スカウト後 春馬 ②
赤木たちがいないけど、目の前にいる異世界人だけのグループのあとから、少し距離をとりながら、俺と黄原は歩いてる。
「俺はともかく、黄原は混じっても.会話通じるんじゃないか?」
って素直にきいたら、
「なんで神城の彼氏のお前が行かないで、俺がいくんだよ?」
「えっ?彼氏って、異世界語はなせるのか?」
「少なくても、彼女とは、通じるだろ?」
「俺、ジェスチャー苦手なんだけど?オーバーリアクションもムリだ」
そもそも返事すら怪しいのが俺だぞ?
「お前、神城のなんだよ?」
黄原があきれた顔で言う。あまりに言うから、もはや、ワンセットで覚えてきた。
条件反射って便利だよなあ?
「俺は神城明日菜の彼氏だ」
彼氏が具体的に、神城に対して、なにをするのかは、わからんねーけど。害虫よけ?虫除けスプレー?
俺は殺虫剤には,ならなくて、いいよなあ。だって、神城が東京行くまでだし。
ー殺虫剤は、よけいなお世話だよな?虫除けで、間に合うだろ?この場合、たぶん彼氏の役目はそれだろ?
俺の人生のお手本みたいな兄貴にも彼女はいないし、兄貴は神城をなんとも思ってないらしいけど。
ー柴原でも、ないよなあ?
兄貴のまわりの異世界人は、
ーうちの異世界人だ。たまに、俺を見て、
「妹がいたら少しは違うのかしら?」
って俺をみていて言うなあ。ただ、俺が女の子だったらとは、いわれた事ないけど。
うちにもうひとり、異世界人がいたら、どうなるんだろ?たしかに、疑問ではある。
ーあれが増えるのか?
目の前にいる異世界人のグループを見る。
「ねえ、ねえ、明日菜?村上を知ったきっかけは、あの屋上?」
って柴原が神城に明るく絡んでる。柴原はもう切り替えたみたいだ。
ー俺と違って神城が南九州の片田舎から、大都市東京にいっても、柴原は神城と続くよなあ。
神城は柴原を真央って、名前で呼んでる。俺にあるかな?下の名前で呼んでるやつ。
黄原も黄原、だしなあ。ファミリーだから、一個覚えてたら、ごまかせるし?
ーべんりだよなあ。
俺はあまり顔と名前が一致しない。というか、覚えられない。
ー覚える気がないんだろ?
って、よく怒られてたけど、洋服や髪型が変わったり、いつもと違う場所であったら、
ーみんな、ほんとうに、わかるのか?
って疑問だけど。神城は福岡でも目立ってるしなあ。
よく気づくよなあ。神城と柴原は、世間ではどっちが美少女なんだ?
兄貴と俺は、外見的には、兄弟ってわかるくらい似てるらしいけど、まったく違うよなあ。
ーまあ、髪型も服も違うけど。
って思うけど。
「うん、屋上にいたら、間違えて、鍵かけられて、野球部の村上くんが気づいてくれたの」
ー助けたの柴原と、あの俺でも苦手な教師だよなあ?あの時、柴原がいてくれて、助かった。
柴原があの時いなかったら、屋上に俺が行って、
ー神城をさらに、怖がらせた?
さっきの、赤木が身勝手な怒りをぶつけようとした時、神城はあきらめた目をしていた。
俺は神城を笑ってみてる柴原に素直に思う。
ーあの時、柴原がいてくれて、よかった。
つくづくそう思う。まあ、あの時は、わかんなかったけど。学校襲撃に備えて、隠語で校内放送かけて、避難訓練ある時代だしなあ。
ー俺はたぶん、災害時に、とっさの判断はできないタイプだ。ついまわりをみるだろう。かならず遅れるだろう。
反射的に動くは、あるかもだけど、すぐに正解を判断して動けるかは、わからない。
ー春馬、常に冷静なやつなんか、絶対にいない。そう頭に叩きいれなさい。そうしたら、判断できる、かも、しれない。
じぃちゃんが言ってた。うっかりお水をこぼしたら、慌ててふくだろ?
転びかけたら、驚いたりドキッとするだろ?同じくらい、喜び泣くだろ?
ー訓練と経験、知識で、冷静なフリはできるけど、冷静な人間は絶対にいない。冷静になる訓練はある。でも24時間365日冷静なら、
ー疲れ果ててる。
だって、苦しみや悲しみが辛すぎると、感情が凍るんだよ?ラッシーがおまえの救いなら、ラッシーは信じてろ?
ーじぃちゃんは、頼むから、先に逝かせてくれ?
もう見たくないから。あの苦しみをじぃちゃんは、もう耐えれない。
ーそう言われたら、どうしようもない。それがじぃちゃんののぞみなら、
いいよ?
先に逝きたい。そう願って、
ー生き続けるしかなかった。死にたくないと逃げたのもたしかなんだ。
神さまは、サイコロをふらない。
その真意はきっと永遠にわからない、だろう。
なんで、俺なんだろ?そう思いながら、生きてきた。死ぬのは嫌だ、そう思いながら、必死で逃げた。ただ毎日が必死で、いつのまにか、感情を失ってた。
だけど、わからないんだよ?春馬。じぃちゃんは、ばあちゃんにであえた。
けど、失って、だけど、目の前にお前がいる。
やっぱり、守りたいと、しあわせになってほしいと、願うんだ。
そして、どうか、わがままを許しくれ?
ーもう、先に逝かせてくれ?
お前はお前の時代を生きていけ?
もう、見たくないんだ。いやなんだ。
ーみんなが先に逝く。じぃちゃんは、いつもおいていかれて、もう、
老いた。
消せない記憶は、幼い頃の方が鮮明で、白黒の記憶は、いまも鮮血みたいに、鮮やかな光景で、
ーいまのじぃちゃんは、もう失いたくない。そう欲張りになったんだ。
ほんとうに、そう願うんだ。
ー先に逝きたい。
けど、
守りたい。だから、矛盾した願いを、呪いを、お前にかけるよ?
優しい頭を撫でてくれる手は、
ー残酷な願いと、それが願いなら、白黒の写真じゃわからない鮮血なら、
残酷だよ?じぃちゃん。
ただ、老いた。消せないくせに、シワだらけの手は、優しいくせに。
シワだらけのくせに、傷ついたら、当たり前に、血を流すんだ。
なあ、じぃちゃん?
あの日の神城を、俺はもう見たくない。
ー見たくない。
素直に、いやだ。
ー僕のために、生きてほしい。
そう泣き叫べたら、違ってた?
いかないで?
それは、きっと、じぃちゃんも、同じだったんだ。
柴原と話をする神城は、穏やかな表情で、
ー柴原すげえ。
って思った。
俺の手は、いまもなにも守れない。幼い頃から、人の気持ちの正解はいつも、わからない。
自分じゃないから、わかんない。
ー私なら守れる。
あの日の屋上すら、柴原にたくした。加納さんは、神城や柴原が住む異世界人。
ー俺はよわいから、素直にたくすけど。
いまの俺には守れない。
し、
ー神城は、なんで黄原じゃないんだ?
俺は、素直に。
ー嫌なんですが⁈
見たくないから、託したのに?
異世界人代表は、やっぱ謎だけど、まあ、虫除けなら、やるさ?
ーいまから虫増える季節じゃね?
だけど。




