1. プロローグ
「ペンは剣よりも強し」
19世紀イギリスの小説家・劇作家リットンの言葉だ。
私には、この言葉が使われた当時の時代背景や正確な意味の全てが分かるわけではないが、まぁ大体の意味は察することが出来る。
要するに、何事も暴力で解決するような野蛮な時代は終わり、これからは人の発した言葉が影響力を持つということを言いたかったのだろう。(ちなみに、後から知ったのだが、現在広く伝わっているこの言葉の意味も、本来は誤用らしい。こうして考えてみれば、私の頭の中の知識もかなりいい加減なものだ。)
最も、本や貨幣などのあらゆるものが形を失い、電子化されている現在では、この言葉が持つ本質は変わらなくても、当てはめられる言葉は変わってくるだろう。語呂は最悪だが、今すぐ思いつくもので言うと
「パソコンはタイプライターよりも強し」
「スマホはガラケーよりも強し」
このようにして改めて見ると、私は言語化の能力を授かることは叶わなかったらしい
でも、これほど語彙力が乏しい私でも絶対に断言できることが一つだけある。
これもまた、語呂に加えて、さらには字余りまでもが目に余るものとなっているが、どうかそこは目をつぶって、寛大な心で聞いてほしい。
「海堂蒼は現代社会において何よりも強い」
その日も、いつもと何一つ変わらない朝だった。7時にセットされた目覚ましのアラームで目が覚め、顔を洗い、朝食にはバターを塗った焼いた食パンを一枚だけ食べ、歯を磨く。
軽く肩の下まである長い髪をセットした後、玄関にある立ち鏡の前に立ち、制服に着替える。学校指定のワイシャツとブレザーを着た後、スカートのホックを止め、最後に指定のリボンを付ける。
「行ってきます」
いつものように返事はない。
学校までの道のりは徒歩で向かう。私はこの時間が案外好きだ。
ここまでの話で分かると思うが、私は世間でいうところの女子高生というやつである。
なにかとテレビや雑誌などでフィーチャーされることの多い身分であはあるが、私自身、そのようなきらびやかなイメージとは似ても似つかないと思っている。
世の人達が街中で、「女子高生と聞いて思い浮かべるイメージは何ですか?」とアンケートされたら、かなりの高確率で「明るい」、「青春」、「充実感」などといった、前向きでポジティブな回答をするだろう。恋やファッションに、部活や友人との買い物、さらには文化祭などの学校行事など、具体的な例を挙げればきりがない。
しかし、どうだろう。誰しもがエネルギーに満ち溢れ、アグレッシブに行動し、「青春」という漠然とした二文字のことばに前向きなわけではないのではないか。私のように、一人でいるときに最も充実感をおぼえ、単独行動を愛する人間だって、少数派かもしれないが一定数いるだろう。
毎日決まった時間に目覚め、決まった時間に三食を済まし、しっかりと自分の時間を確保しつつ、決まった時間に床に就く。一見、何の変化や刺激もなく、傍から見れば苦痛にさえ思え、プログラムで組まれたかのようなルーティン化された生活スタイルの様に思える。そこには、さっき言ったようなイベントや、イレギュラーな予定の数々は入らないどころか、入りこむ余地さえない。
そしてこのような生活を続けるためには、もちろん自分自身の努力も欠かせない。ついさっき言ったことを覆すようで申し訳ないが、いくら変化のない暮らしを心がけていようとも、教師から予定外の仕事を頼まれることもあるし、テストなどで赤点を取ってしまえば、補修を受ける羽目になってしまう。だから私は日々の勉強を欠かさないし、効率を何より重視している。
現状の打破・改善のための努力ではなく、現状を維持するための努力とでも
言えばいいだろうか。
とにかく、私にとってこの通学の時間は、一人で考えを巡らせられることのできる有意義な瞬間だということだ。
こんな感じであれこれ考えているうちに、気付いたら学校近くの横断歩道まで来てたらしい。ここを渡ってしまえば、私の通っている公立七葉高校も目と鼻の先だ。
問題はここからだ。信号が青に変わり、少し長めの横断歩道も半分を過ぎようとした瞬間、突如ドンッ、と肩に強い衝撃を受けたと思うと、次の瞬間、私はしりもちをついていた。どうやら、前から走ってくる人に気づかないで、ぶつかってしまったらしい。
先に述べておくと、ここで私は二つの大きなミスを犯していた。
当然一つ目は、注意が散漫になり、前から走ってくる人物に気付かなかったことだ。だがこれにはしっかりとした理由がある(人によっては聞き苦しい言い訳に聞こえるかもしれないが、まぁ落ち着いてほしい)。
私が横断歩道を渡っていたときは、当然、通勤・通学の時間帯であり、歩いている人の数も多かった。その為、人陰に隠れて前から走ってくる人物が視認できなかった。
とは言いつつも、このまま、なぜぶつかってしまった理由を考え続けている暇はない。ましてやここは歩道の真ん中だ。いつ信号が赤になるかもわからない。
私は急いで立ち上がって、相手の元へ向かった。そして、ここから先が私がしでかした二つ目のミスだ。それも大きな。単刀直入に言ってしまうと、ぶつかった相手が今までに私がテレビ越しで見た芸能人や、周りから容姿を褒められていた顔見知りが霞んで見えてしまうほどの美少女だったからだ。思わず同性である女の私が動きを止め、圧倒されてしまうほどに。
長くきめ細やかな黒髪に、二重の大きな目、さらには高くよく通った鼻筋に加え、均整の取れた大きさの口。それぞれの顔のパーツの中で、最高レベルを合わせたような整った顔立ちだった。長い脚に白い肌と、スタイルも完成されていた。
しかし、この場合、あくまでも面食らっているのは私だけであり、さらに驚くことに、ぶつかった相手は自分が倒れているのにも関わらず
「すいません、急いでて周りが見えてなくて。お怪我はありませんか。」
と完璧な対応をして見せた。
私も反射で
「こちらこそすいません。私の方こそ周りが見えてなくて。」と返した。
するとよっぽど急いでたのか、その美少女は最後にもう一度謝罪の言葉を述べると走り去ってしまった。
ここで私はやっと気づく。目の前にスマートフォンが落ちていることに。当然、今ぶつかった彼女のものだろう。私はすぐに彼女を呼び止めようとするが、すでに人ごみの中に彼女の姿は消えており、仕方なく落ちているスマートフォンを拾い上げる。
すると、手帳型のスマホケースに何か名刺のようなものが挟まっているのに気付き、そっとそれを取り出す。そこには明朝体の文字でこのように書かれていた。
「人探し、ペットの捜索、時には浮気調査まで!!お困りでしたらお気軽にお電話を!!!
海堂相談事務所
皆様のご依頼、お待ちしております」
下には電話番号と住所、裏面にはご丁寧に周辺の地図まで記載されている。
どうやら、今日の放課後の予定が一つ確定したらしい。私は一つ大きなため息をついた。
こんにちは。REIです。人生で初めて自作の小説を書きました。
文章やこのサイトの使い方まで、まだまだ稚拙な部分が目立ちますが、ゆっくり投稿していこうと思っていますので、あたたかな目で見てくれたら幸いです。
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それでは、少し不思議な日常をお楽しみに。