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スカウト 明日菜 ①


ーやめなさい!


はっきり響いたその声に、私は驚いた。


だって、いつだって、大人は、誰も助けてくれないんだって、そう思ってた。いつだって、誰かの視線はある。いつだって、


ー逃げられない。


そう思ってた。だって、柴原さんや、彼、すらも動いてくれなかった。


ー柴原さんや村上くんも、子供だった。いくら叫んだって、いつだって、力でねじ伏せてくる。


ただ、


ー大人の言うことをききなさい。


それが正しいと。


考える暇なんか与えないように、受験や勉強やたくさんのルールが説明もなく、押し寄せるから、こなすのに精一杯で、考える暇なんかなく、大人になるんだ。


ただ高校にいって、私は大学は、わからないけど、いずれ働いて、社会にとけこむ。そう思ってたのに。


ううん、さすがにさっき、ネットにながす?そう会話がきこえた時には、背筋がゾワッとした。


そして、柴原さんや視界の片隅で村上くんが、なんか違う雰囲気になった。


いつも冷静なふたりが、私のために怒ってる?


だけど、待って?村上くん⁈


はっきりと変わった雰囲気に、息をのんだとき、


「やめなさい!」


博多駅の喧騒に、私に向けられた、たくさんのスマホを前に、はっきりと、その声が響いた。


ただ、


ーやめなさい。


それは、考える必要もなく犯罪だと。はっきり、言った。芸能人でも、一般人でも関係ない、


ーただの犯す罪だと。


嘲笑うマスコミを、自らやるバカだ。やってることが個人になるなら、立場はかんたんに入れ代わる。それすら、気づかないで、簡単に、


ー人生を狂わす罪を犯す。


嘲笑うマスコミに餌をばら撒く。ほんとうに、笑ってしまえるほど、愚かな世界に、けど、


ーやめなさい。


はっきり、その人は言った。となりで柴原さんが息をのんで、村上くんの怒りが、驚きに変わった。


ーただ、変えた。


たったひとことが、変えた。私が驚いて振り返ると同時に?,


「あなた、芸能界に興味ない⁈」


力強い手が私の手をつかんだ。目の前には、意思の強そうな眼差しをした女性がいた。その力強さに呆気にとられる。


その耳にまた声がきこえてくる。


「すげー!スカウトの瞬間じゃん?」


「いま撮って流したら、絶対バズるぞ?」


…よけいにスマホがふえた。


ーこの人のせいで、よけいに悪目立ちした。そもそも、ききたい。私がなにかやったの?


イライラしてくる。私はただ、みんながたぶんふつうに体験する義務教育の行事に参加してるだけだ。


そりゃあ、私は参加できる環境にあるけど、それはみんな疑問も、もたずにほとんどの子たちが、イヤでも、参加できるって、ううん、強制的に、参加させられる、思う行事かもしれない、そういう行事に私は、参加できた、だけだ。


そうしたら、これなの?南九州の片田舎より、ずーっと、視線が増した。ウンザリしてる。


ーやめなさい。


そのひとことを、そのひとは、言ったくせに、


ーおかげで、よけいに目立ってる。


なんだか、よくわからない感情が胸を満たす。


「すごい?明日菜!やっぱり、すごいじゃん!」


柴原さんが、らしくない、はしゃいだ声を上げて、私にだきついてきた。そうしたら、つられて班の子たちがぐるりと私とスカウトの女性を取り囲み、さわぎだした。


柴原さん以外の女の子たちも、ビョンピョンはねて、黄原くんまで、


「すげー!俺たちも行こうぜ?」


って輪に入ってきた。


私のまわりを結果的に、みんなが囲んだから、知らないスマホから、私は守られたけど、黄原くんは、そばに来てくれたのに、相変わらず彼は,こない。


ー輪の外から、私をみてる。


この場合、どちらが動物園の強化ガラス内にいるんだろ?


私の視線に気がついたのか、


「ーそろそろ行かないと、集合時間に間に合わなくなるぞ?」


って、村上くんは、言ってくれたけど、つぶやくように小さな声は、はしゃいだまわりの声に打ち消される。


「私なら、いまみたいなことがあっても、守ってあげられるわ?繰り返すわよ?それなら、とことん目立ちましょう!あなたなら、スターになれるから!」


戸惑う私にスカウトの人がいう。


とことん目立ちましょう?って、なに?私は、目立ちたくないよ?これ以上。


スターなんか興味がない。芸能界にも興味がない。


でもー?


ー私なら、守ってあげられる。


ほんとうに?


ーやめなさい!


いまもはっきり残る声に、ただ、思うんだ。


ーほんとうに、守ってくれるの?だけど、いま悪目立ちしてるけど、


ー繰り返すわよ?


わかってる。繰り返してきた。だって、私には、どうしようもないんだ。


私の容姿に価値がない場所に行くには、まだ私は子供で、だけど、気軽に親から離れるには、たくさんの危険性を知った子供で、もともと非力な私には、身を守る手段もなくて。


ただ家族を悲しませたくない。そう思ってたけど。


ー繰り返すわよ?


わかってるけど。わかってるけど、どうして?私は目立ちたくない。


ーとことん目立ちましょう!


そんな簡単に言わないで?優しいお姉ちゃんやお母さん、あまり会わないお父さんと、離れちゃうの?


なにより、たくさんあの冬の屋上から、私をさりげなく守ってくれた、あのホタル傘に、不思議な犬のクロックス。たくさんのアシストをくれた彼、村上春馬くんに会えなくなるのに。


彼はー。


「すげーな」


って、一歩、後退りしていた。


それをみて、


ーどうして逃げるの⁈あんなに守ってくれていたのに!かんじんな時に逃げるなら!


ーきちんと、この感情がナニカわかるまで、責任とって?


身勝手な怒りから、つい、彼を指差して言ってた。


「彼氏がいてもいいのなら?」


生まれてからずっと、


ーしかたなんだ。誰も悪くない。どうしようもないんだ。


そう思いながらも、奇異な視線にさらされ続けた理不尽な怒りが、


ーただ、わからないけれど、爆発してた。


あれ?


私、いま、なんてくちにしたの?







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