北熊本 春馬
北熊本サービスエリアにバスは順番に到着した。
赤木たちは班から離れて座ってる。赤木は顔がひろいので、
「こういう時、便利だよなあ?赤木みたいなの」
黄原があきれてる。たしかに俺には、できない芸当だよな?
って思う。チラッと視界に入った先についたバスが神城や柴原のクラスのバスだと気づいたけど、それだけー、じゃないな。
「帰りどうするか?だっけ?」
「だから、俺にきくなよ?神城はお前の彼女だろ?」
「俺は神城明日菜の彼氏だ」
「その棒読みどうにかしろよ?」
「俺はは!かっ!みっ!じょうあ!すな、の彼氏だ」
「どこのイントネーションだよ⁈」
黄原がますますあきれる。
「絶対、神城、後悔するだろうなあ?」
ー同感だ。
だから黙ってたら、黄原がまたため息をついた。
「だから、否定しろよ?というか、納得したなら、せめてなんか一言かえしてやれよ?神城には」
「あいうえお作文でいい?」
というか、もうなったけど。あっ?から、確かにつながりはしたな。
ー作文。
あれが会話かはともかく?
って思う。黄原や柴原だとムリだっただけわかるけど。
ー神城すげーな?
ラッシーみたいだ。
「ほら、神城と柴原バスから降りたぞ?チャンスだぞ?」
「チャンスかもだけど、トイレだろう?俺はもうナガレタゴカエルは嫌だぞ?」
「なんだよ?ナガレタゴカエルって」
「カエル界のストーカー」
「たしかにカエルはトイレの壁にいそうじゃあるな?」
雨降りや夜ならケロケロしてるのが、田舎の夏だ。あまりにケロケロしてるから、俺的には、ゲロゲロやヴモー、ニャアじゃなかったら、あまり気にならない自然児だ。
ーウシ様は苦手だ。類似して両生類も苦手だ。卵から苦手で、なぜに小学校は水槽にカエルの卵を飼うのか。
苦手なんですが⁈
夜のトイレの壁とか、ヤモリとか虫の天国では⁈
って半ばあきれて思うけど。
「へんなことでウダウダしてないで、バスからとりあえず降りようぜ?喉乾いたし?」
それもそうだな、トイレに行く必要ないし、女子トイレと違って男子トイレは混まないしな。
最近は男子トイレにもオムツ交換台とかあるし、ベビーチェア便利だし。
そういえば、親父が異世界人と話していたかな?たしか、このまま少子化なら、
ー自分たちはいま子育て世帯で、子供はいるけど、孫は見れないかも?
ーお孫さんがいる家庭を羨ましいと思うのかしら?
って話していた。たしかに兄貴はともかく俺が誰かと結婚なんて、俺自身にも想像つかないしなあ。
ーただ、一応、彼女はできた?
らしいけど。この場合、あってるのかは、わからないけど。
俺は北熊本の空を見上げる。スッキリ高い空。さえぎる人工物はない。
そりゃあ、俺がすむ場所の方がもっと田舎でたぶん空は高いだろうけど。
そもそも、空から高いってなんだよ?だけど。
ー夏に神城がみる空はもう違うだろう。
「ー痛っ!」
「だから、噛むなよ?ー?変だぞ?お前。自傷行為みたいになってないか?」
黄原が心配そうにきいてきた。また無意識に前歯で下唇を噛んでいたらしい。
俺はゆっくり首をふる。
「たまたまだよ?クセにならないように気をつける」
「気をつけても治らないのがクセだぞ?」
俺は黙ってバスから降りる。
ーさて?どう話しかけるか?神城ってなんであんなに目立つんだ?
さすがにトイレにスマホないよな?
いや、ありそうだけど。親父がうなってた気もする。もはや苦情言われ放題だな?親父。
俺は将来漠然としてるけど、親父みてたら、なんか、
ー公務員だけには、なりたくない。
たぶん、これ親父から怒られそうだ。親父はそれでも働きがいはある方らしいし。
黄原がそのまま自販機に向かう。そういや、黄原は喉が渇いたって言ってたよな?
チラッと神城と柴原をみる。俺は財布から小銭をだして、炭酸一本と、阿蘇のミネラルウォーターを2本買った。
お土産や自由行動の昼飯以外はあまり使わなかった俺には、わりと余裕がある。
ー異世界人が多めにいれたお金には手をつけてないけど。
レシートとか言わないだろうけど、このままお小遣いは、ダメだよな?
って思いながらペットボトルを3本手にする俺をみて、黄原が笑った。
「行くのか?」
「ああ、これ、預かっといて?」
ミネラルウォーターの一本を黄原に渡す。炭酸と迷ったけど、柴原ならうまくどのパターンでも処理してくれそうだ。
もはや、すっかり、神城絡みなら、柴原たより。
俺の中で変な公式パズル化している。ようは、過程はどうであれ、柴原は総合的なパズルを完成させそうな気がする。
たくさんの数が増えるほど、ジグソーパズルは、一個ずつの組み合わせがとても大切になっていく。何百、何千と組み上げても、どっかのトリックで、惑わせられたら、最後の1ピースが入らない。
ただひたすら形とサイズをよみながら、
ー日本製品ってすげ〜、
イコール、
ー柴原ってすげ〜、
って思う俺がいる。