんだなぁ。
「ディーヴィの配下には厄介な種族が集まっているようです。私の前に現れたのはディーヴィの配下の悪魔族、悪魔族と同数ほどの獣族、少数でしたが命のないものを操る幻霊族、対象を混乱させる魔獣族でした。悪魔族と獣族の一部は操られておりましたので、ご指示をいただきたく急遽撤退いたしました」
「幻霊族?貴様の仲間ではないだろうな」
マグダとスチュワードに刺すような視線を向けられた男は今にも哭きそうな表情で両手を上げた。
「ちょ!種族全部が仲間なわけないじゃないっすか!オレはディーヴィ様の配下に捕まったとき『次はヴァンブラッドを潰す』って話を聞いたぐらいなんで!」
「この方のお話ではサティナ=ディモニア様がまだどこかにいらっしゃるそうなので、まずはサティナ様に会いに行きましょう」
「姫様、この幻霊はどうしましょうか」
「あ!オレはロムロロって名前っす!気軽にロムでいっすよ!」
にこにこ笑顔のロムを見たルルゥさんはぬいぐるみから繋がっていた鎖を外し、ぬいぐるみを僕にそっと持たせてきた。
「解放してさしあげたのであとはお好きにどうぞ、というのは薄情かと思いますので、ロム様さえよければご一緒にサティナ様を探しましょう」
「いやー、お嬢さんは話が早くて助かるっす!」
「スチュワード、貴方はヴァンブラッド家にディモニア家の現状を伝えてきてください。トゥイーニーと合流したあとはディーヴィ様の動向を確認するように。マグダは引き続き私とカル様の護衛をお願いします」
ロムを引き裂かんばかりの表情で見ていたスチュワードは、ルルゥさんの言葉に綺麗に一礼して颯爽と窓から飛び降りた。
それを見送ったルルゥさんは近くに崩れ落ちていた一冊の大きめの薄い本をゆっくりと手にする。
表紙を確認したあと、その本を軽く撫でて床に置くと空中に奇妙な絵が浮かび上がった。
「今、私たちがいるのはこの辺りです。この地図によると小さな村が七つ。ロム様、サティナ様が隠れるとしたらどの村になりますか」
「恐らくあんまり遠くへは行けないっすから端の村は違いますね。中央の村は武器庫と傭兵舎があるんで違うとして、山の近くはすぐ追われる可能性があるから……この中央寄りの村かもしれないっす」
ロムは奇妙な絵にしか見えない地図の、下の方の小さい模様を指差している。
あー、なるほど!この辺りのモヤモヤは山になってて、モヤモヤのところにある尖ったなにかがこの城で、それぞれの模様が村なんだ!
「あとは向かいながら考えましょう。ロム様はぬいぐるみの中へどうぞ。マグダ、お願いします」
「もちろんです、我が主」
「ぐっえ!」
片手でルルゥさんを大切に抱え上げ、僕を荷物のように小脇に抱えてマグダもスチュワードみたいに窓から飛び降りた。
ぬいぐるみからロムの『大変すねぇ……』という哀れみの言葉が聞こえたが、僕の口から出たのは呻き声だけだった。
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