【入城】
広大な森を猛スピードで運ばれていると、途中から森の様子が一気に変わった。さっきまでいたところだと森の色は深い緑と青みがかった緑だったけど、こっちは濃い灰色と黄緑色で少し目に悪い。
更に森を飛び、ようやく森の終わりが見えてきたとき、遥か先に険しい山々とその頂点に建つ大きな城が見えた。
「あれがディモニア家の城ですか。主、人間に保護をお願いいたします」
「ええ。カル様、もう少しだけ速く飛びますので潰れないよう保護をかけますね」
「は、はい!」
怖いことを言いながら僕の肩にぽんっと優しくルルゥさんが触れると、淡く光るなにかが全身に広がる。
それをマグダが確認するとボッという音と共に周りの風景が流れて溶けた。また驚いて大声を出しそうになったが、よく見てみると本当に溶けてしまったわけではなく、速すぎて僕の目には風景が追えていないだけみたいだった。
「こちらはあちこちに町があるのですね。一際大きなあの町を中心にしていて、職種と種族で分けている感じでしょうか」
「ヴァンブラッド家は町を広く大きくし、管理する町の数を少なくしているのに対して、ディモニア家は狭く小さい町を多く置いていますね」
ルルゥさんとマグダにはなにが見えているんだろうか。僕には色とりどりの線が後ろに流れている状態なんだけど。
「ディモニア家の次男坊が反逆したはずですが、町に動揺は見られません」
「代々悪魔族は村に直接関わらない為、配下の者が管理していると聞きます。配下の者への連絡が途絶えているのか、そもそもディーヴィ様の配下の者か……まだなんとも言えませんね」
「それはこれから調べましょう。もう着きますので我が主と人間は私から離れぬようにしてください」
マグダがピタリと止まると、流れていた風景が地面から程遠い山の上とあの城に変わった。軽く話していた程度の時間であんな遥か先にあった城がもう目の前にある。
ルルゥさんといた城の数倍は大きく、全体的に歪んでいて薄暗い。城の中もその周辺も誰一人いないんじゃないかと思うくらい静かだ。
「気配がありません。城の警備もいないので中に入ります」
そう言うとマグダは立派な門も扉も無視して中央の一際立派な建物まで移動し、開いていた窓から侵入した。
そこはかなりの規模の大広間で、中央に上の階に向かう大きな階段とあちこちに歪んだどこか行きの扉がある。
「……これはどういうことだ」
その広間にはそこそこの人数の使用人や武装した兵士がいて、使用人が絨毯をほうきで掃いていたり階段を拭いたりしながら談笑し、兵士は見回りのルートについて冗談混じりに楽しげに話している。
マグダが驚くのも無理はない。
その誰一人として窓から中央に降り立った僕達に気づく人はいなくて、まるで僕達が透明人間になってしまったみたいだった。
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