【傲慢②】
ディーヴィを見つめていたルルゥさんの表情が微笑みから不信感に変わる。スチュワードはなにかマグダにアイコンタクトし、マグダもそれに対して微かに頷いた。
「ディモニア家がない、とはどういう意味ですかな。なにか不慮の事故でもありましたか」
「オヤジもクソみてぇな身内も役立たず共もぜーんぶまとめて俺が破壊した。ディモニア家が管理していた領地は今や全て俺のモンだ」
「貴様にそのようなことができるとは思わんが」
明らかに馬鹿にした言葉にディーヴィは苛立ち、足下の大きい残骸をこっちに向かって蹴り飛ばした。
扉だったものは途中で砕けて無数の破片となってマグダとスチュワードに飛んだが、二人はあっさり払い落とす。ちなみに僕はいつの間にかルルゥさんに引っ張られて反対側のソファーに座っていた。
「まあいい……ディモニアが終わったから次はヴァンブラッドだ。まずはお前からだな」
「姫様、どうされますかな。害のある相手にございますので、ここで殺してしまってもよろしいですか」
スチュワードの言葉に一瞬悩んだルルゥさんは仕方ないと判断したのか軽く頷いた。
頷いたのを確認するとマグダは僕とルルゥさんを抱え、心の準備をする間もなく後ろの壁を突き破り、翼もないのに星の煌めく空へと飛び上がった。
「うっわあああ!」
「うるさい。口を閉じていろ、発声するな。……我が主、このままディモニア家に向かわれますか?」
「ええ、追放同然の身ですからヴァンブラッド家へは戻れないでしょう。ディモニア家の方々がどうなったのか確認する必要もあります」
「あのままスチュワードさんを放っておいて大丈夫なんですか!?」
「二度目だ、うるさいぞ貴様。人間ごときが心配するなど馬鹿らしい」
滞在していた城に背を向けてマグダが空を移動し始めると、急に城がガラガラ、バキバキと大きな音を立てて崩れていく。
土煙と瓦礫の中、僕達がいたところ辺りから巨大な生き物が現れた。灰色に鈍く輝く全身の鱗、背中から生えている一対の翼は空を切り裂けそうなくらい攻撃的で、体と同じ長さの尾は威嚇しているのか地面を叩いている。
空気を震わせる咆哮から追われるようなかたちでマグダは飛び去ると、その生き物が遠くなっていき、しばらくすると広大な森しか見えなくなってしまった。
「……あれは、なんですか……あんな生き物が、城にいたんですか」
風が強くて呼吸がしづらく、衝撃的なのもあって息が絶え絶えになる。
「いえ、あれはスチュワードですよ。彼は魔神種の純粋な竜族である魔竜ですから」
「……そう、ですか」
ルルゥさんが顔の回りに指でくるんと円を書くと呼吸はしやすくなったが、いろいろ考えすぎて言葉が出てこなくなってしまった。
そうか……あの人、すごい人だったのか。
.