【紫と黄】
ノックされた扉に近づき、マグダがスチュワードを招き入れると、その後ろからここにいる誰よりも背の高い女性が入ってきた。
僕の身長だと女性の胸の下までしかなく、トゥイーニーさんだとだいたい二人分だろうか。美しい女性というよりも強い女性という感じで、瞳も髪も服も紫と黄色の二色で色彩の暴力がすごい。
その女性が勢揃いしているみんなを見回すと、みんなは一斉に膝をついた。
「このようなところにお呼び立てして申し訳ございませんが、どうかお力添えをお願いいたします」
「ふゥん、ずーっと前にこっちが連れてきたのとは別種だねェ。世界を探ってみたけどアンタしかいないみたいだし、死んだ形跡もない。アンタ、どうやってここに来たか覚えてる?」
「え、えっと…僕は村にいて、なにかわからないまま体が炭みたいになって、意識がなくなるときに紫色の光が見えた気がします」
ソファーに座っている僕の目を、女性はその高い背を曲げて覗き込んできた。金色に紫の稲妻が走ったように見える瞳には僕が写っていて、少し開いた口の中は真っ暗で歯も舌も見えない。
誰なのか聞きたいけど、女性から感じる謎の強い圧力に静かにして目立ちたくないと本能がいう。
「紫の光ィ?なるほどね、こっちが関係してるのは間違いないけどそれはアタシ様じゃないな……ま、いっか。人間が食ってたのをリスト化しておくから上手に育てなァ」
「なにか理由があって人間をお連れになられたわけではないのですか」
「アタシ様は人間みたいな弱くて育ちにくくてすぐ死ぬ種族は難しくて選ばない。連れてきたとしたらどっちかだろうけどわざわざ聞く気もないねェ」
「私が保護していてもよろしいんでしょうか」
「好きにすりゃあいい。アタシ様はそういうことに干渉しない」
女性がスッと宙を撫でると、なにもなかったはずの手に小さめの本が現れた。それをスチュワードにぽいっと放ると、紫と黄色の女性はさっさと扉から出て帰ってしまった。
まだ膝をついていたみんながようやく体を起こし、スチュワードとマグダが小さな本を確認する。
「あの……さっきの女性は誰なんですか?」
ようやく威圧感がなくなったので、ソファーに座り直したルルゥさんに聞いてみる。どこがとはわからないが、なんとなく怖い人だった。
「あの方はこの世界を創造された三神のうちの一神、魔神様です」
只者ではないと思ってたけどこんなところに頂点の存在が来てたのか!色合いは奇抜だし、いろいろ大きかったし怖かったし、魔神様とやらがあんなんでいいのか。
「ええっ!?魔神様がそんな気安く現れるんですか!?」
「魔神様自体は概念なのでお姿はないのですが、強く望めば様々なお姿で助けてくださるのです。もちろんなんでも助けてくださるわけじゃありませんよ」
僕は僕の世界で神様なんて見たことないぞ。姿はないけど姿があるってよくわからないし。
「あの、創造した三神ってあと誰がいるんですか?」
「《夜の国》を主とする種族に加護を与えてくださった魔神様、種族ごとに加護を与えてくださった邪神様、《光の国》を主とする種族に加護を与えてくださった聖霊様が三神となります」
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