春馬とミザール
「痛っ」
って黄原から散々注意されたのに、口の中に鉄の独特においと味がする。
もう、どうしようもないだろ?
バカみたいだ。
ミザールをみながら思う。
だってもう、ミザールなんか使わなくても、次のクレーターなんかは、デジタルガメラが鮮明に映し出すし、データアプリを使えば簡単に、撮影ができる世界だ。
じいちゃんと幼い頃に感動した写真集は、写真じゃなく、リアルとして目に触れちまう。
簡単に目にできる、まるで、自分でも簡単に手にできる世界のように感じるだろう。
…バカみたいだ。
修学旅行中、ずーっと目にしていたのは、怒った顔の神城だけど。
…バカみたいだ。
自分から目を逸らしたかったくせに、だから、柴原とあんなことを賭けにでたのに。
バカみたいだ。
「痛っ!」
また無意識に前歯で下唇を噛んでしまう。
ふと朝旅館でみたニュースを思い出した。海外のニュースで、捨てられた犬が走る飼い主の車を必死になって追いかけていた。
まわりは、かわいそうとかひどいとか、許せないetc。
けど俺の第一印象は、
うちのラッシーは、追いかけてくれるかなあ?
なんかのんきに遊んでそうだ。迎えにくると信じて疑わないような気がする。
ーきっと何回も繰り返してたんだろうなあ。
じゃないと、あんなに必死にならないよ?
って、切なくなり、
うちの愛犬、どうよ?ラッシーは、追いかけて来てくれるのかなあ?
ー彼氏がいてもいいのなら?
って、予想外の言葉で神城は俺や柴馬の想像とは違う選択をしたけど。
柴原は、神さまのサイコロを明日菜がとめた、って笑うけど。
だけど、
「…夏にはいないだろう」
そして、ラッシーは追いかけてきてくれないだろ?
って苦い口の中の血に思ってた。




