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あめあめふれふれ

作者: 猫戸カラス

★もし書けたらシリーズにしたいなぁという気持ちで書いてたので本当に序盤の部分なお話です。



嫌な気配をそこらじゅうから感じる鬱蒼とした森の中で1人の騎士と出会った。


「誰だ……いや、それより早くどこかに身を隠すんだ。今の俺では守ることができない」


目を背けたくなるような重傷の彼はこちらに注意を促す。


それに対して私の第一声は。


「どこなの、ここは」




それがこれから幾度となく行動を共にすることになった彼との出会いだった。








そもそものきっかけはある傘だ。


ぴちゃんと水溜りにはじける音に私はいそいそと買ったばかりの傘を広げた。


透明で2面しか模様がなく、それも幾何学模様というのだろうかなんだか不思議な雰囲気を醸し出しているものでつい買ってしまった。


コレを買ったお店自体が『ファンシーから骨董まで縁を結ぶお店、一期一会』なんてキャッチフレーズのあるお店なのだ、不思議商品に関して考えるだけ無駄である。


ともあれ買った翌日に使えるなんてついている。

朝食前だから軽く庭の散歩にしようとルンルンと土を踏み締める。


親から継いだこの家は庭が広めで気に入っていて、特に小さな社と灯籠がある場所は昔から大好きなところだった。


今日もまたお参りしようと灯籠の間を通った瞬間。

バケツをひっくり返したような土砂降りに周りが見えなくなった。傘を持っていかれないようにとぎゅっと握りしめれば、すぐに元の弱い雨にかわった。


何かあったんだと傘から外を見れば庭には無い生茂る木々。

葉っぱの隙間から見えるは血だらけの人。


その当人と目があったところで先ほどの言葉がようやく口からこぼれたのだ。




「色々、聞きたいこと、説明したいこと、あるが今は、無理だ」


傷に障るのかゆっくりとしゃべる彼に、頭に浮かぶ疑問は一旦押しやり傷をどうするかを必死に考える。


「……止血、いやそれだけじゃもう意味はない。手術、できたとしてすぐに動くことはできない」


職業柄得た知識を思い浮かべては否定していく。

どれも現実的な案はこの状況下で浮かばない……浮かばないはずだった。


ソレは唐突に頭の中を巡り、私の体を動かした。


彼のそば1メートル以内に入るよう近く。


「どうした?今ここは危ない、早く……」


巡る廻る。頭から爪先まであたたかい。

さぁ唱えるだけだ。


「“てんきあめ”」


優しい光が周りに注ぐと変化はわかりやすかった。


「なんだと、なぜ!?」


驚きの声に目を開くと破れている服はともかく体は健康そうに見える。


「どうですか立てますか?体の中も異変はないですか?」


立ち上がり軽く動いても血を吐いたりはないみたいで、外も中も治癒できていることがわかった。


「これは治癒魔法なのか?だがあんな呪文は聞いたことがない」


「多分、私しか使えないものだと思います」


知らないはずなのに、やり方とか効果とか頭に浮かんでくる。

ここがどこかもわからないのに、なんなんだろう。


意味がわからない恐怖に傘を握りしめていると、彼はこの場所が怖いと思ったのだろう。手短に治療の感謝を述べると安全な場所にと案内してくれるようだ。


「さぁこちらに」


この場所から離れるのが良いのかわからないけど、伸ばされた手を自然と掴んでいた。




そこからの彼は凄かった。

なんであんなにひどい怪我を負ったのかというくらい強かった。


「群れのリーダーを倒した際に深傷を負ってしまい」


「こういうのって仲間と一緒じゃないんですか?」


「恥ずかしながら連携を乱されて、怪我をした仲間から離すために動いていたらあのような結果に」


「ずいぶんと危険な森だったんですね」


「いえ、普段は今くらいのがほとんどで大掛かりにはならないのですが、稀に凶暴化した魔獣が現れるんです……貴女の、あぁそういえば名乗ってませんでした!私はガーディ、第一自警団の隊長を勤めています」


