春馬
2階の自室にあがると、なぜかため息がでた。
ドサって音がたつほど、ペットに身を投げ出した。
ただ、なんかつかれた。チラッと横になった視界にはいるミザールの望遠鏡。
いまはなかなかみなくなったメーカーで、そのとなりにあるPENTAXの1970式マニュアルカメラと、
ーどっちがふるいんだろ?
ミザールは架台が丈夫な木でできていて、だから、架台が重いくせに、系年齢で安定がむずかしくて、そういう時にふと思ったりする。
ああ、やっぱりいちばんちかい月ですら遠い。
ふとした揺らぎで、ファインダーから見失ってしまう。クレーターどころじゃない。
月そのものを見失ってしまう。だから、ふと、
ー課題は課題なのかなあ?
クイズや、なんかと違うのかなあ。
…なんで俺は安定化をしないんだろう。わざわざそのミザールの架台のあやふやさを、楽しんでしまうんだろ。
足元が軋むたびに、風がふくたびに、計算していくのが楽しくて、小さな宝探しゲームをいつだって楽しくて。
だけどあんな精度じゃ、大都会にまぎれこんだ神城は見つからないのかなあ?
それとも、そんな小さな輝きなんか霞むほど、輝くんだろうか?
ー目立ったら、モグラ叩きにならないか?
ずーっと土にいたらいい?
けど、出る杭は打たれて、けど、まっすぐ打つ必要はないし?
わざとまげるよな?
俺はペットから起き上がり、ミザールに手を触れてみる。
親父がもらったミザールは、もう年代もので、ちょっとだけ、とれないにおいがあるけど。
ーやっぱり架台はこのままでいい。
そう思いながら、
ーなぜか前歯で下唇を噛んでいたんだ。




