息子
ーポテトチップスは買わなかった。
と次男の春馬が言った。
私はちょっと返答に困った。
なぜなら、
ーちょっとだけうれしかった。
いつもなにを考えてるかわからない次男の春馬だからだ。
母親の私よりも義父になついていて、いつだって私の存在って、この子にとって、なんなんだろう?
母親なのにまったく理解してあげらない。そこに親子だけど、生物学的な性差がくるのか?けど、それだと、竜生はある程度の年齢までは、わかりやすかった。
いまは竜生も思春期になり、難しいけど。それでもあの子はまだ?
ただ春馬はまったくわからない。いつだって母親としての自分の、たぶん私の矮小なプライドが勝手に傷ついて、それがこの子には絶対にプラスにならないと思うのに、ただ、義父と楽しそうに遊ぶ姿を遠目にしていた。
私は女だから理解してあげられないのか?
そう思いながら、やっぱり理解できない存在の春馬より、母親失格だと思いながら、
ー竜生と話す方が楽だ。
楽しいというか、楽なんだ。
って思いながら、やっぱり負い目を春馬に感じてしまう。義父が亡くっなった時も人前では、涙や哀しみを見せなかった。
ただあれから、ラッシーがそばにいることが増えていた。
夫がラッシーを飼うと言った時に、
ー誰が世話すると思ってるの?
親父と春馬。
…春馬はやっぱり、夫の子だと思った瞬間だったけど。
なんか、それもどうなの?私の立場は?みたいな?あの名台詞は?って肩透かし的な?
結果的に義父と春馬がほとんどラッシーを育ててる。だからか、ラッシーは少し変わってるけど、穏やかな性格の犬になってる。
たまに春馬がいない昼間とか、私の話相手をしてくれるラッシーは、ムードメーカーの義父が亡くなってから、私の癒しでもある。
ラッシーや、夫が私と春馬のギリギリな何かを支えてくれているとは、わかる。
し、
ー無事に帰ってきた。
帰ってきてくれたし、
ーただいま。
そう言ってくれたし、
ーポテトチップス。
しかも、
ー買わなかった。
そのセルフに、私はつい笑ってしまう。買うか迷ってくれたのかしら?
「なんか珍しいポテトチップスがあったの?」
「明太子味」
「たまに同じ九州だもの、うってるから、気にしなくていいわよ?」
ただ、どうして私がポテトチップス好きだといつまで思ってるのかしら?
と思いながら,
「疲れたでしょう?先にお風呂に入ってなさい」
と私は言った。
とりあえず無事に帰ってきてくれた、ってほっとしていた。
たかが二泊三日の修学旅行に。