「……シグレといいます」


魔獣という存在、ここが日本でないことは決定した。

あとはこの世界のことを知ってからじゃないと。


「ひとまず仲間と合流して、それから少し話をしましょう」


「わかりました」




彼、ガーディさんの仲間とはすぐに合流できた。

彼らの本拠地となる場所がここから近い場所にあるようで、何か言いたげな人たちをガーディさんが黙殺してそこへ向かうこととなった。


着いた場所は思っていたよりも綺麗な建物だった。


「まずは話を、といきたいところですが。先程の治癒をもう一度使っていただけますか?」


「あ、怪我をされた他の皆さんですね」


「ほとんどは通常の処置で足りるんですが、1人具合が悪くなってきた者がいるようで。あとは第三者としてその能力を見ていたい、というのもありますが」


「かまいませんよ」


「助かります。様子がおかしくなったのは戻ってきてからで、突然動くのが辛くなり痛み出したそうで」


応急処置を済ませて重傷者がいなかったから先に移動をしたのだけど、誰か症状を我慢していたのかもしれない。


「ガーベラの様子はどうだ?」


「ガーディ隊長!急に動かなくなってしまい……」


「わかった、治療にこのまま入るから離れろ」


ガーベラさんと思わしき人に付き添っていた女の人がすぐに指示に従う。

さっきも思ったけど、きちんとした隊長さんなんだなこの人。


「ガーベラさん?おそらくですけど、どこか折れてるんじゃないですかね。最初から我慢してましたね?」


わずかに揺れた体、当たりだろう。


「症状は正確に伝えなければダメです。あの場でやらなきゃいけなかったこと、戻ってすぐに出来たこと。その判断を鈍らせてしまいます」


ガーベラさんのみならず周りにいる人も心当たりがある行動をしたことがあるのか皆神妙な面持ちで聞いている。


「あぁ長話してる場合じゃないですね。“てんきあめ”」


あの時と同じように傷が癒えていく。

周りにいる隊員の様子にやはりこの力は異常なんだなと思う。


「にしても欠損だったり、毒や呪い系じゃなくてよかったです」


「シグレさんには治せないと?」


「はい。あくまでも切り離されず、切ったり刺したり折れたりしたものでないと」


「それだけでも充分すぎる能力だがな」


時々口調が変わるのはそっちのが本来のしゃべり方なんだろう。

私としては丁寧にしゃべってくれなくてもいいのだけれど。


「ガーディさん、できれば2人でお話しできればと思うのですが」


この力は使ってしまったけど、詳しく話すなら人は少ない方がいい。ガーディさんが結果的に他の人に話すことになるかもしれないけど。




そのまま通された執務室のような場所で話し合いをした結果、わかったのは3つ。

ここはアジーンという国の北に位置する場所だということ。

人の他にも獣人や魔人など言語を理解する種族が暮らしていること。

先程の魔獣は普通の獣より強く魔力を持っているもので、討伐対象になることが多い。魔獣使いなんて人もいるらしいけど割愛。


私がガーディさんに伝えたのも3つ。

今まで聞いた内容から自分は違う世界の人間であること。

この能力も元の世界ではなかったもので、なぜか使い方が頭に浮かんで使えた。

何故ここにいるのか、どうやってきたのか全くわからないということ。




「なるほど。だいぶ珍妙な事だがないこともない、か」


「信じてもらえるんですか?」


自分でも荒唐無稽なことだと思っているのに。


そんな不安が表面に出ていたのかガーディさんは優しく笑ってわざわざ私のそばで跪いた。


「この世界には多様な種族がいるせいか伝承も至る所に残っていて、異世界について触れられているものもあるんだ。それにその服装や能力はこれまで出会ったことないからな」


「そう、なんですね……」


「いきなりの事で不安も大きいと思うが、シグレさんがいたから俺も仲間も助かった。ありがとう。それに報いるために元の世界への手がかり探しも、この世界での生活の保障もさせてもらう」


きっと私はついている。

初めて出会った人がこんなに優しくて、身元がしっかりしている人だったんだから。


だから、泣くのは今だけにしよう。




「すみません、もう大丈夫です」


「無理をするな……いや、無理をしないでください」


「あはは、気にしないでください。普段通りに喋ってもらえた方がなんか安心します」


「んんっ、それならシグレさんもあまり気を遣わないでくれ。命の恩人だ」


「そんな大それたものじゃないけど……これからお世話になるから、その分の仕事をしたということで」


「それなら精一杯おもてなししないとだな。さぁ、まずは一緒に街へ戻って領主様に会いに行こう」


聞くとガーディさんたち自警団は領主様に雇われている街の守り人らしい。

そこそこ大きい街で、第五自警団まであって交代制で街の平和を守ってるということだから結構しっかりした街かなという印象。


話を聞く限りずいぶん慕われている領主様ってのがひしひし伝わってくるから、ひとまずは生活の保証ができたかな。




「目指せ、この世界の把握。そして元の世界との繋がりを見つけるぞ!」





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