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鈴木さんちのスズキ  作者: 神楽シオ
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吾輩はスズキである

吾輩はスズキである。名前もスズキである。鈴木家で飼われているのである。スズキ目スズキ亜目スズキ科、全長一メートルになんなんとする吾輩は堂々たるスズキである。

それがなにゆえこの狭き水槽にて観賞魚の如く飼われているのか。事の発端はこの家の主が、鈴木某が原因である。この男、特に釣り好きでもないのに友人に誘われて東京湾に同行し、ビギナーズラックとかなんとか、海洋にて茫洋と思索に耽っていた吾輩を釣り上げてしまったというわけである。何たる不覚。東京湾の哲学者、スズキ界のソクラテスと呼ばれた吾輩が、釣りの何たるかも知らぬドシロウトに釣り上げられてしまうとは。

かくなる上はもはやまな板の上の鯉、いやスズキ、そのまま鈴木家の食卓にあげられて家族そろって食されるものと覚悟していたものを、なぜかこの家の娘が泣いて止めたのである。

「りなちゃん、このお魚、飼いたい!」

かくして吾輩はバター焼きにもムニエルにも刺身にもならず何故か金魚くさい水槽に入れられ、観賞魚よろしくひらひらと回遊する羽目になったというわけだ。

この水槽、以前はかなりの量の金魚が泳いでいたらしく大きさはそれなりにあるがどうにも金魚くさくてかなわぬ。こうも金魚の臭いが染みついているとは、りなちゃんとやらはどれほどの数の金魚を飼っていたものか。金魚は人間の食さない魚と聞く。鈴木家は魚というものはことごとく観賞用と思っておるのかもしれぬ。

といえ金魚用の水槽は吾輩にはあまりにも狭く、息苦しい。できれば鯉の一部がそうであるように庭の池に水を満たし、その中で吾輩を飼ってもらいたい。そう訴えながら最初はあぷあぷしていた吾輩だがどういうわけかこの環境にも段々慣れてきた。生き物というものはどんな環境にも慣れるらしい。りなちゃんが嬉々として与える面妖な食物(金魚の餌らしい)も慣れてしまえば食物に変わりはない。吾輩は適応能力に秀でた個体であるようだ。

しかし自力で餌を取らずに済むという環境は、恐ろしいほど暇である。この世にこれほどの退屈と手持ち無沙汰(吾輩に手は無いが)が存在するとは想像したことがなかった。

そんなわけで吾輩はこの無沙汰を少しでも解消すべく、鈴木家の一員として、鈴木家で見聞きしたことをこの場を借りて語ろうかと思う。

聞いて頂けるだろうか。


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