明日菜
私は動きをとめる。
「触れられるの嫌いなの?」
私は真央の言葉についきいてしまう。真央はあのいまは元彼?赤木くんと、いつもくっついてたように見えたけど?
真央はふつうにうなずいた。ちなみにさっきの真央の発言で、あわててみんなスマホのチェックしていて、私たちの会話はざわめきに紛れる。
ただ、
ーそんなにみんな怪しいの?
って思うし、たぶん、私のことだよね?
ため息がでそうになる。当事者の私は、なにも言ってないのに、相変わらず、まわりが騒いでる。
おかげで真央と気にせず話せるけど。ちょっとだけ、バスの中を狭く息苦しく感じた。
ー窓を少し開けてるけど。
真央は少し首を傾げる。
「私は苦手かなあ?村上はごめん、わからないけど。小さな頃から手を繋いだりは、苦手だったよ。たぶん自由でいたいのか、よくわからないけど、触れられるのは、苦手かなあ。赤木のは、好きとかじゃなくて、そういうものかな?って漫画とかで思っただけだし」
「好きな人でもないのに?」
気持ち悪くないの?それとも私が潔癖症なだけかな?まわりも真央くらいしかいないよね?
というか、真央は相手が赤木くんだから、ベラベラ喋ってるだけだし?
「まあ、そうだね。そういう流れ的なもんかな?」
サラリと真央は言う。とくになんにも思ってないのかな?私にはわからない感覚だ。
真央が逆にきいてきた。
「明日菜は、スカウトどうするの?」
「どうするのも、なにも?私はいく気ないよ?」
なんかさっき変な返事したけど。ものすごい勢いがあったけど、つい返事したけど。
ーお母さんが断ったら、大丈夫だよね?
まだ私はいろんなことに保護者の許可がいるし?
ー彼氏がいてもいいのなら。
って、村上ならいいって言われたけど。
ーなんか、返事した気持ちになるけど。
東京なんか行く気ないよ?
「村上と手をつなぐ理由がなくなるよ?」
「べつに村上くんと、手をつなぎたいとかいまはないし」
「いまは、ね?」
ダメだ。なんか勝てる気がしない。私は軽く息を吐く。
「どうして真央は村上くんと仲良くなったの?」
「きっかけは、明日菜だよ?」
「えっ?」
さらっと言われて、私は驚いた。真央は真面目な顔で私を見つめてる。
「明日菜がいたから、私は村上に興味がでたんだ。たまたま、いたんだよ?あの日、職員室に部活の鍵を返しに行っただけだよ?すごい偶然だよね?」
もう一度、真央が言う。
「あの日、明日菜を見つけたのは、村上だよ?村上は私より先に明日菜を見つけたんだよ?」
「真央?」
「ね?明日菜?」
「うん?」
「人生はね、ほんとうに、リアルで面白いくらい小説や漫画やドラマみたいな負の連鎖もあるんだけど、ビックリするくらい、逆のこともあるよ?」
「えっ?」
「あの冬の屋上は、きっと、いまの明日菜につらい思い出だと思う。だけどね、明日菜。あの日があるから、村上は明日菜を見つけられたんだ。かならず村上が明日菜を見つけるよ?」
不思議な強い意志を持って真央が言う。
だから、わかった。
ー真央や村上くんが望む未来を。
「かならず村上は、大都会の空でも、真昼の空でも明日菜を見つけるよ?」
見つけたんだよ?
だけど、
ー見つけた、だけ、なんだ。
私の耳に残る、
ー私なら守れる。
あの力強い言葉に、
ー願いをたくしたい、そう思うんだ。
幸せにしてくれるなら、守ってくれるなら、
ーこの手をはなしても、守れるのかな?




