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加納千夏


ー結婚をしたい。


そうつきあってる相手から、言われて、私は少しだけ考える時間をもらった。


まわりの友人達も結婚はしてるし、結婚をはやくした子たちの子供はもう小学生だ。


毎日忙しいと言いながら、楽しげな彼女たちを、羨ましくないとは、私は言えない。


出産祝いなんかで、あうたびに、いつかこの小さな命の輝きを、私も手にしたいって思ってた。


けど、いまは、正直わからない。私は芸能事務所でマネージャーをしている。私が育てた子たちは、みんな努力し、いまある程度の実力と知名度がある。


私の力だけでなく、うちの事務所が培ってきた信頼やタレント育成能力だろう。


いままでマネージャーをしていた若い俳優が大きな仕事を無事にこなし、あとは別の若いマネージャーにひきついだ。


異性問題的には、いろんな意味であそぶ方だけど、きちんと考える子だから、大丈夫だろう。


新人から育てた彼がどうなるかは、見守っていくが口出す気はない。相談にはのるけど。


ようはその子のマネージャーをおりたことで、彼氏から切り出された。


容姿も年収も問題がない。私が働かなくても、やってはいけるだろう。小さな輝きを宿すためにも、子育てを考えた上でも、いまがその時期だとも思う。


思いながらも、口からでた言葉は、


ー考えたい。


だった。私をよく知る彼はただ頷いたけど、待つ時間は限られてるとも知っている。


彼はモテるし、人生のパートナーとしてなら、家族形態をとりたいという人だ。婚姻にこだわって、そして家族としても私と未来を考えてくれた。


ーありがとう。


そう思ってるけど、ただ、彼と歩む未来がいまの私には、見えない。かと言って、育てるタレントを、いまは持ってない私には、仕事にかけてます、という情熱もない。


もちろん、仕事には、真面目にプライドを持ってこなしているし、人間関係も決してわるくはない。


ー相手的には、わからないけど。


気分転換をかねて、福岡支社の友人にも会いたくて、休みをもらって羽田から福岡にきた。新幹線でもいいけど、できれば福岡の美味しいものをたべたいし、長時間座ってる気力がわかなかった。


いつもは、でないため息がもれる。


ーこのまま、辞めどきかしら?


転職という道と、結婚はなにが違うだろう?結婚したからと言って、安定した生活がおくれるわけじゃない。


むしろ私は一般的な同年代のサラリーマンより、稼ぎはいい。家庭を持つと自由がなくなり、責任だけ増える気もする。


女性の私ですらそう思うから、彼氏が覚悟して言ってくれた言葉だとは、わかっている。


誠実で生真面目で、でも理想が高い彼は、理想が高いからこそ、努力してる人でもあるけど、私にもそうであれ、と望むだろう。


ー疲れそうだ。


かと言って、いまの彼以上の人に、私がいまから先もであえるか?は、わからない。


いまの私に足りないものは、


ーやる気。


だとは、わかる。充実したからこそ、なんか、虚しさを感じるなんて、皮肉ではある。


もっと大スターを私の手で育ててみたい。


うちのプロダクションは、オーディションがあるけれど、いまの子たちは、なにかしら入るために特技や習い事などをしてオーディションをうける。


まっさらな原石はなかなか見れない。うちのプロダクションが人財を育てるために、あまり多くは採用しないという面もあるけど。


私が受け持っていた子も、うちの事務所に、はいるために努力してきた子だ。


成功したいとギラギラした眼差しをしていた。ああいうギラギラもいいけれど、私が育てたいのはー。


「ねぇ?あの子誰だろ?」


「不思議な子だね?修学旅行っぽいけど、タレントの卵かなんかかなあ?」


「写真撮って調べてみる?ネットでこの子誰か知らないですか?って流したらすぐわかるよ?」


「一般人だと犯罪だよ?」


その声につい、


「やめなさい!芸能人でも、許可ないなら、犯罪よ?」


って私は言ってた。


カメラを向けようとした若い子たちをとめた鋭い声に、前を歩いていた修学旅行の一団が振り返る。


その中に、


ーみつけた!


そう思った。


私だけのスターを見つけた。


「ーあなた!芸能界に興味ない⁈」


気がついたら、その子、


ー神城明日菜の小さな手をつかんでいた。


絶対に逃がさない。


そう思った。



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