明日菜と、バス
ーけっきょく、来ちゃった。
私は朝の眩しい太陽に、眉をしかめる。
みんなが楽しみにしている修学旅行で、朝から不機嫌まるだしなのは、たぶん、私くらいだろうなあ。
ー来なければ、よかった。
けど。
やっぱり、気になる。
修学旅行の背表紙に、お姉ちゃんが、やぶりとったのに、残った名前。
ー柴原真央。
そして、
ー村上春馬。
柴原さんは、はった本人だから、わかるけど。
ー村上春馬。
あの裸足の公園でも、ううん、あの真冬の屋上でも、その姿を、一度も、
ー見たことがない。
私のロッカーに、そっと入れられる、
ーホタル傘。
たくさんのアシスト。
なのに、
ーその姿を、一度も見たことがない。
ううん、
私が会いたくないのかな?
もしも、であって、ほかの男子と同じだと感じてしまったら、きっと、
ーホタルのような、儚いやさしい傘すら、うけとれくなる。
きっと、私は、それが、こわいんだ。
いまの私を支えてくれる、あの傘とおなじく、たくさんのアシストが、なくなるから?
不便だから?
こうやって立ってるだけで、まわりから、カシャカシャ音がする。
記念写真とるふりして、きっと私をフレームインさせる。
露骨なのは、となりのバスまえで、私に背を向け自撮り棒で、自分たちを撮ってるふりをしている男子たちだ。
スマホの位置からわかる。
ため息をついていたら、そのカメラと私の間に、誰か立っていた。
逆光でよく見えない。
ーけど、
「なんだよ?村上?邪魔すんな」
自撮り棒の人が言っていった。
ードクン!
私の胸が鼓動をたてる。
えっ?
えっ⁈
混乱しながら、逆光のその人の背中を、みていたら、
「だって、いくら待っても、バスに乗らないじゃないか?そんなにナルシストなのか?違うなら、誰を撮ってんの?先にバスに行っていい?」
「あっ、いや、乗るよ?」
「もたついて、悪かったな」
そう言いながら、自撮り棒が元の長さになり、男子たちは、バスにきえた。
その代わり、柴原さんが声をかけてきた。
「ヤッホー、明日菜。今日もかわいいね!」
柴原さんが、いつものテンションで、笑顔全開だ。
ー彼氏と同じで嬉しいんだろうなあ?
そんなに、あの赤木くんが、いい男だとは、おもわなけど。
いまだに、バカっプルは、現在だ。
バスの車体に、旅行バックを入れるとき、赤木くんが柴原さんに、なんか言ってたけど、彼女は、珍しく無視して、私とバス内に入った、
チラッと見えた、やっぱり逆光だけど、
ー彼、だ。
私の胸が、鼓動をならす。
ー修学旅行が、はじまる。
バスのエンジンがまわりだす。
いよいよ、
ー修学旅行が、始まった。




