明日菜
冷やかされながら、わたしは、真央が言った、神様のサイコロを思い出した。
お母さんが言ってた気がする。私は男の子たちが苦手で、恋をする気になれない。
ーわからないわよ?人生は。
そう優しい手がなでてくれた。その手にふと、思ったのもたしかなんだ。
ー私の前にもしその命が存在したなら、
私はここにいないよね?
きいたらダメだは、わかって、
ーわからないわよ?人生は。
お母さんにはリアルなんだね?
ー知らないでいたかったなあ。
ただお母さんは、言わなかった。まわりからきいた。だから、理解した。理解したから、
ー身動きとれなくなった。誰も悪くない。誰も望まなかったんだ。その残酷なリアルを。
私の耳に入った雑音は、両親からじゃない。南九州の片田舎ですら、そうだから、いまの世の中は、親子で大変?って思ってた。
ーそれとも南九州の片田舎だから、目立った?
さっきのスカウトの人を思い出す。
ーどうせ目立つなら、とことん目立ちましょう?
そう言うあの人がいう目立ち方は、
ー私なら守れる。
そう言った。不思議な気分に少しだけなる。誰かに守ってもらいたい、は、あんまり無いけど。
ー目立つなら、ムリだから。視線は残酷なんだ。賛否両論、どっちでも。容姿、身体的特徴、人種、ありとあらゆる視線が、目立つなら、
大人は守れない。視線は残酷で、日本は、
ー目は口ほどにものを言う。
し、仕方ないし?私だって、ついみるし?理解するには、数秒いる。たんに見慣れてないだけだ、は理解した。
幼いから理解できないは、間違えてる。し、言ってもムダだし?
私だって見慣れないなら、つい視線いくし?けど、
ーなんだか疲れる。みんな、こんなに見られて育つのかなあ?どうしようもないけど、
ー誰も悪くない。
って思うんだけど、私は博多のビルばかりの空を見上げて思うんだ。
ーキツイな。
誰も悪くないって、理解すると、するほど、
ーため息がでる。
誰かを憎めたら、楽になるのかな?
ーこんな圧倒的大多数相手に?
無意味だよね?そこに性別や時代がくるかは、わからないけど、私はそっち側の考え方になる。
やられたらやり返すは、なかった。たんに人と他人は違うを、納得してた。
ー治んないし。大人たちはわりと言ってた。本当は特効薬はあるんだ。けど儲からないから、開発されないだけだ。
わりと信じてた。が、いまはわかる。
ーなんだ、その嘘⁈言っていいこと、悪いことくらい判断してください。そしてそれを言ってたのは、わりとどうでもいい他人の大人だった。まったく知識はない人たちだった。
あの幼い頃から、空はあまり変わらない。博多駅の空にため息しかない。
ー上をむいて歩こう。
素直に思う。
ーふつうに転ぶから、前をみるか、うつむいて、下をみる。太陽みたら、まぶしいし、
危険だよね?効率よく安全なら下じゃないの?
なんで上なんだろ?
穴掘って下はダメなの?
明るい陽射しに笑いましょう?
星も月も明るいし、わりと土の温度は安定したような?
ただバイクを盗んだらダメは知ってた。つい、だから自転車泥棒増えたのか⁈ってアホなことを考えた。
たぶん数人はいるはず?バイクはダメだけど、自転車ならOK?みたいな人は、絶対にいて、
ー犯罪だよ?
ただいるよなあ?自転車は盗むもの。素直に、
ー犯罪です。よくわからない大人の世界だなあ?だけど、大人がすごく共感したから。そっちに誘導したいんだよね?とは思ってた。
素直に不思議だった。あの歌詞がほんとうにお母さんの世代に、共感されてたなら、もうずーっと同じなんだなあ。
すごく不思議だなあ?
ー時代ってすごいな?たぶん、かなり違う。
岸壁の母って歌に思ってた。ある世代になると泣いてる。けどその子供世代は受け継がない歌かな?
疑問だらけの、あんな気持ちになるんだ。私の住む場所は、土は掘ると水分をふくんでいくから、すごく不思議な気持ちになる。
だってこの土は水分をふくんでる。脱水じゃない。水分があるよね?
生きてる記録かあ。地層。
ー文字ができてからの歴史は信じない。絶対に変になるから。あとの人の都合良く改ざんされるから、って思ってしまうけど。
ー優しい記録の改ざんなら、どうなんだろ?とも思うんだ。怒りじゃないといいなあ。
ー怒りは、みていてキツくなる。たんに、それだけ苦しいなら、もう解放してあげて欲しい。誰のためでなく、自分自身のために、苦しまないでほしい。
だけどわかるんだ。
いちばん疲れた時に、弱ってる時に、人を生きる力に変えるエネルギーは、怒りや憎しみだって。喜びや悲しみより力強い圧倒的なパワーだって。
私も誰かを憎めたら、違うのかなあ?けど憎んでも、どうしょうもないし?私の相手は、もう大多数すぎた。
けどあの幼い自分がいまだよね?
ーお母さんは言わなかったリアル。
を、いまはかんたんにスマホで私は知ってしまう。知ってしまうし、子供達に情報はどうしても共有される。
ーけど、知りたくなかったなあ。
直接、きいたら違うのかなあ?よくわからないなあ。
ただ、なんでこんなに苦しくて仕方ないんだろ?
あの頃と空はなにが変わったんだろ?
南九州の片田舎の土は、いまもサラサラに渇いてるようで、少し掘ったらひんやりしてる。
あの頃と何が変わったのかなあ。
ただひとつだけわかる。
ーお母さんは幼い私には言わなかったし、それでも情報は入った。
そして何人の子がそれを口にするんだろ?
っていまスマホに思うんだ。
大人が思うほどたしかに大人じゃないけど、そこまで子供でもない?のかなあ。
というか、
ー子供でいさせてくれない時代になった。
らしい。
大変かも?
って素直にため息だ。もう少しだけ頑張ってくれたら、リアルでたくさんの悲しみや怒りがあり、法の整備がついていくだろうけど、
ーキツイな。
あの歌はずーっと前からある。が、いまもむかしも、
好きだしよく聴くけど、やらないヤツはやらない。
だよなあ。だし、
ー絶対、自転車泥棒増えた。
バイクは高いが自転車なら許してもらえる、ってバカは昔もいまもいたはずだ。
って思う。
ー朝陽、素直に歌をきいてなさい。ってお姉ちゃんが怒られてた。
お母さんたちの思い出らしい。けど、あれが流行りならずーっと続いてるよね?
ー大変だ。
なんで空がキツイかわかった気もする。ちょっとだけ、下をむきたい、も、いいのかなあ。
博多駅はアスファルトやコンクリートだけど、木や花壇はあるんだ。
やっぱり土は水分をふくんでる。不思議だなあ?しかないかも。
相変わらず、村上くんは後ろからついてくる。たまに、黄原くんに、相変わらず、
ー俺は神城明日菜の彼氏だ。
って棒読みだけど。
ーわからないわよ?人生は。
たしかに、わからなかったよ?
ーついさっきまで。
私をうごかしたのは、
ー怒り、だった。
ビックリしてる。
怒りはなにより時代を動かす。
らしいんだ。ビックリした。私はずーっと怒りたかったのかなあ?
ビックリした。




